ユース部門 受賞者インタビュー

第10回 ヤマハ ジュニア ピアノコンクール

ユース部門 受賞者インタビュー

2025年8月1日(金)に第一生命ホールで開催しました第10回ヤマハジュニアピアノコンクール ユース部門グランドファイナルの終演後、受賞者へインタビューを行いました。

田中 瑛仁 さん

受賞が発表された瞬間は、まさか1位をいただけるとは思わなかったので、本当に驚きました。
今回は、かなり短期間で多くの作品を準備する必要があり、今日もとても緊張していました。でも、いま自分にできることは、すべて演奏に出せました。

僕は、少なかったレパートリーを増やしたいと思い、このコンクールへの参加を決めました。
選曲は、いろいろなジャンルの曲を演奏したいので、作品が生まれた時代や求められる表現が異なるものを選ぼうと考えました。そして、作品一つひとつの正しい加減を見つけるためにも、さまざまな楽曲に取り組み、それらを相対的に考えるべきだと思いました。その結果、今日のグランドファイナルでは、古典のハイドン、ロマン派のシューマン、近現代のヒナステラというプログラムになりました。短期間で多くの作品を準備するのはとても大変でしたが、その練習にもなりました。また、苦労した時期もありましたが、それを乗り越える大切さを学ぶことができました。

このコンクールは、国内最高峰の第一生命ホールで、45分間も演奏させていただけるという点が、最大の魅力です。そして、今日のヤマハCFXは、素晴らしいピアノでした。僕がこれまで演奏してきたピアノの中で、一番良かったかもしれません。特にヒナステラの作品では、最低音を何度も使うのですが、心地よい大きさで低音が響いてくれました。また、素晴らしい審査員の先生方から講評をいただけるのも、本当にありがたいことです。審査員のみなさんと対面でおひとりずつお話を伺い、自分自身でもこれから追求していかなければと考えている点を、指摘していただきました。いただいたアドバイスをしっかり咀嚼して、さらに研鑽を積みたいと思います。

田中 瑛仁 さん

ピアノを始めたのは、5歳の時。
すぐに夢中になり、6~7歳の頃には、帰ってきたら40度の熱を出していたような体調でも発表会には必ず参加する子どもでした。
「東京藝大ジュニア・アカデミー」にも参加し、素晴らしい経験をさせていただきました。そこで初めて本気になり、ピアノの素晴らしさに気づきました。今後は、海外でも学びたいと考えています。場所は特定していませんが、やはり西洋音楽を学んでいるので、ヨーロッパにも行って現地の空気や文化を感じたいです。そして、精神力を身につけるためにも、留学の経験が必要かなと思います。これまで両親に支えてもらい、感謝しかありません。これからは、ひとりでもやっていけるようにならなければと考えています。

田中 瑛仁 さん

今後は、「無我の境地」を目指したいと思っています。作品に対して「どう弾くべきか」という解釈をするためには、もちろん自分の意思や自我が必要だと思います。でも、楽譜を読み込むときや、作品にどう取り組むかという段階から、しっかりと作曲家に向き合いたいです。そして、演奏中には、自分をどう見せるかではなく、作曲家のみに興味がいくような精神になれたらいいなと考えています。

このコンクールは、受賞するだけで終わらず、これから演奏や学びの機会をいただける特典があると伺いました。僕がピアニストとして成長していけるように、バックアップをしていただけるというのが嬉しく、本当に参加して良かったと思います。今後は、「音楽を純粋に愛して向き合えるピアニスト」を目指していきます。

及川 百花 さん

このコンクールには、2回目の参加です。昨年は、グランドファイナルへ選出されたにも関わらず、準備不足で入賞が叶いませんでした。今回はリベンジの気持ちで挑戦したので、第3位という結果は、正直に言うと悔しい気持ちもあります。

ブラームスの作品の中で、初めて本格的に取り組んだのが、今日のグランドファイナルで演奏した《7つの幻想曲集Op.116》です。2年前、師事している東誠三先生から勧められて弾いてみた時、「出会ってしまった!」と思いました。内面的な感情や強い思いを作品に込め、音を通して伝えたいというブラームスの内に秘めた思いが自分とフィットするような感覚がありました。
そういったこともあり、今回のコンクールはブラームスを中心に選曲を考え、セミファイナルでも《8つの小品Op.76》を演奏しました。また、グランドファイナルの課題曲として、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの他にシューベルトが挙げられていて、古典派ソナタの中にシューベルトがあるのはめずらしいし、ブラームスと組み合わせると強くまっすぐな思いが響きあうのではないかと、新たにシューベルトのソナタ14番に取り組みました。

及川 百花 さん

私がこのコンクールに参加したきっかけは、長い時間まとまったプログラムを演奏できるからでした。
課題曲にバッハもあり、ショパンのエチュードもあり、ロマン派もあり、古典ソナタもありと、さまざまなプログラムを組み合わせることができ、さらにグランドファイナルでは45分もの演奏時間を与えていただけるので、自分が成長できるコンクールだと思います。また、セミファイナルから第一生命ホールで演奏させていただける点も、特別感があります。昨年、今年と2年連続で演奏しましたが、温かい空気に包まれているように感じました。ホールとヤマハCFXとの相性も良く、今日もとても弾きやすいピアノでした。音と音の交わりが綺麗で、和音も美しく鳴り、自分の出したい音が出せるという印象を持ちました。

審査員の先生方からは、細かいアドバイスはもちろん、今日演奏した作品のみに限らず、これからの自分の演奏に活かせるお話をたくさんしていただきました。コンクールの講評を、活字で受け取ることは多いかもしれませんが、このコンクールは対面でお話できるのが嬉しいです。質問もできますし、自分の考えを伝えることもできるので、有意義な時間を過ごすことができました。

及川 百花 さん

5歳から、ピアノを始めたその教室で、キラキラと楽しそうに演奏している男の子のレッスンをみて、「ピアノってかっこいい!」と感じたことが鮮明に記憶に残っています。そしてもっと専門的にピアノを学びたいと思い、中学2年生のとき、日比谷友妃子先生に師事しました。素敵な演奏をする人達ばかりで、最初は躊躇する気持ちもありましたが、やっぱり自分もピアノが好きだと改めて思い、この世界にのめり込んでいきました。ピアノを演奏するには、もちろん練習が大切です。でも、それだけではなく、旅行をしたり、美術館でアートに触れたりすることが、音に繋がると思っています。ブラームスの時代に生まれた絵画を見ることで、インスピレーションが湧くかもしれません。また、子どものころからレパートリーを増やすことも大切で、いろいろな国の音楽に触れることが、よい演奏に繋がるのではないかと思います。

コンクールで評価していただくことも大切だとは思いますが、音楽の根本を忘れないような音を出したいです。コンクールで入賞するためには、高い評価を得るような技術的な作品もあり、それを演奏することも大切です。でも、そうした作品ではない楽曲もたくさん弾き、レパートリーを増やしていくことが、将来につながるのかなと思います。今後は、色彩感のある音を出せるようになりたいです。そして、作曲家によって変化するのはもちろん、その中でも立体感のある音楽を作れるようなピアニストなりたいです。

【取材:鬼木 玲子】
【撮影:武藤 章】