【導入事例】大阪芸術大学音楽学科 様 / 大阪

Japan/Osaka Sep. 2025

芸術性・技術・社会実装の三位一体の哲学に基づき、実践的な人材育成を推進する大阪芸術大学音楽学科。同大学は50年も前から空間音響にも取り組んでおり、学内には17.4chの立体音響が再生可能な「実験ドーム」を備えています。

このたび同大学にヤマハ デジタルミキシングコンソール「DM7」が導入され、授業やイベントで使用されています。今回は制作発表イベント「Audio Rocket Fes 2025」開催中に訪問し、大阪芸術大学 音楽学科 学科長の高田 耕至 氏と音響技術を指導する加登 匡敏 准教授にお話をうかがいました。

大阪芸術大学 音楽学科 学科長 高田 耕至 氏(写真右)
同 音楽学科 准教授 加登 匡敏 氏(写真左)

「Audio Rocket Fes 2025 ~音楽学科 秋の音楽祭~」とは

大阪芸術大学 音楽学科が主催する「Audio Rocket Fes 2025」は、学生が企画・演奏・制作・音響の全工程を担う実践型作品発表会。20回目の今回はアートホールと実験ドームの2会場を使い2025年9月26–27日の2日間開催されました。

1日目 芸術情報センター 1階 アートホール
2日目 芸術情報センター 地下2階 実験ドーム
「Audio Rocket Fes 2025」メンバーのみなさん

「芸術性・技術・社会実装の三位一体」を掲げる大阪芸術大学 音楽学科

大阪芸術大学 音楽学科について教えてください。

高田氏:
大阪芸術大学 音楽学科は、単に芸術性や技術のみを追求するのではなく、芸術性・技術・社会実装の3つが美しいバランスで三位一体となることを目指しています。少子化の時代において芸術系の大学が学生に選ばれるためには、この3つの要素を避けて通ることはできません。大阪芸術大学は、学生が現場に出た際に即戦力として活躍できるようにアカデミズムと現場で必要な実務能力の両立を推進しています。

大阪芸術大学 音楽学科 学科長 高田 耕至 氏

作曲、演奏といわゆる音響エンジニアが同じ学科で学ぶのはユニークですね。

高田氏:
音楽学科は基礎和声や作曲が必修となっており、技術者も音響技術だけではなく音楽そのものにアプローチできるような人材を育成しています。よく入試面接などで音響技術者などを「裏方」と言う方がいますが「私たち音楽学科ではその言葉は使わない」と伝えます。私たちは作曲者、演奏者、エンジニアは対等であり、共同で作品を創り上げるのだ、と考えています。

学内に立体音響用の施設「実験ドーム」を備えていることに驚きました。

高田氏:
大阪芸術大学音楽学科は初代学科長である故・諸井誠先生の時代から電子音楽や空間音響に取り組んでおり、1968年の音楽学科設立以来50年以上にわたり電子音響音楽の最先端を走り続けてきた歴史があります。

芸術情報センター 地下2階 実験ドーム

即戦力人材養成のため、次世代の標準機「DM7」を導入

今回ヤマハのデジタルミキシングコンソール「DM7」を導入した理由を教えてください。

加登氏:
実践的な教育の観点から、音響の現場で圧倒的なシェアがあるヤマハのミキサー、しかも次世代の標準機となる「DM7」を使えるようにすべきだと考えました。機種選定の当初は「DM7」の発表前だったため他の機種を検討しましたが、96kHz駆動に非対応だったり、予算が合わなかったりと悩んでいたところに「DM7」が発表され、「これは今後主流になるだろう」と直感し、導入を決めました。

大阪芸術大学 音楽学科 准教授 加登 匡敏 氏
デジタルミキシングコンソール「DM7」

I/Oに「Rio1608-D3」が導入されていますね。

加登氏:
見積当初はD2でしたが、その後D3が発売されたので、D2とD3の実機で測定と試聴による比較を行いました。やはりD3のほうが高音質で、特にHAの低ゲイン域からのリニアリティのカーブが滑らかでしたね。クリック刻みでの変化も自然でした。

I/Oラック「Rio1608-D3」

「Audio Rocket Fes 2025」ではFOHの「DM7」を学生が操作

今回取材したイベント、「Audio Rocket Fes 2025」について教えてください。

加登氏:
「Audio Rocket Fes 2025 〜音楽学科 秋の音楽祭〜」は音楽学科の学生たちが学習成果を発揮できる貴重な実践の場です。これは演者だけでなく、企画、音響、レコーディング、舞台転換など、すべて学生が主体となって運営しています。また転換担当の学生が、ピアノ伴奏をするなど、作曲者、演奏者、技術者の境界がないという理念を体現する場でもあります。

実験ドームでは「AFC Image」を使用しイマーシブオーディオの可能性を探求

今回2日目に実験ドームで「AFC Image」を使用した理由を聞かせてください。

高田氏:
大阪芸術大学は設立当初から空間音響に取り組んできましたので、ぜひこの実験ドームでヤマハの最先端イマーシブオーディオを試してみたいと思いました。

シグナルプロセッサー「DME7」を使用した「AFC Image」
「AFC Image Editor」コントロール画面

実際に「AFC Image」を使ってみていかがですか。

加登氏:
私自身も本学音楽学科の出身で、学生時代から立体音響に取り組んできましたので、ヤマハのサンプリングリバーブの実用機「SREV1」が発売された当時からこの分野には非常に興味をもっておりました。それでも「AFC Image」には非常に驚かされました。

中でも、従来のリバーブとはまったく異なる響きを持つ「3Dリバーブ」が特に印象的でしたね。初めて「3Dリバーブ」で音を出した瞬間、これまで聴いたことのないほど豊かで、しかも自然な響きが広がって、本当に驚きました。特にこのドーム空間との相乗効果もあって、音の広がりや包まれ感が際立っていたのかもしれません。

「AFC Image」をどんなところで使用したのですか。

加登氏:
諸井誠先生の電子音楽作品の再生の時と、尺八の生演奏に「AFC Image」の3Dリバーブを使いました。また学生のオリジナル作品については、従来のチャンネルベースの立体音響再生と「AFC Image」 のオブジェクトベースの立体音響を併用しました。

本質を理解したイマーシブ対応人材を輩出していきたい

今後どんなことを学生たちに伝えていきたいかについてお聞かせください。

加登氏:
私が音響を学ぶ生徒たちに伝えたいのは「出さない勇気」です。とくにクラシックは、むやみにPAで押し出さない。音量感、マイキング、そして演奏者が奏でやすいか。そのように音楽そのものへアプローチする視点での音響のオペレーションを学ばせたいと思っています。

これからのイマーシブオーディオにおいても同じで、その音楽が果たしてイマーシブオーディオを求めているのかという点をまず考えなければならないと思っています。音楽学科には作曲を学べる環境も整っています。音楽が求めていないのなら求めている音楽を作ろう。そんな次世代を担う音楽家・音響家たちが育つことを目標に日々指導しています。

高田氏:
音響現場においてはイマーシブオーディオを理解している人材への需要が高まっています。そんな中「大阪芸大の学生は一段抜きんでている」「イマーシブオーディオを本質的に理解している」と評価される人材、単なる流行ではなく、音楽の本質に迫る立体音響ができる人材を育成したいと考えています。

少子化で私学を取り巻く環境は非常に厳しいですが、音楽学科には本気で音楽と音響を学びたいという学生が年々増えています。私たちがこれまで培って来た音と音楽に関する哲学を生かし、今後の音楽文化を支える担い手を育成したいと考えています。

本日はお忙しいところありがとうございました。


大阪芸術大学音楽科 学生ミニインタビュー

伊藤操央(音響チーフ 左端)
上田颯来(録音チーフ 左から2番目)
西村朱馬(録音チーフ補佐 左から3番目)
近藤祐生(舞台転換チーフ 右端)

Audio Rocket Fesでの担当部署と「DM7」を使ってみた感想を聞かせてください。

伊藤さん:
音響チーフを担当しました。以前のミキサーはかなり大きかったのですが、「DM7」はコンパクトで、しかもデュアルモニターで見やすいです。それとカスタムフェーダーに必要とする入力と出力を並べて一覧管理できるので便利です。大学で最初から高性能な卓に触れることができたので、自分の中の基準値が上がり良い経験になっています。

上田さん:
録音チーフを担当しました。録音チームとしては今日の録りがスタートで、この後のオープンキャンパスでの公開を目指して最終音源に仕上げます。「DM7」は授業で使っていますが右上のメニューボタンに主要機能が集約されていて、目的の画面にすぐ飛べるUIが初心者にもやさしくていいです。

西村さん:
僕は録音サブとして、録音の補佐を行いました。僕も「DM7」を授業で触っていますが、実機に触れなくても「DM7 Editor」を使って自宅で事前仕込みができますし、画面レイアウトも本体画面に近い構成なので使いやすいです。

近藤さん:
転換チーフとして舞台上の転換を統括しました。「DM7」は授業でも、今日のような実際のイベントでも実運用できるのがいいです。デュアルモニターなので複数人の授業でも運用もしやすく、一人の作業でも2画面使えて効率的です。それと物理ノブの触感と反応もいいです。「触ったら思った通り動く」感覚があります。

イベント中にお時間いただきありがとうございました。

Yamaha Digital Mixing Console DM7

DM7 Series

様々なシーンに対応できる高い拡張性と柔軟性を備えた革新的なデジタルミキシングコンソール。

Yamaha I/O Rack R Series (AD/DA): 3rd-generation

R Series (AD/DA): 3rd-generation

第3世代のRシリーズDante対応I/Oラック(AD/DA)は、サウンド、信頼性、柔軟性を大幅に向上させ、RIVAGE PMシリーズやDM7シリーズはもちろん、業界標準のCLシリーズやQLシリーズなどのミキシングコンソールを中心とするPAシステムに組み込むことによって可能性をさらに高めます。

Yamaha Signal Processor DME7

DME7

高品位な音響空間を創り出すサウンドシステムデザイナーのための最大256ch入出力(Fs=96kHz時)対応シグナルプロセッサー