コンサートレポート

コンサートレポート

小曽根真が次世代を担う若き才能たちを世界に紹介するプロジェクト“From OZONE till Dawn”の第5弾。ピアニスト&コンポーザー壷阪健登と武本和大とともに、ヤマハCFX 2台+Electric Pianoという編成によるセッションを披露。

2022年4月1日(ブルーノート東京)

■プログラム
1 Gotta be Happy
2 With Time
3 Good Morning Heartache *壷阪健登ソロ
4 Steps of three quarterbacks
5 Departure *小曽根真ソロ
6 O’berek
EN The World is waiting for the sunrise

左から 壷阪健登、小曽根真、武本和大

 想像もしなかった激動と混乱の世界にあって、音楽が輝かしいひと筋の光であることを、小曽根真の笑顔と演奏が示してくれた。2022年3月31日、4月1日の2days、2日目の1stステージ。ブルーノート東京には、左右に2台のヤマハCFX、中央にはローズ・ピアノが置かれ、3人のピアニストの演奏が披露された。小曽根が次代を担う若き才能と紹介したのは、壷阪健登と武本和大。壷阪は慶應義塾大学卒業後アメリカに渡り、バークリー音楽大学に入学、ダニーロ・ペレスが音楽監督を務める音楽家育成コースBerklee Global Jazz Instituteに選抜され首席で卒業。ボストンを拠点に活動していたがコロナ禍の影響でボストンから帰国、黒田卓也とのセッションや石川紅奈とのデュオ公演でも話題をさらっている。武本は高校時代にヤマハエレクトーンコンクール第1位を受賞、その後国立音楽大学ジャズ専攻に進み首席で卒業、井上陽介トリオのピアニストに抜擢され参加、自身が率いる“THE REAL”も2020年にメジャーデビューと躍進中。
 何よりも、3人のピアニストが集まるライブは他に類を見なく、どんな演奏が繰り広げられるのかわからない“ワクワク感”が会場を包み込む。

「この組み合わせ、楽しくてくせになりそう!」と小曽根真

 大きな拍手に迎えられ小曽根が登場。下手、向かって左のCFXに座り、弾きはじめる。1曲目は《Gotta be Happy》。小曽根のイントロの間、壷阪は上手のCFX、中央のローズには武本が座り、小曽根の1音連打に重ねて、壷阪、武本が順に加わっていく。小曽根と壷阪のCFX同士の掛け合い、武本のローズも加わった縦横無尽に広がるハーモニー、3人が力強く火花を散らす迫真のアンサンブルもあれば、ブルージーでリリカルなソロもあり、若いふたりのセンスの良さが際立つ。ピアノの洪水は1曲目から全開だ。
 ライブ後に、「初顔合わせした1週間前のリハーサルで小曽根さんがすべての曲に新たなチャレンジをする姿を見て、僕らがチャレンジしない理由はないと思い切りました。最高じゃないですか!」と語った壷阪。2曲目は彼のナンバーで、元々はピアノトリオ+ヴァイオリン+チェロという編成で演奏された《With Time》。壷阪のローズによる憂いを含んだ優しいメロディーで空気感がガラッと変わる。クラシカルかつコンテンポラリーな響きが心地よい。後半、小曽根の支えにのり、武本がチャーミングで美しいアドリブを聴かせた。

「毎回全然違うセットリストで、ものすごく刺激になりました」と武本和大

「CFXを弾いて、フルコンを弾くことの意味を肌で感じました」と壷阪健登

 続くは壷阪のCFXによるソロ。ビリー・ホリデーが歌ったスタンダードナンバー《Good Morning Heartache》だ。歌詞に感銘を受けたという、静けさの中の内なる悲哀を、豊かな音色で柔らかく語りかけるように表現。スタンダードの新たな景色を見せてくれた。
 4曲目は小曽根と武本がCFXでデュオを披露。テレビで観戦したアメフトにインスパイアされて武本が作った《Steps of three quarterbacks》。泥臭くも感動的な魂のぶつかり合いを曲にしたという。CFXの深く切り込むベースラインがブルージーで印象的。メロディーとベースの役割を変則的に入れ替え、遊び心たっぷりの掛け合いが続く。スリリングでなんとも楽しいボールの投げ合いは、いったいどこへ向かうのか(笑)。「若い彼らのレンズを通して見せてもらう景色はワクワクするものがいっぱいある。それで無茶苦茶やっちゃうんです(笑)」と小曽根は少年の笑顔を見せた。

 ここで、小曽根がソロを1曲、《Departure》を演奏。CFXの1音1音の響きを確かめるように紡がれる音楽は、そのまま聴く人の心の琴線に共鳴する。現れた瞬間に消えてゆくはずの“音”という時間の粒が、空気中に鮮やかに広がりストーリーとなる。生演奏の醍醐味だ。それにしても圧倒的な存在感。改めて小曽根真のすごさを体感した。
 小曽根がローズに座り、武本と壷阪がCFXを弾いた《O’berek》はライブのクライマックスだった。ゆらゆらと漂うようなメロディーとリズムが小曽根のローズで奏でられると、この曲の独特な世界にあっという間に引き込まれる。手拍子を絡めながら、エキゾチックでボーダーレスな音楽が生き生きと輝きを放つ。3人がそれぞれの響きを発し、それが重なり合うことで世界がぐんぐんと広がっていくような高揚感!武本、壷阪による堂々としたチャレンジに、聴衆も熱狂し、盛大な拍手を贈った。
 アンコールはアップテンポでハッピーに《The World is waiting for the sunrise》。武本の輝くような明るい笑顔がこの日のライブを象徴する。新鋭ふたりがブルーノート東京に吹かせた新しい風は、聴衆に笑顔を、会場を幸せな空気で満たした。

 なお、小曽根は、“From OZONE Till Dawn in Club”のほかにも、“Real Sound Viewing Meets Young Pianist”のプロデュースを手掛ける。ヤマハ銀座店2Fのカフェラウンジ Discover Your Soundで体験できるReal Sound Viewingに若手ピアニストを送り出しているのだ。RINA Trio、武本和大の“THE REAL”、そして近々壷阪健登も登場予定(詳細はWebサイトに掲載予定)。ディスクラビアC3X-ENPROほか自動演奏機能付きの生楽器で生演奏を真空パック、映像とともにリアルなバーチャルアコースティック演奏を楽しめる。カフェでくつろぎながら、彼らのピアノ演奏の感触や匂い、空気を感じてみてはいかがだろう。

Text by 編集部
Photo by noriyukisoga