4.HD時代に向けた静かな革命

CINEMA DSP TECHNOLOGY 4. HD時代に向けた静かな革命

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6

2006年、シネマDSPの静かな革命

2004年、サラウンドフォーマットや半導体集積技術の発展とともに進化を続けてきたシネマDSP技術の集大成と呼ぶべきモデルが姿を現します。DSDを含む既存サラウンドフォーマットのすべてに完全対応したうえで、合計8基もの演算用LSI(DSP処理用、音場測定処理用各4基)によって生の音場データが秘める膨大な初期反射音情報の完全再現を目指した「HDシネマDSP」搭載のフラッグシップAVアンプ、「DSP-Z9」の誕生です。「HDシネマDSP」は、従来のシネマDSPでは音場プログラムへ加工(サンプリング)する際にどうしても間引かなければならなかった生の音場データの微細な初期反射音情報までも圧倒的な演算処理能力で完全に活かす、まさに究極のシネマDSPでした。「HDシネマDSP」が初めて聴かせた、生の響きそのものといって過言でないほどのリアルな臨場感。それはシネマDSPの可能性を改めて認識させ、明日のシネマDSPが進むべき方向を指し示すものだったのです。

さらにDSP-Z9の発売からわずかに2年の後、DSP-1の誕生から20周年を迎えた2006年には、それまでに蓄積してきたシネマDSPテクノロジーに大きな見直しが加えられます。音場プログラム設計における音場データのサンプリング基準を「時間軸」基準から「音量レベル軸」基準へと変更し、複雑化していた音場プログラムの体系もシンプルに刷新。Blu-ray DiscのHD音声やデジタル放送のマルチチャンネル番組などの新しいAVソースを意識した、次のフェイズへと進化したのです。

言うまでもなく、これは「HDシネマDSP」での研究成果が活かされたものでした。生の音場データは数百本という膨大な情報量を有しており、音場プログラムを設計するプロセスでは優先順位に従ってそこからデータを適切に選び取っていく(サンプリングしていく)必要がありますが、フラッグシップ機と比べて演算処理能力に余裕のない中級機以下のAVアンプでは選び取れるデータの本数も限られてくるため、そのサンプリング基準が各プログラムの音場再現に大きな影響をもたらします。従来のシネマDSPでは、主に「時間軸」基準、すなわち音が壁面などに反射して聴き手に届くまでの到達時間の早さを基準に初期反射音をサンプリングしていましたが、「HDシネマDSP」の開発過程で明らかになったのは、むしろ「音量レベル軸」、すなわち聴き手に届く音量の大きさを基準にサンプリングしたほうが、生の響きにより近くなるということでした。これも、すべての初期反射音の完全再現を目指した「HDシネマDSP」あればこその新発見だったのです。2006年秋発売の中級機「DSP-AX2700/1700」を皮切りに、サンプリングのポリシーを総合的に見直した新世代シネマDSPはすべてのヤマハAVアンプに搭載されていきました。

この音場プログラムの刷新は、当時目前に控えていたHDオーディオ時代に向けたヤマハの回答でもありました。Blu-ray Discなどの高品位な音声に対して、シネマDSP技術はどのように関わっていくべきなのか。その課題にいち早く応えたのが、HDオーディオ(DTS-HDマスターオーディオ、Dolby TrueHD)に完全対応したDSP-Z11(2007年)でした。さらに2010年代、ミュージックエンハンサーとシネマDSPの組み合わせが、インターネット経由のストリーミング配信やゲームなど多様化する圧縮音声採用のAVコンテンツにも新たな生命を吹き込みます。

すべてのシネマDSPプログラムは開発されるAVアンプごとに常にブラッシュアップされ、時代の要請にしたがって常に新しい姿を現します。そして、一般家庭と映画館との再生環境の違いを克服するというシネマDSPの使命は、時代とともに輝きを増し、いまも進化の過程にあります。

DSP-Z9

反射音図 Hall in Vienna(改良前)

反射音図 Hall in Vienna(改良後)

初期反射音のサンプリング基準軸を、時間から音量レベルに変更。より生の響きに近くなった。

  • 1. DSP=“デジタルサウンドフィールドプロセッサー”の思想
  • 2. 究極のリアリティを求めて
  • 3. 「HiFi-DSP」から「シネマDSP」へ
  • 4. HD時代に向けた静かな革命
  • 5. より忠実な空間再現を求めて
  • 6. よりリアルに、もっと手軽に