第81回日本音楽コンクール第1位、エピナル国際ピアノコンクール第2位など
輝かしい成績を誇る新進気鋭のピアニスト、務川慧悟が留学中のパリから様々な出来事や想いを綴ります
- No.17 2016.12.27更新 「最終回・途中の中でのまとめ」
- No.16 2016.12.19更新 「ちょっとした話」
- No.15 2016.11.26更新 「スポーツ、先生、」
- No.14 2016.11.11更新 「コンクール!そして自分の演奏…」
- No.13 2016.10.19更新 「ゆったりとした新学期の様子」
- No.12 2016.09.21更新 「ついに、ついに、初ドイツ」
- No.11 2016.08.23更新 「本番、本番、お茶。」
- No.10 2016.07.26更新 「おうち2つ」
- No.9 2016.06.28更新 「買ってしまったもの」
- No.8 2016.06.13更新 「コンクール!」
- No.7 2016.05.16更新 「行ったり来たり」
- No.6 2016.04.17更新 「日課」
- No.5 2016.04.04更新 「音ということば」
- No.4 2016.02.19更新 「語学苦闘話」
- No.3 2016.02.02更新 「タフになりたくて」
- No.2 2016.01.14更新 「アヴィニョンの橋の近くで」
- No.1 2016.01.05更新 「おせちとの始まり」
- pianist 務川 慧悟
- 1993年愛知県出身。3歳よりヤマハ音楽教室にて学び、ヤマハマスタークラスピアノ演奏研究コース修了。東京藝術大学2年在学中の2014年、パリ国立高等音楽院に審査員満場一致で合格し渡仏。現在、同音楽院にて研鑽を積む。
2008年第62回全日本学生音楽コンクール中学校の部全国大会第1位、併せて野村賞、井口愛子賞、音楽奨励賞受賞。2010年第14回松方ホール音楽賞(第1位)を最年少受賞。2012年第81回日本音楽コンクール第1位、併せて野村賞、井口賞、河合賞受賞。2014年東京藝大学内において、アリアドネ・ムジカ賞受賞。第3回秋吉台音楽コンクール室内楽部門第1位。2015年第25回エピナル国際ピアノコンクール(フランス)第2位。 これまでに、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、セントラル愛知交響楽団、練馬交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、藝大フィルハーモニア、NHK名古屋青少年交響楽団、フランスにてロレーヌ国立管弦楽団と共演のほか、室内楽では、NHK交響楽団首席奏者と共演。全国各地でソロリサイタルを開催の他、室内楽などの演奏活動も積極的に行っている。
2012.2013.2014年度ヤマハ音楽振興会音楽支援奨学生。
2015年度公益財団法人ロームミュージックファンデーション奨学生。
現在、フランク・ブラレイ、上田晴子、テオドール・パラスキヴェスコ、青柳晋、横山幸雄の各氏に師事。
※上記は2016年1月5日に掲載した情報です。
No.14コンクール!そして自分の演奏…
2016.11.11更新
僕はイタリアという国が好きです。ひとも空気も、明るく、明るく、そして明るいあの国(もちろん他の面もあるけれど笑。数回だけ訪れた僕の心にそのような印象を与えてしまったくらい、明るさに満ちたところだと思うのです!)。
明るい太陽に、人の開放的なキャラクターと笑顔。さらには、僕の大好物がパスタとリゾットだということもあり、今のところ、僕の老後住みたい国No. 1となっています。笑
さて……。そんなイタリアで先日、10月の終わりに、とあるコンクールに参加し、第1位を受賞することができました!!
ミラノから電車で小一時間離れた所、ブレーシアという街で行われた、第5回"Coop Music Awards" という国際コンクールです。
このコンクールは、ソロの2ラウンドから成り、僕はベートーヴェンの告別ソナタ、ショパンのエオリアンハープ、リストの伝説2番、ラフマニノフのソナタ2番などを演奏しました。
終始非常に温かくアットホームな雰囲気(まさにイタリア的!)の中進められ、イタリア語でひたすら色々な雑談も含めて話しかけてくる舞台裏のおじさん(でも和みました)、確実に延長するお昼休憩(イタリア人にとってお昼ご飯はとっても大事です!)、そして、事前の割り当てなど特になく早い者勝ちの練習室(早起き頑張りました)、などなど…
という日本ではなかなか考えられないようなユルーい雰囲気…のおかげもあり!いつも本番では緊張しがちな僕ですが今回はあまりナーバスになり過ぎることなく演奏を進めることができ、それが結果として繋がったことが嬉しいです。
そして、審査員の先生を含め、何人かの方との大切な出会いもあり、それがきっかけで今後イタリアのいくつかの場所で演奏する機会ももらえることになり、また大好きなこの国に足を運べることに今からわくわくしております。
合間に観光もしました。ブレシアの古城。
その中のこの円形劇場はなんと紀元前1世紀に作られたものだとか…
僕は個人的には(僕の知り合いの多くも同じようですが…)、コンクールという場自体はあまり好きではなく、普段のコンサートで演奏する幸せの方が数倍大きいのですが、コンクールという追い込まれた状況の中に自分を置くことで、コンクールを通してしかできない類の成長をすることができる、と考えています。
失敗が許されない重要な場面において、弾き慣れた自分の得意な作品群を、自分の中で最高の質にまで磨きあげて披露する…そのための準備課程は、普段のコンサートの準備課程と少しだけ違った心持ちになるのですが、その課程でしか得られない重要な何かは、コンサートピアニストとして生きていく上でもきっと大きな糧となってくれる重要な何かでしょう。
さて、こういうことを他人が読めるような形で文字に起こすことは普段恥ずかしくてあまりしませんが、今回は自分の演奏について最近考えていることを少しだけ書いてみようと思います。
ここ数ヶ月の間、僕は自分の演奏に関してずっと1つのことを課題・テーマにし、考え続けていました。
僕がここ数年間で続けてきた楽曲の勉強の仕方、それは、楽曲の、自分にとって理想的な1つの完成形(その完成形は僕の頭の中にはっきりとあり、かなり具体的であり、厳密な一点として確定されています)をまず見定め、そしてその一点に向かって、必要な時間をかけて必要な練習をし、仕上げていく、というもの。
そしてこの方法を取ると、仕上げに向かって自分が進むべき道はかなりはっきりしています。ですから、ある程度の時間をかければ一つの楽曲を"ひとまずきちんと"仕上げることは確実にできる、ということになりますし、また実際僕は、自分の好きな作品であればどんな曲であっても、必要なだけの練習時間を見積もり、必要な練習方法と、演奏法に関する自分なりに培ってきた理論を駆使して、ある一定の質に仕上げる技術を持っている、という自信があります。が、実は、そのような姿勢を持ち続けて仕上げるに至った演奏は、そこ止まりなのではないか、と。一点の固定された理想に向かって統制され、制御が効き、磨かれた技術によってコントロールが充分にされた演奏、それは、充分に美しくさまになるかもしれませんが、そのさらに1つ上の次元にある、"思想を表現する"という段階にまで至れないことが多いように最近思うようになった、ということです。演奏とは本来、もっと流動的であり、思想的であり、理想的な完成形を頭で一点に定めて、技術でもってその枠の中に収めてしまうべきものではないのではないか、ということです。
仕上げまでの道筋が今までのやり方以上に曖昧になろうとも、具体的な演奏技術や具体的な演奏の方法論ではない、思想、もしくは感情や風景、意味、構成、色、かたち、香り…などの色々な要素、それらの"人間的"または"自然的"と言えるような要素を、もっと積極的に想像し曲と関連付けながら曲と向き合っていくべきではないか、ということです。
音楽とは思想を表現する媒体だ、とショパンは言いました。つまり音楽家(もしくは芸術家)としてのあるべき姿は、指の技術のこと、フレーズに関する原則、和声法の規則、音量やテンポに関する方法論、そういった全てのものを越えたところにあって、思想もしくは感情に最終的に帰結するべきものなのです。
技術や具体的な演奏の方法論を全て越え、忘れるということ(忘れるということは、それらの基礎が全て自分の身体に染み付くまでに身に付いたという意味にもなり得るでしょうけれど)。技術でピアノを弾くのではなく、具体的で基礎的な方法論でピアノを弾くのではなく、"思想で"ピアノを弾くことができるようになったら、その感覚を得ることができるようになったら、そこがやっと、ようやく、何かを表現する芸術家としてはスタート地点なのではないだろうか、と、最近よく考えるようになりました。
そして(長くなりました笑)、得ようとしてきたそのような感覚の、ほんの一端、ほんの切れ端を、今回のコンクールの舞台で一瞬だけ得ることができかけたような気がし、それが僕としては非常に嬉しかったのです。
…なんだか最終的に、実態のないよく分からない話になってしまいましたが…ともかく、今回のコンクールを通して1つの貴重な何かを得ることができたという自分の感想を信じて、そしてそれを今後に繋げてゆくべく、再び試行錯誤の日々に戻ります。では、また!
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執筆者 Profile
- pianist 務川 慧悟
-
1993年愛知県出身。3歳よりヤマハ音楽教室にて学び、ヤマハマスタークラスピアノ演奏研究コース修了。東京藝術大学2年在学中の2014年、パリ国立高等音楽院に審査員満場一致で合格し渡仏。現在、同音楽院にて研鑽を積む。
2008年第62回全日本学生音楽コンクール中学校の部全国大会第1位、併せて野村賞、井口愛子賞、音楽奨励賞受賞。2010年第14回松方ホール音楽賞(第1位)を最年少受賞。2012年第81回日本音楽コンクール第1位、併せて野村賞、井口賞、河合賞受賞。2014年東京藝大学内において、アリアドネ・ムジカ賞受賞。第3回秋吉台音楽コンクール室内楽部門第1位。2015年第25回エピナル国際ピアノコンクール(フランス)第2位。 これまでに、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、セントラル愛知交響楽団、練馬交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、藝大フィルハーモニア、NHK名古屋青少年交響楽団、フランスにてロレーヌ国立管弦楽団と共演のほか、室内楽では、NHK交響楽団首席奏者と共演。全国各地でソロリサイタルを開催の他、室内楽などの演奏活動も積極的に行っている。
2012.2013.2014年度ヤマハ音楽振興会音楽支援奨学生。
2015年度公益財団法人ロームミュージックファンデーション奨学生。
現在、フランク・ブラレイ、上田晴子、テオドール・パラスキヴェスコ、青柳晋、横山幸雄の各氏に師事。
※上記は2016年1月5日に掲載した情報です。