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ミロスラフ・クルティシェフ 氏 ロシアン・ピアニズムにおいて大切なのは、レガートと歌心、声楽の表現と同様の深み。 この記事は2018年2月7日に掲載しております。

2007年のチャイコフスキー国際コンクールピアノ部門で最高位(第1位該当者なしの第2位)となった、ミロスラフ・クルティシェフさん。ソロだけでなく、同コンクールのヴァイオリン部門で優勝した神尾真由子さんとの夫婦デュオでも多くのステージに立つ。ロシアン・ピアニズムへの考えから、演奏家夫婦ならではのエピソードまで、お話を聞いた。

Profile

pianist ミロスラフ・クルティシェフ
© Jan Eytan

pianist
ミロスラフ・クルティシェフ
1985年レニングラード生まれ。サンクトペテルブルク音楽院でアレクサンドル・ザンドラーに師事。6歳でリサイタルを開くなど幼少期から非凡な才能を発揮し、10歳でサンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団(指揮:ユーリ・テミルカーノフ)とモーツァルトのピアノ協奏曲第20番で共演しデビューを飾った。
2007年、第13回チャイコフスキー国際コンクールで最高位となる第2位(1位該当者なし)に入賞。2012年、モンテカルロ・ピアノマスターズ(モナコ)優勝。ソリストとして、ロシア国立アカデミー交響楽団、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団、ロシア国立交響楽団はじめ多くのオーケストラに出演し、ヴァレリー・ゲルギエフ、ウラディーミル・アシュケナージ、ユーリ・バシュメット、マルク・ゴレンシュタイン、ヴァシリー・シナイスキー、アレクサンドル・ドミトリエフといった指揮者と共演。これまで、ウィーン楽友協会ホール、モーツァルテウム、コンセルトヘボウ、リンカーン・センター、サントリーホールなど世界各地の一流ホールに出演。キッシンゲンの夏、ショパン国際音楽祭(ドゥシニキ)、白夜の星音楽祭(サンクトペテルブルク)、9月音楽祭(モントルー)、ザルツブルク音楽祭(オーストリア)、メクレンブルク・フォアポンメルン音楽祭(ドイツ)、エルバ島ヨーロッパ音楽祭(イタリア)等の音楽祭にも招かれている。
録音では、ORFEOレーベル(ドイツ)より「リスト:超絶技巧練習曲全曲」、Disc AuverSレーベル(フランス)より「- Chopin - 24Études」、n and fレーベルより「イン・リサイタル」(2016年ライヴ録音)をリリースしている。
現在は演奏の傍ら、母校であるサンクトペテルブルク音楽院にて後進の指導にあたっている。

※上記は2018年2月7日に掲載した情報です。

子供の頃の舞台経験が音楽性を育てた

 クルティシェフさんご自身がピアノを始めたのは、4歳のとき。家族に音楽家がいるわけではないが、音楽好きでありながら自分ではピアノを学ぶ機会がなかった母親が、自らの夢を託すような形で、彼にピアノを習わせたのだという。初めて舞台に立ったのは、6歳のとき。
「チャイコフスキーの『子供のアルバム』から2曲を弾きました。あの初めてのコンサートで、ステージが大好きになったことを覚えています。舞台でお客さんの良い反応をうけることがエネルギーとモチベーションとなって、どんどん先に進んでいけたのです。最近よく、コンクールを次々受けるうち、スポーツ競技のような感覚に陥るお子さんを見かけますが、これは健全ではありませんね。私も子供のためのコンクールには参加しましたが、それよりずっと、普通のコンサートの経験こそが大きなものだったと思います。緊張することもなく純粋にステージを楽しめる子供のうちに、多くの演奏機会に恵まれたからこそ、自分の音楽は育てられたのだと思います」
 サンクトペテルブルクで13年間師事した先生からも、技術はもちろん、音楽に向き合う姿勢の面で多くのことを教えられた。加えて大きな影響を受けたのは、巨匠たちの録音だ。
「10~12歳くらいの頃は、よくホロヴィッツの演奏を聴いていました。彼が音楽を通じて残したメッセージは、大きなインスピレーションとなりましたね」

 演奏経験と数々の巨匠の影響、そして幼少期から受けて来たロシアン・ピアノ・スクールの教育、すべてが合わさって自分の音楽性は形成されたと話す。それではクルティシェフさんは、自身のピアノを通じて何かメッセージを伝えるということを、どう捉えているのだろうか。
「とても興味深く、そしてむずかしい質問です。まず、どんなアーティストもそうだと思いますが、自分を表現したいという想いはあります。演奏家には、客観的に音楽を捉えようとするリヒテルタイプと、ロマンティックかつ主観的に音楽を捉えようとするホロヴィッツタイプがいると思います。その意味でいうと、私自身はホロヴィッツタイプ。主観的、個人的なものを表現していきたいと思っているほうです。そして、楽譜という自分以外の人間が書いたテキストをなぞる中で、何を語りかけ、どの程度自分を出していくか、その限度や枠をつくるのが、ロシアン・ピアノ・スクールの教育で学んできたことだと思います。あまりにも突拍子のない演奏は、これまで受けてきた教育が許しません。基盤の上に自由があるということです。私はロマン派の作品にもっとも近いものを感じるのですが、それは、19~20世紀初頭の音楽では、奏者に与えられる自由が多いから。主観的な物語を作っていくための“空間”が大きいのです」
 実際、パリ近郊のオーヴェル=シュル=オワーズ教会でのライブ録音として2014年にリリースされたアルバム、「ショパン:24の練習曲」には、実に独創的で、物語を語り掛けるようなクルティシェフさんの音楽が収められている。この録音には、ヤマハのCFXが使用された。
「ヤマハのピアノは大好きです。とにかく、音のバランスがとても良くて弾きやすい。ショパンの練習曲を弾くには、理想的なピアノですよね。特にCFXは音にボリュームがあるので気に入っています。ピアノが粒ぞろいですから、コンサート前の指慣らしの時間も少なくてすみます」

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ミロスラフ・クルティシェフさんへ “5”つの質問

※上記は2018年2月7日に掲載した情報です。