生の音場データが持つ膨大な空間情報。その忠実な再現を求めた結果として、最新のシネマDSPが理想とするスピーカーの数は増え続けてきました。シネマDSP〈3Dモード〉では5.1ch+フロントプレゼンスの7.1ch構成、またはリアプレゼンスを加えた9.1ch構成。フラッグシップ機に搭載のシネマDSP HD3ではこれにサラウンドバックも加えた最大11.2ch構成。そのスピーカー数はすなわち、シネマDSPというシステムの卓越したポテンシャルの証にほかなりません。しかし日本の一般的な住環境にあっては、そのメリットは理解していても、5.1chを超えるスピーカーの設置を躊躇される方が多いのも事実です。
2010年に完成した「バーチャル・プレゼンススピーカー」は、既存の5.1chスピーカー構成を駆使して仮想のプレゼンススピーカーを創出し、シネマDSP〈3Dモード〉をスピーカーの追加なしで実現する画期的な機能です。ヤマハの研究開発センターが開発した、左右のサラウンドスピーカーを仮想定位の主音源としてクロストーク補正をセンタースピーカーで行う新しいバーチャル処理方式を応用し、あたかもプレゼンススピーカーを設置したような「高さ」と「奥行」、そして立体的な音場効果を実現しました。さらに2013年には、仮想のリアプレゼンススピーカーを空間上に創出して9.1ch~11.2ch再生をリアプレゼンススピーカーなしで実現する「バーチャル・リアプレゼンススピーカー」も実用化。ヤマハの独自技術を駆使したふたつのバーチャル機能が、立体的音場再現の興奮をいっそう身近にします。
映画や音楽などのコンテンツを理想的な状態で再生し、シネマDSP本来の効果を引き出していただくために、ヤマハでは視聴環境を最適化する新たな技術の普及にも取り組んでいます。DSP-Z9(2004年)から導入された視聴環境最適化システム「YPAO」(Yamaha Room Acoustic Optimizer)は、主にスピーカーからの直接音をコントロールすることで、実際の部屋では前後左右で異なってしまうことの多い設置条件や、メイン用とサラウンド用でかけ離れてしまいがちなスピーカー自体の特性を可能な限り均一にしてシネマDSPの音場効果をより高める機能で、現在ではエントリーモデルを除くヤマハAVアンプのほとんどの機種に標準搭載されています。
さらに上級の「AVENTAGE」シリーズ(2011年~)では、部屋の反射音や残響音をも積極的にコントロールするふたつの機能、「YPAO-R.S.C.」「DSPエフェクトノーマライズ」も併せて搭載しました。このうち「YPAO-R.S.C.」は、再生環境(部屋)の反射音の中でも音への影響がもっとも大きい初期反射音に注目し、不要な一時反射音を抑えることで主に低域の解像感を改善。また「DSPエフェクトノーマライズ」は、高次反射音を含めた再生環境の残響特性に応じてエフェクトレベルを自動補正し、シネマDSPの“効き具合”を常に最適値にコントロールするものです。
いっぽう上級ユーザー向けには、シネマDSPプログラムのパラメーターの一部を手動で微調整できるカスタマイズ機能も用意されています。調整できるのはルームサイズ(仮想空間の広さ)とディレイタイム(初期反射時間)のふたつで、それぞれを単独で調整することが可能。映画系プログラムの場合は両方のパラメーターを同時に、音楽系プログラムの場合はお好みに応じてルームサイズとディレイタイムを別々に設定するのが基本的な使い方です。
なかでも<MOVIE>カテゴリのプログラムは、映画の制作者がイメージした仮想の音場空間の忠実な再現を目標にしていますから、たとえばルームサイズが1.2倍ならディレイタイムも1.2というように、ルームサイズとディレイタイムの関係を常に同じにしながら、お聴きになる部屋のサイズ(正確にはスピーカーの間隔)に応じて大小を調整することで、より高精度な音場再現が可能となります。たとえば同じ映画でも、6畳の空間と20畳の空間とではスピーカー間の距離が違ってくるのは当然ですから、このカスタマイズ機能を使うことで、より聴取環境にマッチした再生が実現するわけです。
また音楽専用プログラムの場合、ルームサイズは文字どおり演奏される空間の広さに、ディレイタイムはステージから聴取位置までの距離に置き換えることができます。両者の役割は完全に分かれていますから、好みに応じて別々に調整することができるのです。たとえばプログラムの原データが「2000人収容のホール」のものの場合、これを3000人クラスのホールのようにしたければルームサイズを1.5倍にすればいいわけです。またディレイタイムを小さくすれば客席の最前列で、大きくすれば後ろのほうで聴いているように、初期反射音を自在にコントロールすることも可能。このようにヤマハAVアンプのシネマDSPプログラムには、ボタンひとつで最適な臨場感が得られる使いやすさはもちろん、ホームシアターの神髄を極めるための高度な調整機能も隠されているのです。