楽器のマッチング

トランペット用マウスピース

フレンチホルン用マウスピース

トランペットとフレンチホルンのマウスピースがそれぞれまったく異なったキャラクターを持っていることが、断面図を見るとよくわかります。トランペットのカップはフレンチホルンより明らかに浅く、また、板厚の違いやリムの厚さの違いも明白です。このような違いを、楽器のイメージや特徴に照らし合わせて整理して考えれば、マウスピースの各部の役割を理解することも容易でしょう。

トランペットの“隙間”

ここで改めてマウスピースの吹込管の関係に注目して欲しいのです。トランペットの場合、マウスピースと吹込管の間は、若干の隙間を持たせた構造になっています(上図参照)。この種の楽器は、スピード感のある明るい音を得るために、吹込管が比較的細くなっていますが、意図的に隙間をつくることで、適度な音波の反射が起き、奏者にある種の抵抗が加わるように作られています。そして、この抵抗こそが、奏者の柔軟性と耐久力を助ける役目を果たしているのです。ここで仮に、この隙間のない理想的に滑らかな内径を持つトランペットを演奏したとしましょう。おそらく大多数の人は、抵抗のない素晴らしい楽器と直感的に思い込むに違いありません。しかし、実際には、少し吹いていると次第に疲れが増し、いつものように吹き続けることができなくなってしまうでしょう。直感的に悪いと決め付けられた隙間による抵抗が、実は奏者にとって有効かつ適度な抵抗として、フレキシビリティと耐久力を助けるものだったのです。また、この隙間によって特に高音域のアタックがやりやすくなります。近年、このことは一般的にも知られるようになってきました。現在のピストン式トランペットの場合、この隙間の長さは、2mm程度が良好です。

フレンチホルンの“段差”

フレンチホルンは、トランペットと異なり、マウスピースが直接、吹込管に装着されるため、シャンク細端部の厚さ分だけ、吹込管内径との間に段差が生まれます。一般に、このような構造を持つ楽器は、柔らかな音質を持ち、フレキシビリティに富んでいます。(ロータリートランペットのレシーバー部も、フレンチホルン同様の構造を持っており、このことは、楽器の歴史的発達と音楽に深く関わっています)。そしてフレンチホルンの場合でも、シャンク部の入りの深さを不用意に変更すれば、ピストン式のトランペットと同様に適度な抵抗感を失う結果となります。このように、楽器とマウスピースの接点であるレシーバー部の寸法設定は、細心の注意が必要なため、楽器とマウスピースが最良のバランスを発揮できるように、設計されなければなりません。異なったメーカーの組み合わせの場合、それぞれの能力を打ち消してしまうこともあるので、マウスピースの選定には、愛用の楽器での試奏が不可欠です。