審査員コメント

第6回 ヤマハジュニアピアノコンクール

審査員コメント

岡田 敦子氏(ピアニスト、東京音楽大学教授)

皆さん、素晴らしい熱演をどうもありがとうございました。楽しく聴かせていただきました。皆さんの音楽が自分のものになっていて、習った演奏以上の演奏をたくさん聴かせていただいたことを、とても感謝しています。
ただ、ピアノを弾いている時に、その人が何を思っているのかということも、結構良くわかってきます。演奏というのは、お芝居をするように、自分の性格以上のものを引き出し、いろんな人物になれるのが演奏の楽しさです。それをとても楽しくやっている人もいるし、もう少しという人もいました。演奏というのはそういうものなので、自分の中にあるいろんな人間を、演奏で引き出してくれることを祈っています。
これから順位を発表しますが、皆さんの力の差が無いということで、切迫した成績で、誰が選ばれてもおかしくないというくらい、とても票が割れておりました。今日の成績にこだわらないで、また、音楽の領域を広げて、素晴らしい演奏を聴かせていただくことを楽しみにしています。

若林 顕氏(ピアニスト)

皆さん、本日は楽しい時間を過ごさせていただきありがとうございます。大人になってからも大事なことなのですが、演奏に集中して無心で楽しんで弾いているという姿が、例外なく、素晴らしい音楽を生んでいたと思っています。それぞれの個性が、自然に出ていたように思います。
今回はコンクールということで順位をつけないといけませんが、先ほど岡田先生もおっしゃっていましたが、本当に差がありませんで、どなたが1位になってもおかしくありませんでした。
ぜひ順位にはこだわらず、この先もっともっと、いろいろなジャンルの音楽を含めて、ピアノだけではなく、オーケストラを含め、いろいろな種類の音楽を聴くことは、ピアノにはとても良いことだと思っていますので、そういったことも含めて、幅広く音楽に親しんでいただければ、素晴らしいのではないかと思います。皆さんの更なる飛躍を期待いたします。

仲道 郁代氏(ピアニスト、桐朋学園大学教授)

皆さん、本当に今日は楽しく聴かせていただきました。なぜかと言うと、一人一人の個性がすごく感じられたから。皆のびのび自分のやりたいことを表現できたのではないかなと思います。
私が9歳、10歳の頃を振り返ってみると、私自身何していいかわからない時でした。だから、今日皆さんを見ていて、すごく羨ましいなと思いました。
そして、小学校5、6年生になったら、私はピアノを弾くのが苦しくなりました。なぜかと言うと、大人の音楽の入り口になるというか、これからベートーヴェンやモーツァルトはどういうふうに弾いたら良いんだろうとか、ショパンの作品はどうやって弾くんだろうとか、すごく伝統あるクラシックをどうやって弾いていくんだろうと、すごく苦しくなって、一生懸命探して探して、「こうかな」「どうかな」とやっていると、作品や音楽が助けてくれる。どんなに悩んでも、音楽はすばらしいなと思って続けていたら、今に至りましたけど、皆さんも悩んだり壁にぶちあたったりすることもあると思いますが、今のキラキラした気持ちを忘れないで続けていって下さい。今日は素敵な演奏を聴かせて下さってありがとうございました。

東 誠三氏(ピアニスト、東京藝術大学教授)

皆さん、今日はおめでとうございます。本当に素晴らしい演奏ばかりで、楽しく聴かせていただきました。皆さんがずっとこのコンクールの舞台のために、一生懸命勉強、練習を重ねてこられた様子がすごく心の中に浮かびましたし、それを思い切って臆することなく、この場で発表してらっしゃる姿、とてもすがすがしいと思いました。
本当に皆さんは、勉強している事がきちんと実っていかれる。それは、ご指導の先生方をはじめ、ご家族の方々のいろいろなサポートがあるからだと思いますが、それを感謝の心を忘れずに、これからも一生懸命お稽古を続けていってください。
仲道先生がおっしゃっていたように、昔からいろんな作曲家の人たちがたくさんの作品を書いて、それぞれが、ひとつひとつ素晴らしい世界をかたち作っている。その中に、練習することによって分け入っていくのですが、その世界の奥深さと言うのは、何物にも代えがたいものがあるような気がしています。どんなに掘っても掘っても、いくらでも宝の山が出てくるというような感覚を覚えるといったことがありますので、皆さんぜひピアノを通して音楽を続けていくということを、ずっとこれからの将来の中に組み込んでいっていただきたいと思います。
ほんの少しなのですが、自分の音を聞いて美しいと思えるかどうかを一つの目安にしていくといいと思います。それから、いろいろな音楽、もしくはいろいろなものに接してみてください。あなた方一人ひとりがどういう風に感じたかをすごく大切にしていくと良いと思います。
これからも頑張ってください。将来、皆様の演奏を聴くのを楽しみにしています。

東 誠三氏(ピアニスト、東京藝術大学教授)

皆さん、今日はお疲れ様でした。素晴らしい演奏を聴かせてくださって、私は時の経つのも忘れて、皆さんの演奏に聴き入っていました。特に私が感心した点は、皆さんの感性を存分に発揮して弾いていらしたことがとても良く感じられて、なかなかコンクールでそういう気分になるということは少ないのですが、皆さんの個性を楽しんで聴くことができた、そういう演奏が多かったと思います。
また、皆さんの持ち味と言いますか、個性にあった選曲をされていて、それもまた見事だなと思いました。
ここから先は私の夢のような話ですが、皆さんの将来というものは、全く予想もつきませんが、今日ここで弾かれた皆さんが、なんらかの形で音楽という世界にかかわって、この先の将来、どこかで皆さんの演奏にお会いできる機会を持ってみたいなと、純粋に思いました。
音楽というのは、幅広い表現があって、そのどれもが素晴らしいのですが、それを素晴らしくしている要因というのは、皆さん一人ひとりの感じる心なのです。感受性と言っていますが、それがあるから、音楽は素晴らしく感じられる。皆さんは、ピアノを弾く上での基本的な技術と言ったらちょっと幅広くなりすぎますが、かなり身についてきていらっしゃる部分に感心いたしました。ぜひこれからも皆様の素晴らしい感性を磨いて発展していっていただきたいと思います。
何よりも大切なのは、感動する体験、もしくは美しいと感じる体験をできるだけたくさん積み上げていくことではないかと思っております。音楽だけでなくても良いです。他の分野の事でも良いです。ぜひ何か特別だと感じる体験をたくさん積極的に積まれていって、またどこかで皆さんの演奏を耳にさせていただける時が来るのを、心待ちにしております。今日は本当にありがとうございました。

仲道 郁代氏(ピアニスト、桐朋学園大学教授)

皆さん、良く頑張りましたね。一生懸命ご準備なさって、良く弾かれていて、とても感心しました。これだけピアノと言う楽器と向き合って、弾くということができるようになった皆さんは、ぜひお家の人とか、周りのお友達とかに、いっぱい、いっぱいピアノを弾いてあげてください。この曲のこんなところが好きで、私これが好きなの、ということをどんどん弾いてあげたら、周りの人はすごく喜ぶと思います。
コンクールなので、ちょっと思ったこともお話させていただきます。古典はですね、モーツァルト、クレメンティ、ベートーヴェン難しいですよね。きっと皆さんも、今日弾いた3曲の中で一番、どうやって弾いたら良いだろうと思ったのではないでしょうか。古典は楽譜をちゃんと良く見ること、どこまでスラーがついているかとか、どこにスタッカートがついているかとか、フレーズがどうなっているかということを、本当にその通りに弾けば、スタイルはできるものです。よくベートーヴェンはどう弾いたら良いでしょうと聞かれるのですが、何か特別なことをしようと思う前に、楽譜を、目を皿にして細かなところまで見てみてください。実現しようと思って見て下さい。そうすると、見えてくるところがあると思います。
自選曲は、東先生もおっしゃったように、皆さん個性にあったものを選ばれていて、すごく楽しく聴かせていただきました。
あと、編曲も皆さんすごくナイスでしたね。聴いていて心地よく、ナイスだったのですが、私はスベシャルなものを聴きたかったです。スベシャルな音、スベシャルな瞬間、それが音楽の素晴らしさを生むので、編曲に限らず、これからご自身のスベシャルな表現、スベシャルな瞬間、音楽だから素晴らしいと思えるような瞬間を探して、これからもピアノに向き合っていって下さい。

菊地 裕介氏(ピアニスト、東京音楽大学専任講師)

まずは、皆さんにおめでとうと申し上げたいです。本当に素晴らしい個性もありましたし、非常に良く努力して準備されてきたのだろうなということは、非常に良く伝わりました。自分の子どもの頃のことを考えると、皆さんのことを本当に尊敬いたします。
ただ自分の子どもの時のことではなく、今の自分の見えている世界からお話すると、まだいろいろと勉強してほしいなと思うことはありまして、まず一つは、今日皆さんはソナタを弾かれましたけど、もしかして全楽章勉強してない人がいるのではないのかなぁと頭をよぎったのですが、いかがでしょうか。ソナタというのを構造的に見た時に、他の楽章との兼ね合いであるとか、注意すべきポイント、いろんなことをしないといけないのですが、中でも特に重要なその曲の根幹をなす部分に基づいて複数の楽章を作曲家は書いているので、そこがもし見えていれば、この部分は素通りはしなかったのではないかな、ということがポツポツと見受けられたので、それが一つ問題提起です。
もう一点は、音を出す、音をつかまえるというところまでは、皆さんすごくスキルもあって、素晴らしいなと思うのですが、その音をどこに繋げるか、次どこに逃がすのか、いなくなるのか、それとも隣の声部と合流するのか、どこまで延びて、どの瞬間にいなくなるのか、音をリリースする瞬間、あるいはその方法というものについて、いま一つ考えていただきたいなと思う場面が、チラホラとありました。
今後本当にすばらしい世界が待っていますので、これからずっと続けていってほしいなと思いました。頑張ってください。

若林 顕氏(ピアニスト)

皆さん、本日は大変お疲れ様でした。私を含めて審査員の皆さんは皆そうだと思いますが、とても聴き応えのあるプログラム、演奏だったと思います。今日弾かれた皆さんのプログラムは難しい曲を含んでおりまして、本当に大変なことだったと思いますし、すごいことだったと思います。
私が考えているピアノっていうのは、一人で全部できる楽器、音がたくさんあるということから、小さなオーケストラとも呼ばれる楽器であると思っています。
音が多くなると、難易度の高い曲で音がたくさんある曲になった時の弾き方がいつも課題になりますが、聞こえたいメロディーというのが無理なく聞こえるように、バランスを取っていくところがすごく大事で、理屈ではわかっていても、ピアノは弾くこと自体が難しいので、どうしてもいっぱいいっぱいになってしまうということが、誰しもあると思います。
そこで、少し工夫をしなくてはいけないということですね。
オーケストラでも、やはりスコアを見るとたくさんの音がありますが、役割というのがそれぞれあって、バイオリンだってたくさんあっても、もう一方で、聞こえるか聞こえないかの役割の成分もたくさん入っていて、ピアノでも現実的にそれはあります。それをちゃんととらえてしまうと、混乱してしまう危険性がピアノにはあります。聞こえたいメロディーというものにはちゃんと届け、そしてその背景、音はあるけれども、これは背景の色、雰囲気、においとかイメージとか、そういうものを作るものだと考えた時に、弾き方はいろいろあると思います。非常にうすく軽く弾くとか、遠近感なりイメージを持って弾くとか、そういう整理ですね。それをして勉強されると、技術的な困難なところも、期せずして解決したりすることもたくさんあると思います。今後、難易度の高い曲を弾かれていくと思うので、そういう時に整理の仕方というのをそれぞれのやり方で工夫されると良いと思います。
あと、ハイドンとか古典ですね。ペダルはすごく気をつけないといけないところです。ペダルは練習の時にはなしで練習をするということは、決して悪いことではないと思います。本番は必要に応じて少し使うということはあると思いますけども、基本的には、非常に薄く少なく、フィンガーレガートで、指で全部弾く、または頭でちゃんと理解して大事に弾く、ゆっくりとした練習、何が起こっているかわかって弾くということが大事です。速度もあんまり飛ばしすぎないで、練習の時は非常に大事に注意深く、ちょっと胃がキリキリするくらい注意深く、少し忍耐力が必要ですが、そういう時間も作ったらいいかと思います。練習は短く、非常に集中して、休みはたくさん取って、集中して、それでその練習の時に何を達成するか、目的をもった15分とか30分とか、それで1時間休みというような、いろいろな人のやり方があると思いますけど、かなり頭を使ったやり方というのが、進歩・発展につながる一つの要素だと思いますので、そのあたりを工夫するのもいいかもしれません。
ここまで弾けたのは本当に素晴らしいことなので、自信をもって頑張って下さい。もっともっと発展して、世界に行けると思いますので、ここからのスタートで頑張って頂きたいと思います。ありがとうございました。

迫 昭嘉氏(ピアニスト、指揮者、東京藝術大学教授)

コロナ禍の大変な状況の中で、毎日一生懸命に練習してこの舞台に持って来るというのは大変なことだったと思います。4人の方たちの演奏、楽しく聴かせていただきました。
ユース部門に参加された方たちは、年齢的に大人への変わり目の時期。ただ弾くことに喜びを感じるというレベルから、作曲家が身を削って書いた作品をどのように聴く人に伝えていくかというところにシフトしていかなければなりません。そのためには、作品への理解を深め、さらに自分がどういう音を出しているのか、客観的に聴けるようになって欲しいですね。道のりは長いですが、引き続き努力していただければと思います。

岡田 敦子氏(ピアニスト、東京音楽大学教授)

このコンクールは、参加者が国際コンクールにつながっていけるようにという大きな目的で開催されているとのことです。そのような意味で、審査員の先生方とお話したことをお伝えしたいと思います。
ひとつは、プログラムについてです。音楽は、絵画やダンスなど様々な芸術の中で、唯一形がありません。だからこそ、直接人の心に響くのです。ショパンを弾く、リストを弾くといっても、その人にとってその曲が何かということを聴く人は感じ取ります。本当にその曲に共感して弾いているか、かっこよく弾けるんじゃないかと思って弾いているか、そういうことは伝わってしまうので、本当に自分が共感できる作品を選び、練習しながら作品への理解を深めて欲しいと思います。
もうひとつは、今回の課題曲は古典派のソナタで、これは国際コンクールでは当然要求されることなのですが、若い方たちにとって古典派の作品は難しいと思います。私たちはピアノを中心に考えますが、モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、バッハも、作曲するときに、ピアノではなく弦楽合奏を想定していたのではないでしょうか。当時の中心的な楽器は弦楽器であり、管弦楽の合奏だったことを考えると、ピアノだけ弾いていても、あるいはピアニストの演奏だけを聴いていてもわからないことがあります。また、管弦楽の演奏は時代によって演奏スタイルが変わっています。そのようなところを、ぜひ生の演奏や録音で体験して、古典派の作曲家について理解を深め、みなさんが世界に大きく羽ばたいていくことを祈っています。