フランツ・リストが編曲した2台ピアノ版ベートーヴェン《交響曲第9番》に、若手実力派ピアニスト、今田篤さんと梅田智也さんが挑み、オーケストラ(合唱付き)とは違ったこの作品の新鮮な魅力を楽しませてくれました。
2021年12月15日(ヤマハホール)
■プログラム
J.ブラームス:シューマンの主題による変奏曲 変ホ長調 Op.23
L.v.ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 Op.125
東京藝術大学の同期である今田篤さんと梅田智也さん。国内外のさまざまなコンクールで優勝・入賞を果たし、日本のピアノ界の次代を担う俊英ピアニストとして注目されています。そんなおふたりが、年末の風物詩とも言えるベートーヴェン《交響曲第9番》を2台ピアノで披露するデュオリサイタルを開催しました。
コンサートの前半は、四手連弾によるJ.ブラームス《シューマンの主題による変奏曲 変ホ長調 Op.23》。演奏される機会の少ない作品ですが、温かくエレガントな曲想がヤマハCFXから次々に紡ぎ出されていきます。同期として切磋琢磨しながらピアニストとして成長してきたおふたりの、互いをリスペクトする想いが伝わる演奏で客席を魅了しました。
前半と後半をつなぐトーク・コーナーでは、ヨーロッパでの留学生活を終えて日本を拠点に活動を始めたおふたりがこの一年を振り返り、今後の抱負などを語り合いました。
後半は2台ピアノによるベートーヴェン《交響曲第9番》。第1楽章の冒頭、弦楽器のトレモロを今田さんが神秘的に奏で、梅田さんの闇の中に一条の光が射すような第1テーマの旋律が加わり、やがて強い意志を感じさせるこのテーマが、さまざまな形でふたりのピアノから繰り出される多彩な音色で展開されていきます。混沌としたなかから壮大な宇宙を構築するようなダイナミックなドラマが生まれ、決然とした第1主題のユニゾンで締めくくられました。
軽妙でエキサイティングな第2楽章、天国のように美しく愛に満ちた第3楽章、シンプルなテーマをさまざまな楽器の音色を駆使して複雑に交錯させながら感動的な音楽に昇華させていくベートーヴェンの作曲手法の妙を2台のヤマハCFXが鮮烈に表現しました。
そして第4楽章。冒頭の「恐怖のファンファーレ」の後、前の3つの楽章を回想する曲想を経て、「このような音ではない!」とそれらを否定するバリトンのレスタティーヴォを梅田さんが奏で、「歓喜の歌」の合唱へと向かっていきます。重厚な低音部を今田さんが支え、梅田さんが高音部の旋律をみずみずしく歌い上げ、「苦難を乗り越え、歓喜へ!」というベートーヴェンのメッセージが聴く人の心を揺さぶるクライマックスを迎えました。ピアノという楽器の可能性を最大限に引き出した超絶技巧のリスト編曲による《第九》に果敢に挑み、偉大な作品の音符のひとつひとつに生命を吹き込むようなおふたりの演奏に拍手の嵐が湧き起こりました。
終演後、今田さんは「長時間の大曲の演奏を終えて、安堵感でいっぱいです。ブラームスもベートーヴェンも大好きな作品ですが、本番を通して作品の魅力を再発見しながら、即興的なインスピレーションを感じつつ演奏を楽しむことができました。藝大の同期の梅田くんと、このような演奏会を開催することができたことを嬉しく思います。2台のヤマハCFXの相性もよく、色彩感あふれる音色が混じり合い、ソロでは味わうことのできない世界観を味わうことができました」、梅田さんは「80分近い作品を弾くのは初めてで、体力が保つかなと心配だったのですが、曲の持つエネルギーに支えられ、心地よい緊張感に包まれながらあっという間に演奏を終えることができました。第4楽章の「歓喜の歌」に至るまでのベートーヴェンの感情の起伏、作品の構造を体感し、この作品の偉大さをあらためて感じています。リストの編曲技法も素晴らしく、2台ピアノならではの響きを今田くんと楽しみました」と語ってくださいました。
今後もさらにピアノ2台版のベートーヴェン《第九》の世界を探求し、ソロに加えてデュオの演奏活動もしていきたいというおふたりの活躍が楽しみです。
Text by 森岡葉