【音像制御システム「AFC Image」使用事例レポート】シアターオペラ『その星には音がない -時計仕掛けの宇宙-』/ 兵庫・香川・茨城
Japan/Hyogo, Kagawa, Ibaraki Sep. - Oct. 2025
2025年9月から10月にかけ、平田 オリザ 氏(演出家)、中堀 海都 氏(作曲・指揮)によるシアターオペラ第2弾『その星には音がない -時計仕掛けの宇宙-』が、豊岡演劇祭(城崎国際アートセンター)など3会場にて上演されました。
現代音楽×現代演劇×現代美術を統合した「シアターオペラ」という新ジャンルを掲げるこの作品に、音像制御システム「AFC Image」を中心に構成したヤマハイマーシブオーディオシステムが活用されました。
導入理由とその効果などについて、平田 オリザ 氏、中堀 海都 氏、そしてイマーシブオーディオデザイン・オペレーションを担当した株式会社Orinas 五十嵐 優 氏にお話をうかがいました。
平田オリザ + 中堀海都 シアターオペラ『その星には音がない -時計仕掛けの宇宙-』
・主催: 豊岡演劇祭実行委員会/(有)アゴラ企画 / 瀬戸内国際芸術祭 / 水戸国際音楽祭実行委員会
・共同制作: 豊岡演劇祭/ 瀬戸内国際芸術祭 / 水戸国際音楽祭
【豊岡公演】2025年9月12日(金)14日(日)15日(月・祝)
城崎国際アートセンター(豊岡演劇祭2025 ディレクターズプログラム)
【高松公演】2025年10月4日(土)
香川県立アリーナ・サブアリーナ(瀬戸内国際芸術祭2025 秋会期)
【水戸公演】2025年10月11日(土)
ザ・ヒロサワ・シティ会館 大ホール(水戸国際音楽祭2025 ディレクターズ・プログラム)
劇作家・演出家の平田オリザ、作曲家・指揮者の中堀海都によるシアターオペラ第2弾として上演された本作は、現代音楽・現代演劇・現代美術を総合的に結びつけた新たな舞台芸術として構想され、宇宙、崩壊と再構築、言語獲得といったテーマが多層的に描かれました。
Photo: Shintaro Miyawaki
本公演の音響システムについて
本公演では約30台のスピーカーを用いたイマーシブオーディオシステムが「AFC Image」を中心に構成され、音と言葉が全方位から立ち上がる音空間が創造されました。それによって観客は「その星」の内部へと入り込んだような深い没入体験を味わうことができました。
スピーカー配置の基本プランは中堀 海都 氏が作成し、イマーシブオーディオのプランニングとオペレートを担当した五十嵐 優 氏が具体的な音響設計を行いました。スピーカー配置は、規模や形状が異なる3会場それぞれの特性に応じた最適化が行われました。
スピーカーにはNEXOを用い、「AFC Image」のプロセッシングにはヤマハシグナルプロセッサー「DME7」を、音声調整卓にはヤマハデジタルミキシングコンソール「DM7」が使用されました。
*以下の機材写真はすべて水戸公演
シアターオペラ『その星には音がない -時計仕掛けの宇宙-』+ヤマハ イマーシブソリューション「AFC Image」インタビュー
中堀 海都 氏(作曲・指揮 / 作曲家・左)
株式会社Orinas 五十嵐 優 氏(イマーシブオーディオエンジニア・右)
現代演劇、現代美術、現代音楽が融合した
「シアターオペラ」という試みと「AFC Image」
シアターオペラ『その星には音がない -時計仕掛けの宇宙-』について教えてください。
中堀氏:
この作品は、私と平田さんが提唱する「シアターオペラ」という新しい総合芸術の試みの第2弾です。現代音楽、現代演劇、現代美術などを一つの枠にまとめ、舞台上に立ち上げることを目指しています。演劇パートでは宇宙から地球へ降り立つように「言葉を獲得していく人間」が描かれます。一方で歌手は、崩壊していく宇宙の断片や言葉のかけらを拾い集め、壊れた時間や記憶を組み立て直していく存在として登場します。
多層性を音楽だけではなく、また演劇だけでもなく、「空間」と「音像」まで含めて表現したいと考えたとき、立体音響であるイマーシブオーディオは必須だと感じました。
「AFC Image」導入の経緯と採用理由について教えてください。
中堀氏:
2021年にフランスのロワイヨモン財団の委嘱で、36台のスピーカーとソプラノ歌手、チェリストの組み合わせによる作品「無数の井戸(Countless Wells)」を発表しました。これは修道院の庭にスピーカーを隠して仕込み、植物の中から声が立ち上がってくるようなサウンド・インスタレーションに歌唱と演奏が加わる作品で、これが今回のシアターオペラのアイディアの源流です。その経験を踏まえ「これを日本に持ち帰り、平田さんの演劇と組み合わせて、もっと総合的な作品に発展させたい」と考えました。
立体音響の候補としてはいくつかのシステムをリサーチしました。その中でヤマハの「AFC Image」は3Dリバーブのクオリティが非常に高く「AFC Image」にしかできない表現があると感じました。また音響の五十嵐さんからも「AFC Image」のクオリティの高さを聞いていましたので今回、ヤマハさんにシステム協力いただくことで、この表現が可能になりました。
演出面からも立体音響は重要だったのでしょうか。
平田氏:
この作品では「言葉になる前の声」について考えました。言語の起源については諸説ありますが3万~4万年前には実際に人々に「神の声」が聞こえていたのではないかとも言われます。自分の言葉がまだ自分のものとして分化していない状態——未分化な声の状態——があり得る。そのような状態を「AFC Image」の立体音響によって私たちが追体験できるのではないかと考えました。
例えば登場人物が発した言葉が、四方八方様々な方向から聞こえてくる演出。同じ言葉が距離や高さを変えて反復されると「今話したのは誰なのか」「この声は内面なのか外からなのか」が揺らぐ。その揺らぎを観客に体験してほしかったんです。これは「AFC Image」がなくては不可能な演出でしたし、本作では非常に重要な部分だと思います。
立体音響システムを一元管理できる
「AFC Image」「NEXO」「DM7」によるシステム
音源制作ワークフローや「AFC Image」のオペレーションについて教えてください。
中堀氏:
この作品は生演奏、歌手や役者の生の声、そして「Nuendo」で制作した立体音響の再生音源を精密に同期させながら進行させるという、非常に複雑な構造になっています。
楽曲は「Nuendo」で制作し各会場で「AFC Image」を通して再生します。「Nuendo」の再生音源とリアルタイムの演奏、そして俳優のセリフとをシンクロさせるために、歌手の3名はクリックを聴きながら歌い、私は指揮者として生演奏を指揮しながらクリックを聴き、さらに舞台の様子をみつつ「Nuendo」の音源を操作する、という難易度の高いオペレーションとなりました。これはかなり大変でしたが、新たな発見の連続でもありました。
平田さん率いる劇団の俳優の皆さんは「この長台詞を4分でお願いします」と言うと、本当にきっちり4分で収められる凄い能力をお持ちで、ほとんど狂わない。その精度にも大いに助けられました。
「AFC Image」はオブジェクトで音像を配置するため
ツアー公演での設営時間を劇的に短縮
「AFC Image」のオペレーションを行った五十嵐さんにうかがいます。各会場での具体的なオペレーションはいかがでしたか。
五十嵐氏:
システムとしては「DM7」、「AFC Image」、NEXO「PLUSシリーズ」を鳴らす「NXAMPMK2」をネットワークで接続し構築しました。制御やレベル管理、ミュート操作、アンプの状況まで一元的に操作・監視できるので、高度なことをしているわりには、現場での負担はそれほど重くありませんでした。
3会場における「AFC Image」のスピーカー配置について教えてください。
五十嵐氏:
まず中堀さんから、理想的とする音響プランが提示されました。それをベースに30基のスピーカーを使用した各会場ごとの具体的なスピーカー配置をプランニングしました。
今回巡回した3会場は形状も規模感も全く違うので、同じプランは使えません。ですからそれぞれの会場の規模や制約の中で、できる限り理想案に近づけるようにプランニングしました。
たとえば城崎国際アートセンターは3会場の中で最も小さく、客席とスピーカーの距離が近かったため、指向性や角度を追い込み、スピーカーと同列に座るお客さまにもきちんと立体感が感じられるように調整しました。一方、香川県立アリーナ サブアリーナはいちばん大きなアリーナ会場で、設置の自由度が高く理想に近い配置が実現できました。最後のザ・ヒロサワ・シティ会館大ホールはクラシックホールで床面が傾斜していたので、最下層をわずかに傾けた構成としつつ補正を行って全体のバランスを整えました。
こうしたツアー形式の制作と「AFC Image」は非常に相性がいいです。規模や形状が全く違う劇場で、会場ごとにスピーカーの設置場所が変わっても「AFC Image」がオブジェクトベースなので、会場ごとのスピーカーの位置情報を入力すればベースとなる出音まではすぐに持っていける。「ゼロ地点」にすぐに行けるので、そこからクリエイティブで突っ込んだ音作りに時間が使えるのは大きなメリットだと思います。
Photo: Shintaro Miyawaki
また「AFC Image」は鳴らすスピーカーに関して融通が利くのも助かりました。たとえば城崎国際アートセンターは小空間なので、あるスピーカーと俳優の距離が近すぎ、ハウリングが起きやすい状況でした。そこで「AFC Image」の設定を活用してハウリングが出そうな場面では、そのスピーカーをオフにする設定としました。
そのように特定のスピーカーをオフにしても、有効なスピーカーだけで自動的に出力を演算して音像定位させてくれます。そのおかげでハウリングを抑えつつ、音像はきちんと維持できました。このような処理が現場ですぐにできる柔軟性は素晴らしいと思います。
自然な響きを実現した「AFC Image」の3Dリバーブと
NEXOスピーカーが支えた「遠くまで届く声」と「宇宙の低音」
「AFC Image」の3Dリバーブを多用したそうですが、感想を聞かせてください。
五十嵐氏:
いちばん驚いたのは「自然さ」です。3Dリバーブは最初から空間がそう鳴っているように聞こえるんです。通常のデジタルリバーブだと、どうしてもエフェクター感が出がちですが、3Dリバーブは自然すぎて「今、マイク本当に入ってる?」って何度も確認したぐらい、響きが空間と一体化していました。
中堀氏:
同感です。「AFC Image」の3Dリバーブは本当に自然でした。その3Dリバーブだけでも十分効果的ですが、さらに五十嵐さんが役者や歌手の動きに合わせてオブジェクトの音像をリアルタイムに動かしてくれたので、響きと音像移動と組み合わせで、俳優や歌手の声の「実在感」がとても高まりました。
NEXOスピーカーシステムについての感想もお聞かせください。
五十嵐氏:
NEXOのスピーカーは非常にクリアで、特に「声に強い」という印象を持ちました。セリフも歌も輪郭がはっきりしているので、「AFC Image」で音像を動かしても濁らず、低域もしっかりと伸びてくれます。そのおかげで、宇宙空間のうねりのような低域の音の表現も余裕をもって再生できました。
中堀氏:
NEXOのスピーカーはレスポンスが良く、しかも音が遠くまで届くので助けられました。あのクリアさと遠達性を両立できるスピーカーがなかったら、特にアリーナのような大会場での音響設計はかなり厳しかったと思います。
五十嵐氏:
NEXOのシミュレーションソフトウェア「NS-1」も良かったですね。ザ・ヒロサワ・シティ会館 大ホールでのスピーカー設置でも活用しました。というのも、あの会場の場合、オーケストラピット上のプロセニアムに吊り込んだL/Rスピーカーは構造上、一度仕込むとバトンを下ろせず、「鳴らしてみてから微調整する」という、角度調整が行えません。そのため事前に「NS-1」で縦と横の振り角を事前に細かく算出しました。
その結果、一発で狙い通りの状態に仕込むことができました。このように「NS-1」との相性も含め、NEXOのスピーカーシステムはプランニングがしやすく、会場ごとに形状や規模が異なる条件下でも、短時間でセットアップできる点が強みだと思います。
立体音響で舞台芸術の新たな可能性を拓き、
作り手の創造性を刺激する「AFC Image」
今後のイマーシブオーディオや「AFC Image」への期待をお聞かせください。
平田氏:
今回使ってみて、演劇や音楽の現場にイマーシブオーディオが広がっていくのは時間の問題だと感じました。ただ、イマーシブオーディオを使えば芝居が面白くなるわけではないので、技術が一般化すると、次はそれを使いこなす作り手の力量が問われる段階に入ります。「AFC Image」のようなシステムが普及することは、その問いを日本の作家やエンジニアに突きつけるという意味でも、とても健全なことだと思います。
中堀氏:
私たちが目指しているのは「イマーシブオーディオを使った作品」ではなく「イマーシブが前提となる時代に耐えうる総合芸術」です。これまでイマーシブが映画やホームシアターなど一部に留まっていた要因のひとつは、立体音響を使いこなす作家が少なかったことだと思います。立体音響に意義を見出す作曲家や演出家が少なく、再生システムも高価でした。
しかし今後、イマーシブを前提に作曲・演出する発想に切り替われば、作品は一気に増えていくはずです。イマーシブ再生可能な劇場が各地に存在し、それに触れた作家や観客が新しいアイディアを生み出していく——そうした循環が生まれていくといいなと思っています。その意味で今回のコラボは重要なステップだったと考えています。
今後のイマーシブオーディオ、シアターイマーシブにおいて、ヤマハにどんな役割を期待しますか。
中堀氏:
私が拠点とするニューヨークでも、新設の劇場にはイマーシブオーディオシステムが導入されるケースが増えていますし、エンターテインメントの現場にも最高峰のシステムが次々と入っています。日本は立体音響への取り組みは早く、NHKさんが開発した22.2チャンネルフォーマットなど、世界をリードする技術を持っています。にもかかわらず、現在は世界に先を越されつつあるのが、非常にもったいない状況だと感じています。
音・音楽で世界をリードするヤマハには、だからこそどんどんプレゼンテーションしてほしい。「AFC Image」はその強力なツールだと思います。
平田氏:
私はロボット演劇など先端技術と演劇の融合に取り組んできました。イマーシブも含め、こうした分野はアニメやマンガとも接続しやすく、日本が得意とする領域でもあり、国としても今後大きな成長を期待する分野でもあります。今回のヤマハとのご縁をきっかけに、継続的にご一緒してチャレンジしていければと思っています。
ありがとうございました。
シアターオペラ『その星には音がない -時計仕掛けの宇宙-』公演案内(青年団ウェブサイト)
http://www.seinendan.org/
青年団|平田オリザ
http://www.seinendan.org/hirata-oriza
ヤマハ音像制御システム「AFC Image」について
「AFC Image」とは
「AFC Image」は、音像を3次元的にかつ自在に定位・移動させることで、演劇、オペラ、コンサート、インスタレーションなど多彩なシーンでイマーシブな音響演出を可能にするオブジェクトベースの音像制御システムです。
主な特長
- 洗練されたGUI上でのオブジェクト操作や音像サイズ調整により、緻密かつ迅速な音像コントロールが可能
- 特定のスピーカーセットにのみオブジェクト再生を割り当てできるスピーカーゾーニング機能を搭載
- 3Dリバーブシステムを搭載し、それぞれのリスニングエリアにて臨場感ある残響と音場を実現
- DAWやコンソールのパンニング操作を実空間の形状に最適化するレンダリングエリアコンバージョン機能を搭載
詳しくは「AFC Image」製品ページをご覧ください。