コンサートレポート

コンサートレポート

藤原道山×国府弘子×片岡リサ
尺八・ピアノ・箏が織りなす、多彩で豊かな共演

2026年7月4日(あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール)

前半は、国府さんとのデュオをメインに構成。藤原さんと国府さんは、共演歴が20年にも渡るそう。

日本の伝統楽器である尺八の可能性を多様に広げてきた藤原さんと、ピアノを軸にアメリカでジャズやポップスを極めてきた国府さん。それぞれに主軸としている楽器やジャンルはまったく異なりますが、ジャンルを問わず広く深く鋭く音楽を突き詰めてきた姿勢が共通していることからか、2人ならではの特別なサウンドが生まれているのではないか――そう思える前半ステージとなりました。

実際に演奏されたのは、藤原さんが作曲した優しく穏やかな『おかえり』、国府さんが長らく共演している歌手・岩崎宏美さんの楽曲『聖母たちのララバイ』、ジョン・レノン『Imagine』など、ジャンルや生まれた国はさまざまです。しかし、藤原さんが尺八に息を吹き込み、国府さんがピアノを奏でると、なぜかそうしたジャンルや楽器のオリジンといった背景や垣根を忘れることができるのが不思議。

藤原さんの尺八は、息がたっぷりと吹き込まれた歌心にあふれた音色で、メリハリや緩急とともにさまざまな音の表情をみせてくれます。それに寄り添い、藤原さんの“歌”を支えてくれるのが、国府さんのピアノ。一方でただ支えるだけでなく、チャップリンの『smile』のジャジーな演出や、ボサノバの『Desafinado』のクールなリズムと洗練されたメロディなど、国府さんならではの表現も随所で光ります。ヤマハCFXを使用した国府さんの音色は非常に素直で、藤原さんの音色とも相性バッチリに重なり合います。

2人の息がぴったりと合い、それが最骨頂に達したのが、前半のラストに配置されたチック・コリアによる名曲『Spain』。ゆったりとしたテンポで始まり、情熱が溢れんばかりの憂いある冒頭。途中、突如スピードアップした瞬間、国府さんによる地面から突き上げるような推進力が現れでます。しかし、暴走するようなスピードではなく、あくまでも慎重に。音が鳴りやすいザ・フェニックスホールと対話をするかのように、2人の音が空間と響き合います。その響きはクライマックスに向けて増幅し、ヒートアップしたままに前半のステージは終了。

後半ステージになり、箏奏者の片岡リサさんが登場。演奏したのは、藤原さんとのデュオによる『春の海』や『泉』、そして片岡さんのソロによる『ロンドンの夜の雨』。いずれも箏曲の名作曲家である宮城道雄の作品で、邦楽器ならではの魅力を正面から伝えてくれます。

そして、再び国府さんがステージへ上がり、藤原さんとのデュオで自作『スターランド』を披露。温かさと気品に満ちた6拍子の旋律を、国府さんは堂々と紡ぎ出していきます。後に加わる藤原さんのまっすぐな尺八の音に触発されるように、さらに音楽はドライブ。まるで人生讃歌であるかのような美しさと切実さをまとう演奏で、この日の公演のハイライトのひとつとなりました。

最後は、藤原さん、国府さん、片岡さんの3人で『琥珀の道』と『東風』を演奏。

のびやかな尺八の音色と、撥弦楽器ならではの凛々しく澄み切った箏のアタック音、国府さんによるふくよかで力強いピアノの音。3つの楽器や3人の音色は、それぞれに特徴がまったく異なります。

『琥珀の道』では、それら3つの音が巧妙かつスマートにバランスがとれていると思いきや、『東風』では一転。3つの音色の特色が全開となり、ジャズのセッションのような緊迫感に。そこには一種の“脆さ”もあれど、それは唯一無二のグルーヴ感へと変換され、この上なく贅沢なサウンドが生み出されていました。

Text by 桒田 萌、写真:田中大造