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セルゲイ・カスプロフ 氏(Sergei Kasprov) プログラムは常に作曲家や作品の関連性を考慮して組み立てる。それが楽しくてたまらないのです。 この記事は2017年10月 06 日に掲載しております。

ロシア出身のユニークなピアニスト、セルゲイ・カスプロフは、ヴァレリー・アファナシエフから「彼は他のピアニストとはまったく違う弾き方をします。集中力の高さ、強度、時間の扱い方からして違うのです」と絶賛された逸材。その音楽観に耳を傾けてみると……。

Profile

pianist セルゲイ・カスプロフ

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セルゲイ・カスプロフ
モスクワ音楽院にてアレクセイ・リュビモフ教授が新設した鍵盤楽器科に入学。同教授に師事しピアノのほか古楽器とオルガンも学ぶ。その後、パリのスコラ・カントルム音楽院にて研鑽を積み、現在はモスクワ音楽院にてリュビモフ氏の助手を務める傍ら、自身のクラスで後進の指導にあたっている。2005年ニコライ・ルービンシュタイン国際ピアノコンクール(パリ)第1位受賞をはじめ、同年ホロヴィッツ記念国際ピアノコンクール(キエフ)で特別賞、2006年スクリャービン国際ピアノコンクール(パリ)にて第1位、同年マリア・ユーディナ国際ピアノコンクール(サンクトペテルブルク)最高位、2008年リヒテル国際ピアノコンクールではアファナシエフに絶賛されモスクワ市政府賞を受賞するなど、数々の著名なコンクールにて好成績を残す。
欧州を中心に演奏活動を行っており、著名な音楽祭への招待も数多く、2009年にはラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭(フランス)、クララ音楽祭(ベルギー)、ショパンと彼のヨーロッパ国際音楽祭(ポーランド)に出演し絶賛を浴びる。これまでに、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団やモスクワ国立交響楽団と共演を果たし、2010年にパリのシテ・ドゥ・ラ・ミュージックにおいてエマニュエル・クリヴィヌ指揮の下、リストのピアノ協奏曲第2番を演奏し高く評価された。
2014年リリースし、ディアパソン賞を受賞した「Exploring Time With My Piano」(ALPHA)では、現代ピアノでバロック音楽を再現するという観点からはなれ、現代ピアノの技法を尊重しつつ、見事にバロック音楽の可能性の一つを明示している。2015年には「ソナタ&トランスクリプションズ」(IMC)、2016年には初来日時のライブCD「ライブ・イン・東京2015」(IMC)をリリースしている。
※上記は2017年10月06 日に掲載した情報です。

ロシア・ピアニズムに明確な定義はない

 ここで、カスプロフのこれまでの歩みを見ると……。彼は2005年からさまざまな国際コンクールで好成績を残しているが、とりわけ2008年にモスクワで開催されたスヴャトスラフ・リヒテル国際コンクールでは審査委員長のヴァレリー・アファナシエフに絶賛され、モスクワ市政府賞を受賞している。そんな彼の演奏は、楽器を豊かに鳴らし、ダイナミズムの幅が広く、レガートが美しく、歌心が息づいている。まさにロシア・ピアニズムの継承者といえるのではないだろうか。
 「でも、いまやロシア・ピアニズムの伝統は失われつつあります。この流派の定義は非常にあいまいで、世界的にはブランド化していますが、私はロシアのピアニストも教育法も、いまや新たな時代を迎えていると思います。それがどのように定着するかは、いまだ謎ですね。 私はこの偉大なる伝統を守りつつも、自分自身の新たな方向性をひたすら追求していきたいと思っています。それがピアニストの個性であり、作曲家や作品に対する敬意でもありますから」
 カスプロフはインタビューの際中、質問に答えるなかで、作品に対する具体的な面を示そうと、すぐにピアノに向かった。実際に音を出してみて、「ほら、ここはワーグナー的でしょう」とか「このフレーズと次のフレーズの間には、密接な関連性があると思いませんか」と、ピアノで示した。
 そういう話をするときの彼は子どものように純粋な表情を見せ、目の輝きが増し、非常に好奇心に満ちていた。現在は、リュビモフのクラスで助手を務め、後進の指導も行っているが、恩師同様、教育法は型にはまらないユニークなもののようだ。
 演奏もまた、一度耳にするといつまでも記憶に残る、強い個性と表現力を備えたもの。ヤマハCFXと一体となり、美しい響きを徹底的に追求した特有のピアニズムは、ピアノ好きの心をとらえてやまない。多くのファンが次回の来日も心待ちにしているに違いない。

Textby 伊熊よし子

セルゲイ・カスプロフさんへ “5”つの質問

※上記は2017年10月06 日に掲載した情報です。