この記事は2021年3月29日に掲載しております。

すべて自分ひとりで作れるのがピアノの魅力

　2021年4月にリリースするアルバム『PIANO SWITCH 2～PIANO LOVE COLLECTION～』は、2年前の『PIANO SWITCH～BEST SELECTION～』の続編にあたる。ピアニストの演奏をリスナーとして聴くだけでなく、子どもの頃に弾いていた、あるいは憧れだったピアノを自分も「弾いてみよう！」という気持ちにさせてくれる一枚だ。

「“PIANO SWITCH”というタイトルは、シンガー・ソングライターの大塚愛さんが私のピアノを聴いて“ピアノ好きスイッチが入りました”言ってくださったことにヒントを得てつけたのですが、前作を出したあとに“私もスイッチ入りました！”というお声をたくさんいただいて。“子どもの頃やっていたけれど辞めてしまった”“ピアノに憧れていたけれど敷居が高かった”という方々にとって、このアルバムがピアノに向かうきっかけになったというお話を伺い、今度は私が背中を押されるような気持ちで『PIANO SWITCH 2』を作りました。
デビューから30周年ぐらいまでは、ひたすら自分の音楽を模索して、ちゃんと確立させようと迷いながらやってきた時代でした。けれどここ数年は、還元というとおこがましいですが、これまで学ばせていただいたことを、ピアノが好きな人、興味のある人に伝えていきたいと思うように。アルバムの帯には“ピアノの伝道師”というキャッチコピーを入れましたが、少しでもそういった存在に近づければと思っています」

　アルバムと同時に楽譜も発売されるとのことで、実際に弾いてみたくなる方も多いことだろう。作曲にあたっては、演奏する側のレベルなども考えるのだろうか？

「アルバムを作るときは、まず自分のなかから湧き上がるメロディを大切にしているので、基本的には自分が弾きたい曲になります。けれど今作は、ペダルを楽しく踏める曲があったらいいなと思って“Pedal's Song”という曲を入れたり、指に障害のある方のために書いた左右2本ずつ、4本の指だけで弾ける“鍵盤のカルテット”という曲を入れたりもしました。親指と人差し指だけなら、はじめてピアノに触れる方にも広く演奏していただけるのではないかと」

　曲のはじまりの4つの和音だけで誰かが歩いている映像がぱっと浮かぶ「アンダンテ」、学校から帰ってきた子どもと母親との会話が聞こえてくるような「おかえり」など、ある光景をそのまま切り取って音にしたような曲たちは、まさに西村さんならでは。メロディだけでなく、和声も含めたサウンド全体が頭のなかに広がっていて、それをピアノを通じてアウトプットしているように感じられる。

「まさにそうです。メロディ、ハーモニー、リズムのすべてを自分ひとりで作り、自分で演奏できるところが、ピアノという楽器のいちばんの魅力ではないでしょうか。イントロはこの音域、この音色、このテンポというのを明確にイメージし、自分の好きなように表現することができる。ピアノに出会えてよかったなあと、いつも思っています。
しかも今回は、ヤマハのCFXでレコーディングさせていただき、至福の時間でした。CFXで弾くと、自分の気持ちとピアノがすぐに一体になれるんです。この音色を出したいと思って鍵盤に指を置くと、それを本当に忠実に再現してくれる。どこの音域もタッチが完璧に均一なのもありがたいですね」