YVN500S 6つの物語 第三章

ARTIDA YVN500S 6つの物語 ―2000年からの軌跡―

2011年6月、満を持して発売となったアルティーダシリーズのフラッグシップ、YVN500S。発売に至るまで、その裏にはバイオリン設計者、木材技術者たちの弛まぬ努力、そして数々のアーティストたちとの出会いや開発を通じたエピソードがあったのでした。ここに至るまで、10年間に渡るYVN500Sの軌跡、全6話をお届けします。

第三章

新作であるが故の宿命

「実績の壁」

を乗り越えたい。

世の中のストラディバリウス、ガルネリウスなどのいわゆる「オールドバイオリン」と呼ばれる銘器は、なぜこれほどまでに支持され続けるのか。第3章ではその理由を演奏家の視点から考え、YVN500Sの開発コンセプトへと話を進めます。

演奏家は常にベストを尽してコンサートに臨み、全身全霊で自分の音楽を表現しようとします。その心意気は命を賭けてレーシングカーに乗り込むF1レーサーと同じかもしれません。何が起こるかわからない演奏会場がサーキット、その中で全面的に信頼しなければならないものが楽器でありF1マシン。最高のパフォーマンスを披露することは、あらゆる瞬時のドラマを乗り越えてベストタイムで走り切ることと同じ意味を持つと言えます。その時間を共有することが、聴衆にとって演奏会の醍醐味でもあるのです。

「オールドバイオリン」は、既に100年以上もの間このようなシーンを経験しており、演奏会本番での性能が既に証明されています。また、楽器自体が十分に経験を積んでいるためさまざまなシーンに対応でき、演奏家は楽器を信頼できます。これが「オールドバイオリン」の真の価値であり、この価値を持った楽器が、自然淘汰を経て今まで残ってきました。

このように、楽器の本当の性能は試奏部屋で弾いただけでは判断できません。聴衆の入ったホールで演奏家がベストを尽くし、その結果出てきた音楽の感動を聴衆と共有するとき、初めて真の価値が検証できたと言えます。新作の楽器は、残念ながらこの点においては未知数です。私たちはその未知数の新作、YVN500Sの可能性を予測する試みを行ってきました。

試作を繰り返す中、2005年以降、ザハール・ブロン教授にはノーデルマン氏をはじめとする門下生の方々にYVN500Sのプロトタイプを紹介していただき、またブロン教授ご自身にも本番を想定したテストにご協力いただいていました。2006年には、ヤマハの社員を聴衆にした評価会を開催。プロトタイプとブロン教授所有のオールド楽器で同じ曲を弾き比べ、その印象を聴衆に聞き、楽器の実力の相対評価を行いました。その結果、音量はプロトタイプのほうがあること、小さい音の説得力や総合的な表現力はオールド楽器の方が優れることなど、客観的なデータを得ることができました。

社員を聴衆にした評価会
音色が最も華やかに感じられた楽器は?
という問いへの聴衆の答え

(当時の資料より抜粋)

また、2008年1月に東京、紀尾井ホールにて開催されたスペシャルコンサート「ザハール・ブロンの60歳を祝って」では、ブロン教授自らのご発案で、非公式ながらプログラムの一部をYVN500Sのプロトタイプで演奏していただくことになりました。ここで思わぬ出来事が。予定の曲と違うところでプロトタイプが使われたのですが、我々は誰もそのことに気付かないまま演奏を聴いていたのです。コンサートが終わり、「だまされたでしょう?」というブロン教授のコメント。私たちは、本番でも対応できる楽器になったと自信を深めました。

この他にも、国内外の演奏家の方々に、演奏会やコンクール、あるいは本番を想定した試奏など、多岐にわたりご協力をいただきました。あるときは、日本の著名なバイオリニストがヤマハの新作のプロトタイプだと聴衆に伝えた上で、演奏会のアンコールで使用してくださったこともありました。私たちも半ば心配しながら客席で聴いていたのですが、そのとき我々の傍らで聴いていらした老夫婦が「新作もいい音がするんだね」「こういった小品は新作のほうが良いかも」とおっしゃっているのを耳にし、安堵したことなどもあります。

このように演奏会を前提とした性能を確認する中で、数多くの設計変更が加えられた今回のYVN500Sは、ノーデルマン氏が使用したプロトタイプから数えて「第3世代」とも言えます。第2世代ではバスバーの最適化、接着、組み立て、ニスと塗装プロセスについての知見が得られ、第3世代ではA.R.E.の更なる最適化とともに、製作時の「勘」を解析し、表現力を向上させるためにアーチングの変更を行いました。 また、第2世代で導入したアンティーク塗装にも、改良を重ねていきました。そのひとつひとつのプロセスに、さまざまなストーリーが込められています。

今、YVN500Sは、本番さながらのテストサーキットを走り終え、ようやくスタートラインに立ったところです。ここから演奏者とどのような音楽シーンが作られていくのか長い視点で見守りつつ、さらなるステップアップに向けて取り組んでいきたいと思います。

ザハール・ブロン

Zakhar Bron

◆Profile

1947年、旧ソ連のウラリスク生まれ。モスクワ音楽院を経てイーゴリ・オイストラフ教授に師事。後にドイツに移住。リューベック音大、ロンドン王立音楽アカデミー、ロッテルダム音楽院、ソフィア王妃音楽大学などで教鞭をとり、現在ケルン音楽大学教授、チューリッヒ音楽大学教授。独自の指導法を開発して、ワディム・レーピン、マキシム・ヴェンゲーロフ、樫本大進、庄司紗矢香、川久保賜紀、神尾真由子など多くの世界的バイオリニストを輩出する。自身の演奏活動と若手の指導者育成に加えて、多くの国際コンクールの審査員として招かれている。

◆Information

バイオリン用カーボン弓
ザハール・ブロンシグネチャーモデル
→CBB107ZBの詳細を見る

ミヒャエル・ノーデルマン

Michael Nodelman

◆Profile

1977年、ロシアのイワノゴロド生まれ。サンクトぺテルブルグ音楽院、ケルン音楽大学を卒業。ザハールブロン教授門下生。現在、ヴェストファーレン新フィルハーモニー(ノイエ・フィルハーモニー・ヴェストファーレン)のコンサートマスターを務める。

◆Video

Artida YVN500S(プロトタイプ)
ミヒャエル・ノーデルマン氏演奏

YVN500S

YVN500Sイメージ

◆Information

YVN500S製品情報ページ
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◆Video

Artida YVN500S プロモーションムービー