YVN500S 6つの物語

ARTIDA YVN500S 6つの物語 ―2000年からの軌跡―

2011年6月、満を持して発売となったアルティーダシリーズのフラッグシップ、YVN500S。発売に至るまで、その裏にはバイオリン設計者、木材技術者たちの弛まぬ努力、そして数々のアーティストたちとの出会いや開発を通じたエピソードがあったのでした。ここに至るまで、10年間に渡るYVN500Sの軌跡、全6話をお届けします。

第一章

ザハール・ブロン教授、そして

ミヒャエル・ノーデルマン氏

との出会い

2000年、ヤマハ初のオリジナルバイオリン、ブラビオールV-60/V-30/V-10の発売。このとき、すでにYVN500Sの基礎となる開発は始まっていました。A.R.E.技術の原型とも言える木材の改質技術を研究し、それを利用したバイオリンの試作を行っていたのです。

2002年、現在のアルティーダ(Sモデル)の原型となるモデルをベースに、A.R.E.技術を施した材料を使ったプロトタイプが完成。世界的なバイオリニスト、そして教育者であるザハール・ブロン教授にこれをお見せするため、滞在中の横浜のホテルを訪問したのでした。ブロン教授は来日初日の疲れをものともせず、持ち込んだ2台のプロトタイプをその場で弾いてくださいました。当時は、A.R.E.技術の特性をバイオリンの性能に活かすことについては、まだまだ手探りの状態。まずは、ニスができるだけ木の中に染み込まないよう工夫して材料の特性を出そうと、試行錯誤の最中でした。

そんなプロトタイプの試奏を終え、ブロン教授がおっしゃったのは、「音はよく鳴るが、バランスに欠ける。弾き手に応えてくれない。」という残念な評価でした。A.R.E.技術の特徴である鳴りやすさが、裏目に出てしまったのです。その課題を乗り越えるべく、次の試作では材料の密度、板厚の修正、更ににかわの仕様や、ブロック、ニスの変更を行いました。 このようにブロン教授に試奏していただき、アドバイスを取り入れて改良をするという作業が、その後何度も続いていくことになりました。

2003年、改良を重ねたプロトタイプの評価のため、ブロン教授に浜松にあるヤマハの本社までお越しいただきました。演奏会場を想定した、広いスペースでの試奏。その試奏の後ブロン教授からいただいたのは、「ソロ奏者が使用できるレベルに至っているかもしれない。次はホールに人が入った状態でテストを行ったらどうか。」「コンクール出場者も使用できるだろう。」という私たちにとっても驚くべきコメントでした。 また、更に信じられない提案をいただいたのです。「私の弟子で、楽器に恵まれていない生徒がいる。ヤマハの楽器を試してもらってはどうか?」このブロン教授の提案がヤマハバイオリンの開発の主軸舞台になっていくとは、そのとき誰も予想していませんでした。

2004年、私たちスタッフは、プロトタイプを持ってチューリッヒ音楽大学を訪問しました。紹介されたのは、ミヒャエル・ノーデルマン氏。ロシア出身のケルン音楽大学の学生です。彼は当時ケルン音大の備品楽器を使っていましたが、試奏のためにケルンからチューリッヒまで駆けつけてきてくれたのでした。

いよいよ試奏開始。他の生徒たち、そしてブロン教授が見守る中、彼は楽器を手にして弾き始めました。まず皆が驚いたのは、その音量と演奏性。そして表現力も申し分ないものでした。ノーデルマン氏は楽器との真剣勝負とも言えるような緊張感の中、一時間程試奏を続けました。その後、彼、私たち、両者とも緊張の面持ちで会話が始まりました。

ノーデルマン氏:「ヤマハの楽器は大変良いと思いました。気に入った。」
ヤマハ:「もし、この楽器があなたのバイオリン演奏家としてのキャリア形成に役立つのであれば、私たちは喜んでこのプロトタイプをお貸しします。」

この会話を終えたときの、彼の喜ぶ顔は今でも忘れることができません。当時のヤマハバイオリンケースに入れた楽器を、文字通り抱きかかえるようにして、彼はケルンへ戻っていきました。しばらくして練習ピアニストの先生より、「ノーデルマンの音が本当に変わり、良くなった。楽器を変えてよかった。」という言葉をいただいたとき、改めて喜びをかみしめた記憶があります。

このプロトタイプを手にして1年足らずの2004年10月26日、ノーデルマン氏は見事、バイオリン国際コンクールで優勝を果たしたのでした。

ヤマハ製バイオリンが国際コンクールで初の栄冠
ミヒャエル・ノーデルマン氏がカザフスタンで開催されたコンクール「ユーラシア2004」で第一位を獲得

10月2日から10月8日までカザフスタンの旧首都アルマティ市で開催された国際バイオリンコンクール「ユーラシア2004」において、ドイツから参加したロシア出身のミヒャエル・ノーデルマン氏がヤマハ製バイオリンと弓を使って見事第一位(同率一位)を獲得しました。
今回、ノーデルマン氏が同コンクールで使用したバイオリンは、ヤマハバイオリンYVN200Sをベースにした特別仕様モデルで、使用した弓はヤマハカーボン弓CBB107ZBです。
「ユーラシア2004」は今年で2回目とまだ歴史も浅く、カザフスタンという不便な場所柄ということもあり、世界的にはまだマイナーなコンクールですが、審査員には欧州、アジアの各国からトップレベルのバイオリニスト・教育者が参加しています。ドイツ、ロシア、キルギスタン、カザフスタン、韓国、中国から参加した気鋭のバイオリニストたちによって連日熱戦が繰りひろげられました。

● ミヒャエル・ノーデルマン氏のコメント
「一位がとれて感激しています。次の目標に向けてさらに勉強したい。ブロン先生とこの楽器のおかげ。このバイオリンはとても弾きやすく、自分のイメージどおりの音が出せたと思う。」
● 審査員ザハール・ブロン氏のコメント
「ノーデルマン氏は基礎がしっかりしている上にとてもバランスよく、さらに音楽表現も緻密に積み上げられていた。楽器の音もオープンでバランスよく、会場の中でももっともよく響いていた一本。」

(当時のニュースリリースより抜粋)

そして今、彼はそのプロトタイプからさらに発展させたYVN500Sのプロトタイプを今も使い続け、ドイツのプロオーケストラのコンサートマスターやソリストとして、大活躍しています。

ザハール・ブロン

Zakhar Bron

◆Profile

1947年、旧ソ連のウラリスク生まれ。モスクワ音楽院を経てイーゴリ・オイストラフ教授に師事。後にドイツに移住。リューベック音大、ロンドン王立音楽アカデミー、ロッテルダム音楽院、ソフィア王妃音楽大学などで教鞭をとり、現在ケルン音楽大学教授、チューリッヒ音楽大学教授。独自の指導法を開発して、ワディム・レーピン、マキシム・ヴェンゲーロフ、樫本大進、庄司紗矢香、川久保賜紀、神尾真由子など多くの世界的バイオリニストを輩出する。自身の演奏活動と若手の指導者育成に加えて、多くの国際コンクールの審査員として招かれている。

◆Information

バイオリン用カーボン弓
ザハール・ブロンシグネチャーモデル
→CBB107ZBの詳細を見る

ミヒャエル・ノーデルマン

Michael Nodelman

◆Profile

1977年、ロシアのイワノゴロド生まれ。サンクトぺテルブルグ音楽院、ケルン音楽大学を卒業。ザハールブロン教授門下生。現在、ヴェストファーレン新フィルハーモニー(ノイエ・フィルハーモニー・ヴェストファーレン)のコンサートマスターを務める。

◆Video

Artida YVN500S(プロトタイプ)
ミヒャエル・ノーデルマン氏演奏

YVN500S

YVN500Sイメージ

◆Information

YVN500S製品情報ページ
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◆Video

Artida YVN500S プロモーションムービー