この記事は2010年9月8日に掲載しております。
この8月からNHK趣味工房「あなたもアーティスト 仲道郁代のピアノ初心者にも弾けるショパン」に出演され、柔らかで親しみやすい指導が一般の初心者からクラシック愛好家まで既に幅広い支持を得ています。より多くの方にピアノの楽しみを知って欲しいと様々な新しいコンサートをプロデュースされたり、本の執筆など多彩な活躍に加え、今年は16年ぶりにショパン・アルバムもリリース。
そのエネルギーとアイディアの源、そしてショパンへの特別な想いをうかがいました。
- pianist
仲道 郁代 - 桐朋学園大学1年在学中に、第51回日本音楽コンクール第1位、あわせて増沢賞を受賞し注目を集めた仲道郁代は、数々の国内外での受賞を経て、1987年ヨーロッパと日本で本格的な演奏活動をスタートさせた。 これまでに日本の主要オーケストラと共演した他、海外のオーケストラとの共演も数多く、マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団、バイエルン放送交響楽団及びフィルハーモニア管弦楽団などのソリストとして迎えられ、その音楽性に高い評価を得ている。またリサイタルのみならず、「ピアノとスライドでつづる動物たちの詩“光のこどもたち”」など、彼女の多彩なアイディアや情熱から生まれた企画も多く、魅力的な内容とともに、豊かな人間性がますます多くのファンを魅了している。
レコーディングはSony Music Japan Internationalと専属契約を結び、クラシック音楽としてはこれまでにないヒットを記録したアルバムをリリース。「ピアノ・ソナタ第30.31.32番」は、2007年度第45回レコード・アカデミー賞(器楽曲部門)を受賞。ショパン生誕200年にあたる2010年は、CD「Chopianism ショパニズム」、編著作『CDでわかる ショパン鍵盤のミステリー』(ナツメ社刊)などをリリースしている。
現在は、ショパンの生涯を映像とエピソードで綴る「ショパン鍵盤のミステリー」企画、「モーツァルト・ピアノ・ソナタ全曲演奏会」などのシリーズが進行しており、早くも大きな反響を呼んでいる。 2003年からは、地域社会の活性化と音楽文化の発展を目指し、大阪音楽大学特任教授、財団法人地域創造理事としても、積極的に活動している。
仲道 郁代オフィシャルウェブサイト
※上記は2010年9月8日に掲載した情報です
私とピアノ、関係のはじまり
まだ「胎教」という言葉すらなかった時代ですが、母は私がお腹にいた頃からピアノのレコードを聴かせていたそうです。ですから私にとってピアノの音は生まれてからずっと身近にありました。当時、ヤマハに「積み立て」のシステムがあって、父が娘に「4歳になったらピアノを」と考えていたようで、私が生まれた時点からこの「積み立て」を始めたそうです。
そして4歳の誕生日に我が家へピアノが届きました。その日のことは今も鮮明に覚えています。すでに私はオルガン教室(ヤマハ音楽教室の前身)に通っており、ピアノは弾いたらレコードで聞いているような音が出るものだと信じていましたから、自分でポンポンと鍵盤を叩くと、子供心ながら愕然としてしまいまして・・・全然違うじゃない!もうショックでしたね。(笑)ここで早くも自覚したわけです。「自分は弾けないのだ」と。
我が家は妹もピアノを習っていましたし、父の仕事の都合で海外生活も色々経験しましたから引越しも多く、それこそピアノは十数台使ってきました。かっこよく言うと「弾き潰しました!」(笑)
でもこのアップライト・ピアノは今も大切に持っています。
ピアニストとしての自分を意識した日
「小さい頃からバレエを習っていたから、いつかバレリーナになりたい」とか、「ピアノを習っていたから、いつかピアニストになりたい」とか、こんな子供らしい無邪気な思いはありました。けれども音楽高校に進んで、大学1年の時に日本音楽コンクールで一位をいただいて、公の場所で演奏する機会が出来たときに初めて職業としてのピアニストを意識したように思います。ピアニストの生活って想像もつきませんでしたし、周りにそんな人もいませんでしたから。
そう言えば、今年のバンクーバー冬季オリンピックなんか完全に自己投影して見入っちゃいましたよ。スケーター達が、より滑走をなめらかにするために、スケート靴を微に入り細に入り加工したり、より回転を高く速くするために衣装にもこだわったり、その一瞬のために精神状態をコントロールしていく・・・もうコンサート前のピアニストと全く同じ!
自分なりに少しずつピアノも改造(?)しているんですよ。最近デビューしたのが「足上げくん」。(笑) 微妙にピアノ椅子の後部を上げています。色々試しながら、より演奏のしやすさを追求しているんです。そのピアノに合わせて、調律師の方と相談しながら作っていただいています。
今の自分、「ショパニズム」
今年の春、16年ぶりにショパンのアルバムをリリースしました。今の録音は今の自分、それを聴いていただけたらと思っています。昔の録音は若い頃の自分、すごく恥ずかしい、誰でもそうですよね?16年前と今とでは考え方や行動は違いますから。
アルバム・タイトルの「ショパニズム」、自慢ですがこれは私が考えてつけたタイトルなんです。ショパンと彼の行き着いたピアニズムを掛け合わせています。若い頃に完成された「エチュード」、ショパンとピアノの関係、ピアノという楽器の扱い方が表れています。そして39年という短い人生で晩年に行き着いた境地、「幻想ポロネーズ」とか・・・その両方を合わせて「ショパニズム」、タイトルが私の想いを語っています。
プロデュースしてくれているアメリカ人の方がね、「こんな英語はないけれど、その意味や郁代の想いはとても理解できる」と言ってくれました。この16年間、シューマン、ベートーヴェン、モーツァルトと取り組んできましたが、ショパンはずっと弾き続けてきました。その結果、これが今の自分のピアニズムのあるべき形なんだろうと思います。
アイディアはある日突然
昔から自分で枠を作るのがきらいでした。クラシックはこうでなくては、ピアニストはこうあらねばならない、とかね。もしかしたらそれらを超えたところに新しい発見があって、自分にフィードバックしているんです。
色々な企画やアイディアは突然、ふっと思いつきます。こうすればクラシックがもっと楽しくなる、ピアノがもっともっと面白くなるんじゃないかしら?って。練習しているとふっと降りてくるんです。思いついたらマネージャーに即!電話(笑)。「こんなこと思いついたんだけど、どうかしら?」と。自分で言うのもなんですが、ノリはいい方です。子供のためのコンサートやリサイタルにスライドを入れてみたり、お芝居とのコラボレーションなど、多種多彩なことにトライしてきました。
でも私が新しいことを思いつく度にマネージャーは大変・・・「あ~来た!来た!来た!」って(笑) 調律の曽我さん(*)なんかいつも巻き込まれて大変!彼はカメラマンから役者まで、芸達者に協力してくださるので感謝しています。
すべてはクラシックやピアノの面白さをより多くの人々に知って頂きたいと言う想いから。入り口は何でもいいんですよ。そして私自身も楽しんでやらせていただいています。
(*)ヤマハアーティストサービス東京 曽我紀之氏のこと
私の辞書に「セーブ」なし
時間はいくらあっても足りません。子育て、演奏活動、執筆・・・etc やることはたくさん、とりあえず当たって砕けろ!「ちょっと無理かな?」と思っても挑戦してみる、そうこうしているうちに自分のキャパシティが広がってきました。その繰り返しです。私の辞書に「セーブする」という言葉はないんです。(笑)
年を重ね、子供も中学生になりましたし、親も年老いてそれなりに色々あるのですが、ずっと、あっぷあっぷだったのが少しずつ泳げるようになり、そうこうしているうちに、かき分けかき分け、乗り越え乗り越え、少しずつ自分と向き合う時間も出来てきました。
だから、「これからなんです!仲道郁代は。」
本当の活動開始、これからもよろしくお願いします。(笑)
※上記は2010年9月8日に掲載した情報です