【ヤマハイマーシブソリューション「AFC」使用事例レポート】Musical「Under The Mushroom Shade」/ 東京

Japan/Tokyo Jun.2025

2025年6月21日から6月29日まで東京・新宿の小劇場「サンモールスタジオ」において、オリジナルミュージカル『Under The Mushroom Shade』の公演が行われました。その公演において自然な響きを付加するヤマハの音場支援システム「AFC Enhance」とイマーシブな音響演出を可能にする音像制御システム「AFC Image」が使用されました。

採用理由や目指した音響効果、使用感などについて、脚本・演出の白石 朋子 氏、音響の小宮 大輔 氏(SOUND BORN)、音響効果の熊谷 健 氏(THINK AUDIO)にお話をうかがいました。

ミュージカル『Under The Mushroom Shade』

上演期間: 2025年6月21日(土)~6月29日(日)
劇場: サンモールスタジオ(東京都)
脚本・作詞・演出・プロデューサー: 白石朋子
音響: 小宮大輔(SOUND BORN)
音響効果: 熊谷健(THINK AUDIO)

ミュージカル『Under The Mushroom Shade』は「ピーターラビット」の作者ビアトリクス・ポターの生涯をベースにした新作オリジナルミュージカル。19世紀末のロンドンを舞台に、植物や動物のスケッチを愛するヘレン・ポーターの物語が描かれます。

ミュージカル『Under The Mushroom Shade』公式ウェブサイト
https://underthemushroomshade.studio.site/


『Under The Mushroom Shade』における ヤマハAFCシステムについて

AFC Enhanceの主な使用目的

  • 残響の少ない小劇場における自然な響きの補完と、音量感の向上による俳優の喉の負担軽減
  • 生声重視によるワイヤレスマイク非使用と、自然な響きの付加による歌の魅力の引き出し
  • 劇場内の響きの積極的な変化による、セリフと歌の切り替えやシーンごとの空間演出

AFC Imageの主な使用目的

  • 客席全体への音像の立体的配置による、高い没入感を生む音響演出の実現
  • 森の場面における、鳥・虫・川のせせらぎなどの音像の移動による臨場感ある「森の音場」の創出
  • ピアノ演奏時の3D リバーブ使用による、従来のデジタルリバーブより自然な響きの実現

「AFC Enhance」「AFC Image」スピーカー構成、集音マイク構成

FOHスピーカー、サブウーファー、「AFC Enhance」集音用マイク

FOHスピーカーは舞台上部にヤマハ「VXS5」(黄丸)を吊り設置。その左右にサブウーファーNEXO「IDS108-T」を吊り設置(青丸)。「AFC Enhance」用の集音マイクをステージの真上に4本設置(赤丸)

舞台奥吊りスピーカー

舞台奥の左右両端に2台のヤマハ「VXS5」を吊り設置

客席上部吊りスピーカー

客席上部の左右前後の四隅に4台のヤマハ「VXS5」を吊り設置

AFC Enhance(客席上)マイク

客席上部の左右前後の4カ所に「AFC Enhance」集音用マイクを設置
音声卓はヤマハデジタルミキシングコンソール「DM7C」を使用
ミュージカルの伴奏はピアノの生演奏。ヤマハステージピアノ「CP88」を使用

小劇場だからこそ味わえる「生」の感動と、繊細な表現──それを支えてくれたのがヤマハの「AFC」

『Under The Mushroom Shade』脚本・作詞・演出 白石 朋子 氏 インタビュー

私はこれまで、東宝演劇部のプロデューサーとして商業演劇に携わってきました。学生演劇の経験はなく、新卒で東宝に入社していきなり予算規模の大きな演劇に仕事として向き合ってきたのですが、観客としては小劇場の舞台を数多く観ており、俳優のきめ細やかなお芝居やセリフの掛け合いから何かが生まれる瞬間に強く心を動かされてきました。そうした思いから「物作りそのものに徹したい」という気持ちが次第に強くなり、今回初めて脚本・作詞・演出を自ら手がけることに挑戦しました。

題材に選んだのは、『ピーターラビット』の作者、ビアトリクス・ポターの人生です。以前から興味を持っていた題材で、企画書を書いたこともあったのですが、彼女の人生は決して派手なものではないので商業的には難しいと感じていました。それが今回は、商業性に捉われず「本当にやりたいことをやる」というコンセプトでしたので、むしろぴったりだと、迷わずこの題材を選びました。

通し稽古で演出中の白石氏

会場として選んだのは、「サンモールスタジオ」という100席ほどの小劇場です。とにかく観客と舞台の距離が近くて、大劇場に出演されているクラスの俳優さんの「生の声」を直接間近で感じられる──そんな贅沢な体験を観客に味わってもらうことを目指しました。

サンモールスタジオでのステージ

大劇場での公演では豪華なセットや大がかりな演出が魅力ですが、小劇場の魅力は「呼吸の0.1秒のズレ」さえも演技に取り込めるような、非常に繊細な表現にあります。だからこそ、せっかく生声が聴こえる身近な距離感なのに遠く感じてしまうような小劇場のPAの違和感を今回は解消したい。それで音響の熊谷さんと小宮さんに「俳優にワイヤレスマイクは使いたくない、でも小劇場は響きが少ないので、俳優の喉に負荷がかかってしまうかもしれない。そこをなんとか解決したい」とお願いしました。

そこで2人から提案されたのが、ヤマハの「AFCシステム」でした。結果的には「AFC」の導入で、小劇場に自然な響きが加わり、俳優たちからも「響きがいい」「歌いやすい」と好評でした。しかも、ただ響きを足すだけではなく、響きを変化させることで、空間の印象や俳優の心情までも表現できることが分かりました。たとえば冒頭の森のシーンでは、劇場内のいたるところで森の生き物たちの音が動き回っていて、これまで体験したことのないような臨場感と没入感を生み出せたと思います。また大がかりなセットの転換が難しい小劇場においても、響きをドラスティックに変えることで場面を大胆に転換できました。今回この「AFCシステム」を使ってみて、音響による演出の幅がぐっと広がったという実感を持ちました。

この作品では「ストレートプレイとミュージカルの融合」もテーマにしていました。日本では、ミュージカル好きはミュージカル、ストレートプレイ好きはストレートプレイと分断されてしまっている傾向があります。でも私は「ちゃんと芝居が積みあがって、その先が歌になっていく物語」というものを探求してみたかったんです。『Under The Mushroom Shade』では、存分にその研究結果を得ることができたと思っています。


自然な残響から物語を動かす音へ。
「AFC Enhance」+「AFC Image」が拓く新たな演劇音響

『Under The Mushroom Shade』音響担当インタビュー

音響効果担当 熊谷 健 氏(左) 音響担当 小宮 大輔 氏(右)

今回の公演で「AFC Image」「AFC Enhance」を導入した理由を教えてください。

熊谷氏:
プロデューサーの白石さんから「今回は生声を聴かせたいのでワイヤレスマイクは使用したくない。でもここは響きが少ない小劇場なので、俳優が声を張って喉を痛めてしまうかもしれない。それを防ぐために自然な感じで響きを補えないか」という相談がありました。それにはまさにヤマハの音場支援システム「AFC Enhance」が最適解だと考え、ヤマハさんの技術協力もいただきながら導入を決めました。

小宮氏:
私は「AFC Enhance」だけでなく、音像を空間内で立体的に配置できて、それをリアルタイムに動かせる「AFC Image」にも期待しました。我々2人は以前から朗読劇を多く手掛けており、そこではサラウンド音響やイマーシブ音響に取り組んできました。この作品でも立体音響的な表現ができるのではないかと考えていました。

具体的には「AFC Image」「AFC Enhance」をどう使ったのでしょうか。

熊谷氏:
まず「AFC Enhance」で小劇場特有の少ない残響を補いつつ、PA的な増幅に頼らずに生声を明瞭に舞台上や客席に届けるサウンドプランを行いました。それに加えて、シーンに応じて「AFC Enhance」の響きの量を積極的に変化させることで、場面転換や空間の変化を演出するためにも使いました。

今回、スピーカーはヤマハさんの「VXS5」を選びました。このスピーカーはヤマハさんの試聴ルームで聴いたのですが、PAを感じさせない「AFC Enhance」に合うと思いました。自然な音場で観客のみなさんが没入するには、スピーカーは存在感のないほうが良く、小劇場ではどうしてもスピーカーと観客との距離が近くなってしまいますので、今回の公演にはこのスピーカーが「AFC Enhance」の自然さを引き立てたと思います。

「響きの量を積極的にコントロールする」とはどういうことですか。

熊谷氏:
今回「AFC Enhance」の初期反射と後部残響を「DM7C」の別フェーダーに立ち上げ、独立してリアルタイムに操作できるように設定しました。初期反射は主に後方スピーカーから出して俳優への「返し」を確保し、後部残響は劇場全体の空間の広がりを演出します。これらを芝居に応じてリアルタイムに操作することで、セリフと歌の時の響きの量を変えたり、ある場面では響きを完全にオフにして観客の意識を一点に集める「音響ズーム」のような効果も出しています。急に響きをなくす演出は、舞台稽古で 「AFC Enhance」を体感した演出家・白石さんの発想で生まれた演出です。

小宮氏:
これまでの残響支援はあくまで建築音響的に響きの少ない空間の残響を補うものでしたが、今回のように「AFC Enhance」によって響きをリアルタイムに制御をすることで「あるシーンだけ残響を切る」といった演出ができるようになりました。これはかなり斬新な演出手法で、これによって照明の暗転やピンスポットを使う演出と同じぐらいの効果が出せたと思います。しかも音は照明のようにあからさまではなく、目に見えない無意識の領域での演出なので、観客は思わず引き込まれます。これはかなり面白い効果でした。

「AFC Image」はどのように使ったのですか。

熊谷氏:
「AFC Enhance」は劇中で全面的に使用したのに対し「AFC Image」は客入れ時と、お芝居の冒頭とエンディングの「森のシーン」でのみ使用しました。

まず客入れの時は客席の物音に「AFC Enhance」で深い響きをかけたので、劇場に入っただけで幻想的な空間に入ったような感じがします。そこに鳥や虫、川の音などを「AFC Image」でオブジェクト化し、劇場内のさまざまな位置に定位させつつ、それらの音像が動き回るようにしました。それによって観客の周囲にいろんな気配がある「森の中」を表現しました。これは白石さんの「風の谷のナウシカの“腐海”のようにしてほしい」という音響へのオーダーで作り上げたイマーシブな音響環境でした。

「AFC Image」森のシーンでのオブジェクト配置画面

また、伴奏のピアノの音を「AFC Image」でオブジェクト化し、オープニングでは遠くから聞こえてきたピアノがだんだん舞台手前に近づき物語の世界に入る。そしてエンディングでは逆に遠ざかっていき現実の世界に帰るという演出を音像移動で行いました。この場面ではピアノの音には常に「AFC Image」の3Dリバーブを使用しました。3Dリバーブは極めて自然で劇場空間にフィットし、いわゆる「エフェクター感」はまったくありませんでした。オフにして初めてリバーブがかかっていたのか、とわかるような高いクオリティでした。

公演で実際に「AFC Enhance」「AFC Image」を使用してみて感じたことはありますか。

熊谷氏:
演者からも観客からも非常に評価が高かったですね。千穐楽のカーテンコールでは、ピアニストの江草啓太さんが「AFC」の素晴らしさをお客様に紹介する場面もありました。また音響卓まで足を運んで「これ、どうやってるの」と質問される方もいらっしゃいました。これまでは「集音マイク+リバーブ」の手法を使うとハウリング対策に悩まされましたが、それもありませんでした。Danteによるシステムセットアップもスムーズですし、ヤマハのデジタルミキサー「DM7C」で操作できて使い勝手も良かったです。

オペレーション中の熊谷氏

小宮氏:
実際に公演で使ってみると「AFC Enhance」は響きが自然で、「空間そのものが変わった」と感じがして、生声を自然に届けたいという今回の公演には狙いどおりだったと思います。「AFC Image」は他のイマーシブシステムと比べて音のつながりが良く、音像を動かすとその通りに違和感なく鳴るので、現場での調整の負担が少ない点も音響担当としては助かりました。今後、「AFC Enhance」「AFC Image」が「劇場にないと困る」「導入されていることがステータス」と言われる日も近いかもしれません。

お忙しい中、ありがとうございました。


ヤマハ音場支援システム「AFC Enhance」、音像制御システム「AFC Image」について

「AFC Enhance」とは

「AFC Enhance」は、空間の固有の音響特性を活かし、音の響きを豊かにすることで、コンサート、講演会、演劇など多様なシーンで最適な音響空間を提供する音場支援システムです。

主な特長

  • 自然な音の残響感や音量感の調整により、用途に応じた細やかな音響環境の制御が可能
  • 空間固有の音響特性を生かした音場作りにより、リアルで満足度の高い聴取体験を実現
  • 高度な信号処理技術により、多様な音響調整が可能で、さまざまな空間での使用に対応・規模に応じたモデル選択で、小規模から大規模な空間まで幅広くカバー

詳しくは「AFC Enhance」製品ページをご覧ください。

「AFC Image」とは

「AFC Image」は、音像を3次元的にかつ自在に定位・移動させることで、演劇、オペラ、コンサート、インスタレーションなど多彩なシーンでイマーシブな音響演出を可能にするオブジェクトベースの音像制御システムです。

主な特長

  • 洗練されたGUI上でのオブジェクト操作や音像サイズ調整により、緻密かつ迅速な音像コントロールが可能
  • 特定のスピーカーセットにのみオブジェクト再生を割り当てできるスピーカーゾーニング機能を搭載
  • 3Dリバーブシステムを搭載し、それぞれのリスニングエリアにて臨場感ある残響と音場を実現
  • DAWやコンソールのパンニング操作を実空間の形状に最適化するレンダリングエリアコンバージョン機能を搭載

詳しくは「AFC Image」製品ページをご覧ください。

AFC

AFC(アクティブフィールドコントロール)は、あらゆる空間において、音を自在にコントロールし最適な音環境を創り出すことができるヤマハのイマーシブオーディオソリューションです。

VXS Series

上質な音質と洗練されたデザインを兼ね備える、商業空間用サーフェスマウントスピーカー。

Yamaha Digital Mixing Console DM7

DM7 Series

様々なシーンに対応できる高い拡張性と柔軟性を備えた革新的なデジタルミキシングコンソール。

CP88 / CP73 Series

「本物」を感じさせるアコースティックピアノとエレクトリックピアノのサウンド、ピアニストの感性を満たす鍵盤タッチ、そして直感的な操作を可能とするOne-to-Oneインターフェイス。 CP88とCP73は100年以上をかけ培ってきたピアノ製造へのクラフトマンシップと、45年に及ぶシンセサイザーの研究開発の歴史の上に立つ、新時代のステージピアノです。