【音場支援システム「AFC Enhance」音像制御システム「AFC Image」使用事例レポート】オーケストラで踊ろう!『裁&判』 可児市文化創造センターala / 岐阜
Japan/Gifu Mar.2024
2024年3月2日と3日、岐阜県 「可児市文化創造センターala」にて「オーケストラで踊ろう!『裁&判』」の公演が行われました。その公演においてヤマハ音場支援システム「AFC Enhance」、音像制御システム「AFC Image」が使用されました。
それらの採用理由やシステム構成、使用感などについて、音響を担当した可児市文化創造センターala 舞台技術課 音響主任 池田 勇人 氏にお話をうかがいました。
大型市民参加事業 第13弾「オーケストラで踊ろう!『裁&判』」
概要
大型市民参加事業 の第13弾として「可児市文化創造センターala」で開催された「オーケストラで踊ろう!『裁&判』」は、市民ダンサーと可児交響楽団オーケストラのコラボレーションによる公演です。振付と演出はダンサー、舞台振付、MV出演などで幅広く活動する康本雅子氏が担当。オーケストラによるクラシックの名曲と市民ダンサーの個性あふれるダンスが融合した唯一無二の世界が展開されました。
オーケストラで踊ろう!『裁&判』
2024年03月2日(土)3日(日)
会場:可児市文化創造センターala 主劇場
プログラム:J.ウィリアムズ/「スターウォーズ」よりメインタイトル、ドヴォルザーク/交響曲第8番 ト長調 作品88、可児市讃歌
振付・演出:康本 雅子、指揮:古谷 誠一、美術:大島 広子、アシスタント:小山 まさし、小倉 笑
演奏:可児交響楽団
出演:公募で集まった市民 50名
公演詳細はこちらをご覧ください。
大型市民参加事業 第13弾オーケストラで踊ろう!『裁&判』
ヤマハ音場支援システム「AFC Enhance」、音像制御システム「AFC Image」について
「AFC Enhance」とは
「AFC Enhance」は、空間の固有の音響特性を活かし、音の響きを豊かにすることで、コンサート、講演会、演劇など多様なシーンで最適な音響空間を提供する音場支援システムです。
主な特長
- 自然な音の残響感や音量感の調整により、用途に応じた細やかな音響環境の制御が可能
- 空間固有の音響特性を生かした音場作りにより、リアルで満足度の高い聴取体験を実現
- 高度な信号処理技術により、多様な音響調整が可能で、さまざまな空間での使用に対応・規模に応じたモデル選択で、小規模から大規模な空間まで幅広くカバー
詳しくは「AFC Enhance」製品ページをご覧ください。
「AFC Image」とは
「AFC Image」は、音像を3次元的にかつ自在に定位・移動させることで、演劇、オペラ、コンサート、インスタレーションなど多彩なシーンでイマーシブな音響演出を可能にするオブジェクトベースの音像制御システムです。
主な特長
- 洗練されたGUI上でのオブジェクト操作や音像サイズ調整により、緻密かつ迅速な音像コントロールが可能
- 特定のスピーカーセットにのみオブジェクト再生を割り当てできるスピーカーゾーニング機能を搭載
- 3Dリバーブシステムを搭載し、それぞれのリスニングエリアにて臨場感ある残響と音場を実現
- DAWやコンソールのパンニング操作を実空間の形状に最適化するレンダリングエリアコンバージョン機能を搭載
詳しくは「AFC Image」製品ページをご覧ください。
オーケストラで踊ろう!『裁&判』+AFC ミニインタビュー
劇場の響きを補いつつ、厳密な定位を実現する「AFC」
可児市文化創造センターala 音響担当 池田勇人氏
今回の公演で「AFC」を使用した理由を教えてください。
池田氏:
今回の公演は「オーケストラで踊ろう」という題名のとおり、オーケストラ演奏とコンテンポラリーダンスを同時に行なうちょっと珍しいものだと思います。この公演を行った「可児市文化創造センターala」主劇場は演劇寄りの設計で響きが短く、音響反射板を使用して残響時間が1.6秒程度です。しかも今回の公演はステージ上でダンスをしますのでオーケストラはステージ前のオーケストラピットに入り、ダンサーの出入りがあるため反射板がほとんど使えません。ダンスの演出で使用した幕飾りも吸音するので、さらに響きが減ってしまいます。とはいえ、オーケストラ演奏は豊かな響きが必要です。
そういった響きが足りない音響状況を改善したいと考え、ヤマハさんのご協力で音場支援システム「AFC Enhance」をお借りしました。また、この会場で毎年開催している恒例のコンサート「森山威男ジャズナイト」で以前お借りした音像制御システム「AFC Image」の印象が良かったため、今回もオーケストラの拡声用として試してみたく使用しました。
音場支援システムの「AFC Enhance」と音像制御システムの「AFC Image」の両方を使ったのですか。
池田氏:
はい。「AFC Enhance」と「AFC Image」を良いところ取りで両方使いました。「AFC Enhance」は劇場の響きを補完するために使い、「AFC Image」は主にオーケストラの音を拡声、つまり補強するために使いました。
具体的な音響システムの構成を教えてください。
池田氏:
「AFC Enhance」に関しては天井から吊ったマイク4本×2列でホールの響きを集音し、その音を使って残響支援を行いました。「AFC Image」はオーケストラピットに37本のマイクを、舞台上にダンサー用のバウンダリーマイクを7本設置し、それらの音をデジタルミキサー「QL5」に入力してバランスを取った後で「AFC Image」に入力して処理を行いました。
「AFC Enhance」と「AFC Image」で処理した出力信号と、MCや影アナなどのAFCを経由しない音声をシグナルプロセッサー「DME7」でルーティングやそれぞれでEQ調整し、パワーアンプに送りました。劇場内のさまざまな場所に設置した計37本のスピーカーで再生したのですが「DME7」がなかったら、スピーカーの兼用が難しくて更にスピーカーを多くせねばならなかったと思います。
オーケストラピットの高さに応じて「AFC Enhance」のプリセットを作成し、iPadでリアルタイムに切り換えて使用
今回の公演ではオーケストラピットを上げた状態と下げた状態の2つのシーンがあるそうですね。
池田氏:
そうなんです。まず、演出のことを話しておかねばなりませんね。この公演ではオーケストラピットが上がっている状態と下がっている状態の2つのパターンがあります。ダンスがないプロローグ部分ではオーケストラピットを上げた状態でオーケストラ演奏をします。市の楽団ですので観客のみなさんに演奏者の顔をみてほしいという考えもあります。ただ、このままではダンスが観えなくなってしまうので、ダンスシーンではオーケストラピットを下げて演奏をします。
「AFC Enhance」は具体的にどのような使い方をしたのですか。
池田氏:
「AFC Enhance」は残響支援が目的なので基本的に常時ONでした。先ほど言いましたようにオーケストラピットが上がっているシーンと下がっているシーンがあり、このふたつで響きがかなり変わります。そのため、それぞれの状況に最適なプリセットを作りました。そしてプリセットや残響の強さをiPadで操作できるように「ProVisionaire」でコントロール画面を作成し、本番中にiPadの画面でリアルタイムにコントロールしました。
iPadでの操作で余談なんですが、今回は「AFC」とは別に信号のルーティングを「DME7」で行いました。サウンドチェックをするためのオシレーターの送りをスピーカー系統毎にON/OFFできるボタンを「ProVisionaire」で作ったのですが、これがとても便利でしたね。プロセッシングだけでなく、サウンドチェックを効率的に行うツールにもなりました。
「AFC Enhance」を使ってみた印象はいかがですか。
池田氏:
とても自然な響きでした。「AFC Enhance」は実際に劇場の響きをマイクで集音して響きを作るので、通常のエフェクトとは比較にならないほどでした。あまりに自然なので「AFC Enhance」のスイッチを切ると逆に違和感を覚えるぐらいでした。
「AFC Enhance」は仕込みの段階で粗調整を行い、その後で細かい調整をしていくのですが、今回は粗調整の段階で「これは良さそうだ」と感じました。最初から「自然で、作られた音ではない感じ」を受け、驚きました。
出演者の反応はどうでしたか。
池田氏:
今回、事前にマエストロに「AFC Enhance」を使用することを相談したのですが、即OKの返事でした。このときに「AFC Enhance」の技術が認められてきているのだと感じました。実際の音づくりについて、オーケストラはマエストロができるだけ練習時間を多くとりたいということで基本的に私にお任せいただきましたが、マエストロを含め音に厳しい音楽家の方々からのクレームが全くありませんでした。これは素晴らしいことだと思います。
「AFC Image」では「3Dリバーブ」を活用して厳密な定位で拡声
次に「AFC Image」の具体的な使い方について教えてください。
池田氏:
オーケストラピットに37本のマイクをセットしました。これは本来ステージ上のダンサーたちにオーケストラの音をモニター返しするためのものですが、今回はそのマイクを使って「AFC Image」で拡声を行いました。主に弦楽器を対象にして、特にオーケストラピットが下がった時に弦楽器の音が客席に届きにくくなる部分を補強しています。
普通のPAではなく「AFC Image」で拡声したのはなぜですか。
池田氏:
通常のPAはLRの2チャンネルのPANでの定位ですが「AFC Image」はオーケストラピット内やステージ上に設置したマイクをすべてオブジェクトとして座標上に正確にプロットできるので、通常のPAより実際の演奏場所に近い場所に正確に音を定位できました。
また「AFC Image」に内蔵された「3Dリバーブ」が使えるのも大きなメリットでした。
「3Dリバーブ」は通常のリバーブとはどうちがうのでしょうか。
池田氏:
今回、楽器を空間に響かせるという目的で「3Dリバーブ」を使用したのですが、「3Dリバーブ」と通常のリバーブとでは、響きの質の次元がちがいますね。デジタルミキサーなどに内蔵されているリバーブはLRの2チャンネル出力ですが、「3Dリバーブ」は再生する全てのスピーカーの設置位置に対して距離の補正と最適な残響とを演算して出力してくれるので、空間が本当に響いているような自然な響きが得られます。響きそのものもきめが細かいですし、音の分離がよく、ツヤがあるというか、音をたたせる印象も加わって、とてもいい効果を得られました。
膨大な入出力を一括コントロールできるオーディオネットワーク「Dante」の圧倒的な利便性
「AFC Enhance」「AFC Image」を活用した本公演では膨大な数のマイクやスピーカー、そして多数のミキサーやプロセッサーなどが使用されました。このような大規模なシステムにおいてオーディオネットワーク「Dante」の果たした役割は大きいのでしょうか。
池田氏:
Danteがなかったらこの公演は事実上不可能でしたね。AFCのシステムはAFCエンジンやデジタルミキサー、プロセッサーにいたるまで全てDanteでの信号のやりとりが前提となっていますので。この劇場はヤマハのデジタルミキサーからNEXOスピーカー用のパワーアンプまでDanteにフル対応の常設音響設備を導入しており、Danteが使用できるネットワークインフラが劇場内の各所にありますので、「AFCをやってみよう」という決断ができました。
Danteの最大のメリットはマイク入力をすぐにAD変換してデジタル伝送できる点だと思います。ステージボックス「Rio3224-D」「Rio1608-D」をマイクの近くに仮設すれば既存のネットワークインフラでシステムを組むことができました。今回はマイクからDante対応のデジタルミキサー「QL5」や「CL5」を通ってAFCエンジンと「DME7」、そしてNEXOのアンプまで全てDanteで伝送しましたので、Danteフル活用でした。
今回使用したスピーカーはNEXOですね
池田氏:
はい。「可児市文化創造センターala」常設のスピーカーシステムはNEXOで構成しています。印象はいいですよ。ポップス、ミュージカル、寄席などいろいろな演目にフラットで使いやすい。あとパワーアンプのプロセッシングがいいのか、スピーカーが壊れないです。
今回、客席だけでなく舞台上の音場支援をしたのですが、下手上手と舞台上部にNEXOの「Plusシリーズ」をお借りして仮設しました。
最後にヤマハに期待することを一言お願いします。
池田氏:
やっぱりヤマハは音響業界のリーディングカンパニーですから、我々音響技術者に寄り添ってくれる面にも期待していますし、今回の「AFC」のような現場のエンジニアでは発想できないような新たな機能もどんどん提案していただきたいです。この両面で期待しています。
本日はお忙しいところありがとうございました。
可児市文化創造センターala
https://www.kpac.or.jp/ala/
*Apple、Appleのロゴ、iPod touchは、米国および他国のApple Inc.の登録商標です。 iPhone、iPadはApple Inc.の商標です。