シネマDSPによる音場再現のベースとなっているのは、国内外の著名ホールや劇場などを巡り、「近接4点収音法」によって1980年代前半から収集を続けてきた生の音場データです。この音場データはシネマDSPプログラムの開発のみならず、優れた音響特性を持つ建造物の空間的な研究や、貴重な建築物の音場情報のアーカイブなどを目的に始められたもの。独自の測定・解析システムによって直接音と反射音との立体的な関連性が克明に記録されたこれらのデータには、それぞれの音場空間の響きと広がり(幅・奥行・高さ)を三次元的な形で再現し得る膨大な情報量が秘められていました。
ヤマハでは、2chステレオ再生の時代には存在しなかった音場の「高さ」という概念が臨場感に与える影響力の大きさに早くから着目。デジタル・サウンドフィールド・プロセッサーの第一号機「DSP-1」以来、独自のエフェクトスピーカーの採用を通して、既存の家庭用再生装置では困難とされてきた「高さ」方向の音場再現にこだわってきました。音場の「高さ」が生み出す立体的な再現力、それこそが「まるでその場所にいるような」シネマDSPの臨場感の源であるといって過言ではありません。
2007年、DSP-Z11とともに登場したシネマDSP〈3Dモード〉は、こうした考え方をさらに一歩推し進め、生の音場データが持つ「高さ」方向の情報を積極的に活用して立体的な空間再現力を高めた新機能でした。映画系プログラムでは画面に引き込まれていくようなエキサイティングな体験を、また音楽系プログラムではホールやライブハウスの床鳴りや天井の反射音がつくり出す生々しいプレゼンスを、大画面テレビやプロジェクター再生にふさわしい圧倒的なスケールとともにお楽しみいただけるシネマDSP〈3Dモード〉。さらにDSP-Z11には、最大11.2ch構成によって生の音場データに秘められた膨大な初期反射音情報の完全再現を目指した3次元高密度音場プログラム=シネマDSP HD3(エイチディー キュービック)も搭載し、DSP-1以来の夢であった実測音場データの完全再現をついに現実のものとしたのでした。