コンサートレポート

コンサートレポート

シューマン夫妻の愛とロマンにあふれる室内楽曲の魅力を鮮やかに描き出す ~梅村知世 シューマン チクルス Vol.1

2019年4月14日(ヤマハ銀座コンサートサロン)

 岡山市出身。東京藝術大学大学院を修了し、現在はベルリン芸術大学国家演奏家資格課程で研鑽を積んでいる梅村知世さん。第34回ピティナ特級グランプリ受賞、第17回ロベルト・シューマン国際コンクール最高位など、数々のコンクールで輝かしい成績を収め、日本とベルリンを拠点に活躍の場を広げています。2017年8月から連載中の「ピアニストラウンジ」のコラムには、充実した留学生活の日々が生き生きと綴られています。

梅村知世の「ベルリン便り~色とりどりの日々~」

 クララ・シューマンの生誕200周年を記念し、シューマン夫妻の室内楽曲の魅力を探究しようと梅村さんが企画した3回にわたるチクルスの第1回が、2019年4月14日、ヤマハ銀座コンサートサロンで開催されました。共演したのは、ベルリンで共に学んでいる気鋭のバイオリニストの石原悠企さん。ロベルト・シューマンの2曲のバイオリン・ソナタ、隠れた名曲とも言えるクララとロベルトの《3つのロマンス》を味わい深く聴かせてくれました。

 最初の曲は、1849年、ロベルトがクララへのクリスマス・プレゼントとして作曲したと伝えられる《3つのロマンス op.94》。哀愁に満ちた幻想的な第1曲、素朴で温かな第2曲、メランコリックでダイナミックな第3曲、ロベルトのクララへの想いを描き出す3つのストーリーが、絶妙なアンサンブルで繰り広げられました。続いて、《ヴァイオリン・ソナタ第1番 op.105》。激しいパッションが渦巻くような第1楽章、柔和な優しさに満ちた第2楽章、目まぐるしいトッカータ風の動きが印象的な第3楽章、ファンタジーあふれる音楽で客席を魅了しました。

 クララ・シューマン《3つのロマンス op.22》で幕を開けた後半のステージ。バイオリンの甘美な旋律をピアノが優しく包み込むような第1曲、憂愁に満ちた旋律で始まり、明るくチャーミングなパッセージが現れる第2曲、流れるようなピアノのアルペッジョの上でバイオリンが自在に歌う第3曲、クララのロベルトへの愛情が結晶したような作品を、イマジネーション豊かに楽しませてくれました。最後の曲は、ロベルトの後期の傑作、《ヴァイオリン・ソナタ第2番 op.121》。第1楽章では、この作品を献呈されたフェルディナンド・ダヴィットの名前に基づくD-A-F-Dの4音のテーマがバイオリンで鮮烈に奏され、第2楽章の生命力にあふれたスケルツォへと続き、第3楽章の冒頭では、石原さんがバイオリンをマンドリンのように胸に抱え、ピッツィカートでコラールのテーマを慈しむように奏でました。弓に持ち替えた後は、4つの変奏が美しく展開し、第4楽章では、バイオリンとピアノの掛け合いが疾走。情熱と抒情が交錯するシューマンの音楽世界が、サロンの空間に鮮やかに広がりました。
 感動に浸った聴衆からの大きな拍手に応えて、アンコールはヨーゼフ・ヨアヒムがロベルト・シューマンのピアノ連弾作品を編曲した《夕べの歌》。静謐な余韻に満ちた音楽で、チクルス第1回を締めくくりました。

 終演後、梅村さんは、「曲想の変化が激しいシューマンの音楽を表現するのに、ヤマハCFXの温かく色彩豊かな音色はぴったりでした。バイオリンとのバランスが難しかったのですが、弱音のグラデーションを極限まで追求でき、心地よくアンサンブルを楽しむことができました」、石原さんは、「シューマンは大好きな作曲家ですが、バイオリン・ソナタを弾く機会はなかなかないので、今回2曲も演奏することができ、とても勉強になりました。バイオリンの音色に合わせて変化するヤマハCFXの音色の多彩さに驚かされました。ピアノも音響も最高のサロンで演奏することができ、幸せでした」と語ってくださいました。

 この後の公演は、Vol.2が2019年8月3日、Vol.3が2020年4月12日、ヤマハ銀座コンサートサロンで開催される予定です。

Text by 森岡葉

■関連記事
梅村知世さんインタビュー
ファンタジーあふれるシューマンの音楽を追求し続けたい。