History of Products

History of Products - 1975 - 1987

ターンテーブル/チューナー/ヘッドホンその他製品(1973-1987)

1973年発売の本格単体アルミホーンツィーターJA-0506や、1976年に世界的な工業デザイナーのマリオ・ベリーニ氏を起用して誕生したヘッドホンのHP-1とカセットデッキの名品TC-800GL。そして「Gigantic(巨大な)&Tremendous(途方もない)」の頭文字をとって「GT」の2文字を冠した大型重量級プレーヤーGT-2000の誕生など。ヤマハHiFiオーディオの歴史に名を残す代表的な製品をご紹介します。

1973

スピーカー自作派を魅了した爽快な音と精密加工アルミホーンの美しい輝き

JA-0506

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JA-0506は、発泡スチロール製の変形振動板を持つ初代NSスピーカーとの組み合わせを想定して開発されたヤマハ初の本格的な単体ツィーターである。ホーン部とイコライザー部はいずれも無垢のアルミ丸棒から削り出された精密加工品で、広い指向特性とフラットな周波数特性に加え、直径40mmの大型マグネットを擁した強力な磁気回路により115dB/Wmもの高能率を実現。軽量・高剛性の硬質ジュラルミン製振動板を活かした明るく抜けの良いサウンドは、発売直後から高い評価を獲得した。バナナプラグが直接挿せるターミナル部や繰り出し量調整式の取り付けカプラー、付属の木製台など単体ユニットとしての使い勝手にも優れ、ユニット売りのNSスピーカーや他社製ウーファーと組み合わせてシステムを自作するハイアマチュアや、既存高級スピーカーのチューンアップ用として重用された。それにも増してオーディオ愛好家の心を奪ったのが、「楽器・エンジンなどを造りだす超精度加工がフルに投入された」(当時のカタログより)と謳われた、端正で質感あふれるその姿である。このシリーズにはアルミ削り出しホーンを採用したJA-0506(写真のモデル)のほかに、ホーン部を樹脂成形品に変更して一部の外装仕上げや実測データ添付を省略した廉価モデルのJA-0506B(価格はJA-0506の1万5000円/1台に対し8000円/1台だった)も存在し、こちらはNS-30後期型やNS-570など何台かのNSシステムにも搭載されている。

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1975

選りすぐりのパーツで贅沢に仕立てた品格ある佇まいの高級レコードプレーヤー

YP-1000

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プリメインアンプCA-1000(1973年)やスピーカーNS-690(同)など一連の"白木"(キャストール)シリーズの成功によりHiFiコンポーネント界の人気ブランドへと躍り出たヤマハだったが、レコードプレーヤーについては基本設計がひと世代古い入門~中級クラスの製品しかラインアップされておらず、CA-1000に見合うプレーヤーがない状態が続いていた。そこでCA-2000やCA-1000IIIなど"白木"シリーズのプリメインの第二世代機が誕生した1976年、これらとのセット訴求にふさわしい新設計のレコードプレーヤー3機種が併せて投入された。そのトップモデルがYP-1000である。駆動方式はダイレクトドライブで、モーターは20極60スロットのブラッシュレスDCサーボという当時最高峰の仕様。これにアルミの一枚板から削り出した超精密加工の31cm径ターンテーブル(地肌の美しさを引き立てる細いゴムリングがターンテーブルシートの代わりに埋め込まれていた)を組み合わせ、ヨーロッパ調の洗練されたスタイリングに仕上げていた。さらにトーンアームには業界随一の高感度を誇ったスタックスUA-7、カートリッジには高級MMの定番だったシュアーV-15タイプIIIと、愛好家なら誰もが認める一流品を標準装備している。

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1975

4年の歳月を費やして完成させたエクスペリメンタルな超弩級チューナー

CT-7000

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少なくともレンタルレコードが普及する1980年代初頭あたりまでの日本では、ステレオ音声を無料で楽しめるFMチューナーと、それを録音するためのテープデッキがレコードプレーヤーと並ぶ重要なオーディオソースだった。また北米を中心とした海外市場では、ラジオを録音する文化こそなかったものの、放送局がびっしりと林立する大都市部から遠隔地まで、さまざまな電波状況に対応する高い受信性能が求められていた。しかし、チューナーに求められる高周波技術はアンプなどの低周波技術とは比較にならないほどデリケートであり、メーカー間の格差が大きかったのも事実だ。CT-7000は、通信機器メーカーとしてのキャリアを持たないヤマハがチューナーの世界でも頂点に立つことを目指し、4年の歳月を費やして完成させた超弩級のFM専用チューナーである。測定限界値を超えた特性を実現するため専用の測定器を新たに開発、ここで実現された性能と音質は近未来の技術を先取りするものだったと言っていい。とりわけ主眼が置かれたのは厳しい状況下での実戦的な受信性能だ。隣接する放送局を混信なく峻別する高い実効選択度と低歪率との両立。電波の弱い弱電界地域での受信に求められる高感度と、強電界地域における許容入力との両立。相反するこれらの要件をCT-7000はかつてないレベルで兼ね備えた。FMが1~2局しか選べなかった当時の日本国内では宝の持ち腐れであったのも確かだが、ハイエンドチューナーがオーディオ趣味のジャンルとして確立しつつあった北米市場では、本機の登場によりヤマハのプレゼンスは一挙に高まることになる。とりわけ、チューナーにとって極限状況というべきアンテナ入力レベル146dBまでオーディオ特性が悪化しない耐入力特性、ダブルIF回路による音質と選択度との高度な両立は、その美しいアピアランスとともに、海の向こうの大都会に暮らすオーディオファイルを驚かせたことだろう。そして、本機から生まれた技術のいくつかはやがて低廉なHiFiレシーバーの受信性能をも引き上げ、現在の海外市場におけるヤマハAVレシーバーへの信頼につながっていく。ヤマハHiFi唯一の「7000」という型番が示すとおり、CT-7000は単なるコンポーネント製品のひとつに収まらない特別な存在であった。

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1976

開発者の探究心と高い製造技術でモノにした全面駆動・オルソダイナミック型ヘッドホン

HP-1

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このヘッドホンはふたつの明確な特長によって登場当時からセンセーショナルな話題を呼んだ。そのひとつが、「オルソダイナミック型」と名付けられた全面駆動ダイナミック型の発音体の採用である。これは振動板の表面にボイスコイルを直接プリントし、音を透過する薄型の有孔マグネットでそれを前後からサンドイッチした構造で、駆動源がそのまま発音源になるため分割振動や伝送ロスが原理的に発生しないという特性を持つ。この種の考え方は古くからあり、HP-1以前にもいくつかの商品化例があるが、いずれも成功していない。その理由は簡単で、端的に言えば製造が難しく、それに見合うだけのメリットを見出せなかったためだ。再びHP-1の発音体を見てみると、振動板は12μ厚のポリエステルで、これはちょうどC90カセットテープと同じ厚さ。すなわち「膜」と形容すべき極薄のフィルムである。この表面に250μ間隔の渦巻き状でフォトエッチングによるボイスコイルがびっしりと形成されている。さらにボイスコイルは同心円状に5分割され、分割位置ごとに巻き方向が交互に逆向きとなり、マグネットもこれに呼応してN極とS極が交互に5分割で着磁されている……という具合だ。つまり開発者の探究心と製造技術の高度な(=ヤマハならではの)コラボレーションによって、初めてモノにできた方式ということになる。そしてもうひとつの特長は、イタリアの著名工業デザイナー、マリオ・ベリーニ氏の起用によるシンプルかつ実用的なフォルムにある。見た目の美しさもさることながら、イヤーパッドを耳に押し当てる機能と、ヘッドホン全体を頭に載せて支える機能を二重のヘッドバンドで分担させ、さらにイヤーパッド部とヘッドバンドを自在に動くユニバーサルジョイントでつなぐことにより実現された軽やかな装着感は、工業デザインというものの意味を当時のオーディオファイルに強く印象づけたに違いない。1970年代中盤は、従来の丸いダイナミック型スピーカーに代わる次世代技術を模索していた時期である。ハイエンドシーンでは海外製を中心とした全面駆動型(プレーナー型)スピーカーに注目が集まり、ヘッドホンも国内外の大手数社がコンデンサー(静電)型に相次いで参入した。HP-1のオルソダイナミック型は、前後のマグネット板を電極と置き換えて考えれば動作原理がコンデンサー型に極めて近く、コンデンサー型の特性とダイナミック型の使いやすさを兼ね備える理想の方式として独自の立ち位置を主張する目論見だったのだろう。PDFでご覧いただける当時のカタログからは、世の中にないものをゼロから創造しようとする開発陣の熱気が伝わってくる。

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1976

道具の本質を極めた「ベリーニ・アングル」。世界的デザイナーによるカセットデッキの名品

TC-800GL

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TC-800GLはヘッドホンのHP-1と同じく、世界的な工業デザイナーのマリオ・ベリーニ氏を起用して誕生した独創的コンセプトのステレオカセットデッキである。ベリーニ氏はオリベッティ社のタイプライターなどのデザイナーとして当時の日本でも知られたビッグネームであり、このプロジェクトは80年代に流行する海外デザイナーとのコラボレーションの先駆けとして注目を集めた。本機の最大の特長は、「据置型とポータブル型のどちらを選ぶべきか?」というカセットデッキ選びの悩みを両者のシームレスな融合によって解決するバーサタイルなデザインにある。「ベリーニ・アングル」と称された独特のフォルムは、目の高さに置いても真上から見下ろしても、すべての操作部の文字や目盛り、レベルメーター、テープ走行状態が容易に確認できるようあらゆる角度が計算され尽くされており、裏側の収納式フラップを畳めば小脇に抱えて持ち運べる機動性も兼ね備えていた。電源はACのほか単二乾電池(9本)またはカーバッテリーによる3電源駆動に対応。またマイク入力とライン入力のミキシング機能、2段階のピークインジケーター、過大入力を防ぐリミッター、ピッチコントロールなど生録音や楽器練習のための実戦的装備が充実していたのもポイントだ。大型フライホイールや高精度キャプスタン軸の採用により、ポータブル機としては優秀な0.057%以下を実現していたのも楽器メーカーらしいところだが、そのイナーシャの大きなフライホイールが仇となり、歩きながらの録音再生には向いていなかった。そのためポータブルデッキには付きものの肩掛けベルトは装備されず、別売のキャリングケースも運搬に特化したアタッシュ型となっている。デッキとしての中身は1モーター・2ヘッドのベーシックな構成で、率直に言って割高な印象は拭えなかった。しかし手の届きにくい価格設定が逆にプレミアム性を醸し出し、カセットファンでなくても欲しくなるアイドル的存在であり続けたのも事実だ。PDFでご覧いただけるカタログの冒頭にある「何か胸をしめつけるような魅力をそなえた……」という一文、まさしく言い得て妙である。なおドルビーNRや3電源駆動などを省いた廉価版のTC-800も同時発売され、このモデルではブラックのほかにアイボリーのボディカラーを選ぶことができた。

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1978

シンメトリカルリニアアームを初搭載。未来を垣間見せた「夢のプレーヤー」

PX-1

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アナログレコードの原盤を切り出すカッターヘッドと同様にカートリッジを盤面上で並行移動させるリニアトラッキングアーム(タンジェンシャルアーム)は、弧を描いて移動させる通常のピボットアームと違って音溝とカートリッジとの接触角の変移がなく、より高忠実な再生が期待できる方式と考えられてきた。既に1960年代前半からいくつかの実用化例が存在し、電子技術の進歩を背景に1970年代中盤以降から再び脚光を浴びることになる。しかし趣味的な観点から見ると、原理的にはともかく、優れたピボットアームに匹敵するだけの音質評価を獲得したリニアトラッキングアームは皆無というのが現実であった。1978年に登場したPX-1は、そうした現状を打破し、タンジェンシャルアームの音質的可能性を極限まで引き出そうとしたヤマハ初のリニアトラッキングプレーヤーである。PX-1は質量5.6kgの超ジュラルミン削り出しターンテーブルやアルミダイキャスト一体成型キャビネット、別筐体に収めた電源部など潤沢な物量を投入した超弩級プレーヤーで、質量は本体27kg、電源部5kgに達した。しかし本機の開発リソースの大半は「シンメトリカルリニアアーム」と名づけられた左右対称・軽量高感度の電子制御リニアトラッキングアームに注がれ、そのことはPDFでご覧いただけるカタログ文章の大半がその説明に費やされていることからも明らかである。ここに謳われる技術はいずれも従来のリニアトラッキングの弱点を克服するためのもので、いかなる条件下でも音溝に偏ったストレスを与えないこと、アームの移動に伴う振動や騒音を排除することの2点を実現するために最先端の制御技術と高度な機構設計が動員された。さらにトーンアーム部は最良の特性が得られるシェル一体型パイプ(ユニバーサルシェル)と、一般的なシェルを装着できるアタッチメントパイプを差し替え可能な構成とし、趣味性の高い使いこなしが楽しめるよう配慮している。シンメトリカルリニアアーム採用のPXシリーズは翌1979年にPX-2、1981年にPX-3とラインアップを拡大し、その精緻なアーム動作とも相まって独自の存在感を発揮した。

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1979

考えうる限りのパラメーターを開放した3ウェイ・クロスオーバーネットワーク

EC-1

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EC-1は、ヤマハHiFiセパレートアンプの第一弾であるパワーアンプB-1、コントロールアンプC-1のシリーズ機種として1976年に登場した3ウェイ・クロスオーバーネットワーク(チャンネルデバイダー)である。当時、EC-1のようなアクティブクロスオーバーと複数台のパワーアンプを使ったマルチアンプシステムはHiFiオーディオの華であり、誰もが憧れるオーディオ趣味の最終目的地だった。製品ラインアップに本格的な"チャンデバ"があることはオーディオブランドとしての格の高さを示し、たとえ需要は少なくても、高級セパレートアンプを持つメーカーにとって欠かせない看板だったのだ。クロスオーバーネットワークの設定は音色を決定的に左右するものだけに、むしろアンプやプレーヤー以上に、その機能や操作性には各社のポリシーが大きく反映された。具体的には、一度決めた設定値を頻繁に変更せず主にマルチアンプの音質的メリットを追求するタイプと、設定値を積極的に微調整してマルチアンプならではの音楽表現を追求するタイプとに大別されよう。その意味でEC-1は明らかに後者だ。前者の製品では設定機能を絞り込んだり基板を差し替え式として信号経路を純化する方向へ向かうのに対し、EC-1は可能な限り多くのパラメーターをオープンにし、アクティブクロスオーバーでなければ立ち入ることのできない領域へのアプローチを積極的に試みた。このことは LOW-MID間、MID-HIGH間で各5段階の固定周波数それぞれに最大±0.5オクターブの連続可変を組み合わせられるクロスオーバーセレクターや、フィルターのQ値(肩特性)を0.5~1の範囲で連続可変させてクロスポイント周辺の特性の乱れを制御できるQコントロールなど、ユーザーの音楽的感性やオーディオ知識を思いのままに実践できる自由度の高さに現れている。そして外観デザインも秀逸だ。広いパネル面に操作部がゆとりを持って(ある意味散漫に)配置されていた当時の一般的なアクティブクロスオーバーとは対照的に、EC-1はコントロールアンプC-2並みのスリークなパネル面に高級一眼レフカメラのダイヤルを思わせる精密さと的確な操作性とを盛り込んだ。

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1979

アンプ回路の一部をヘッドシェルに搭載。驚きの発想で信号経路の純化を目指した

HA-2

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さまざまなオーディオ信号の中でもMCカートリッジの出力は飛び抜けて微弱であり、その分デリケートである。わずか数cmのシェルリード線を取り替えただけで別のカートリッジかと思うほど音が激変してしまうことも珍しくない。であれば、端子のコンタクト部は? トーンアームのパイプを通るリード線は? プレーヤーからアンプまでのケーブルは? というように、次々と気になってくるのも当然だ。特にトーンアーム内のリード線は簡単に交換できないものが大半で、そのアームやカートリッジ本来の音が伝送経路でスポイルされているのではないか? という疑念が常に生じる。MCカートリッジ専用・ラインレベル出力の単体イコライザーアンプとして1979年に発売されたHA-2は、そうしたアナログレコード再生における不確実性に驚くべき発想で解決策を示した。写真でもお分かりのように本体の脇にはヘッドシェルがひとつ置かれているが、実はこのヘッドシェルの裏側に「アンプペレット」と呼ばれる小さな回路基板が取り付けられていて、そこにアンプ増幅初段の片割れが組み込まれているのだ。「ピュアカレント信号伝送方式」というこの構成によって微弱なMCカートリッジ出力にバイアス電流の下駄を履かせてアンプへ送り込むことが可能となり、信号経路の悪影響を受けなくなる…というのがおおよその仕組みである。ちなみにHA-2の具体的な回路構成は公表されておらず、製品の主要回路も大半がエポキシ樹脂で固めたモジュールに封入されている。したがってHA-2はこのシェルなくして使うことができず、また適合するカートリッジの仕様(出力電圧)にも制約があった。こうした制約は趣味のアイテムとして致命的とも取られかねないが、結果的にHA-2は3年を超えるロングセラーとなり、1982年には価格をおよそ半額に抑えて専用ヘッドシェル1個(アンプペレット搭載)とは別に好みのシェルに取り付けて使える予備ペレット2個も付属した普及型のHA-3も登場した。このHA-3は1986年ごろまで販売が続けられ、計2機種で足掛け7年の販売実績を残している。

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1980

贅を尽くし、純朴であることにこだわったベリリウムキャップ採用の名作フルレンジ

JA-2070

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ナチュラルサウンドスピーカーの第一号機となったNS-30/NS-20に搭載のJA-6002/JA-5002以来、ヤマハではスピーカーシステムを自作するハイアマチュアに向けて主要ユニットの分売を長年行ってきた。特にNS-1000シリーズやFX-1などのために開発されたベリリウム振動板採用の最高級ユニット群は憧れの存在として世界的にも注目を集め、ドライバー2個をパラレル接合して鳴らす大型セクトラルホーンなどのプロフェッショナルアイテムも含めたラインアップが1980年頃までに出揃った。とりわけ異彩を放っていたのが、センターキャップにベリリウムを用いた20cmフルレンジユニットのJA-2070である。このユニット、実は市販スピーカーシステムへの採用実績はなく、自作派のエンスージアスト向けに開発されたものだ。マグネットはアルニコで振動板は特殊処理の白いペーパーコーン、50ℓのバスレフ型キャビネットに入れて60Hzあたりから20kHz以上までフルフラット再生できるワイドレンジ特性を備えていた。往年のユニットに詳しい方ならもうお分かりだろう。これはフルレンジの傑作として名高いJBL LE-8Tを強く意識し、現代の技術でそれを凌駕することを目指したモデルだったのである。価格はLE-8Tを大きく超える6万5000円(1台)。贅を尽くしつつ純朴であることにこだわった、ヤマハスピーカーユニットの隠れた名器である。

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1982

CD誕生の年、アナログの原点に立ち還った完全マニュアル操作の大型重量級プレーヤー

GT-2000

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CD(コンパクトディスク)がデビューした1982年、それまで一貫してハイテクノロジー路線を突き進んできたヤマハレコードプレーヤーのラインアップに、突如アナログの原点に立ち返るようなニューモデルが投入される。「Gigantic(巨大な)&Tremendous(途方もない)」の頭文字をとって「GT」の2文字を冠した大型重量級プレーヤー、GT-2000の誕生である。先代のPXシリーズが最先端のシンメトリカルリニアアームとフェザータッチのフルオート機構を特長としていたのに対して、新しいGT-2000はいかにもコンベンショナルでがっしりとしたS字型ロングアームが据え付けられた、ピッチコントロールすら持たないシンプルなマニュアルプレーヤーだった。無垢材並みの密度と精度が得られる熱間鍛造法によるターンテーブルは直径374mm、単体質量5.8kg(それだけで300gもあるゴムシートを含む)。外縁を高くした独特の形状とも相まって、実に1200kg・㎠もの巨大イナーシャを得ている。起動トルク2kg・cmを誇る強力なダイレクトドライブモーターは加速時・減速時とも反対方向へ瞬間トルクを加えることのできる正負双方向サーボを実現しており、別売のアウターパワーサプライ(外部電源)接続時には本体のパワースイッチを使って局用機のように電子ブレーキを作動させることもできた。ターンテーブルが規格外の大きさのため写真ではスケール感が分かりにくいかもしれないが、キャビネットの横幅は545mmもある。ちなみにターンテーブルの右前に食い込むよう設置された丸い突起は針を降ろす際、回転する巨大ターンテーブルの縁に掌が触れてしまうことを防ぐフィンガーレストだ。さらにGT-2000は、自らの手でカスタマイズが楽しめる魅力的なアクセサリー群でもオーナーを夢中にさせた。前述のアウターパワーサプライYOP-1、キャビネットを左右から挟み込む質量32kgのアンカーブロックYAB-1、真鍮製プラッターと電動吸着ポンプによるディスクスタビライザーYDS-1、ストレート型トーンアームYSA-1/YSA-2などがそれである。さらにアクセサリーリストには質量18kgの砲金製ターンテーブルも存在し、標準のターンテーブルと交換して回転イナーシャを3倍にも高めることができた。このターンテーブル、12万円という価格にも驚かされるが、3倍以上重いターンテーブルを許容するGT-2000のモーターと軸受けのタフネスも大したものだ。13万8000円(アクセサリー別)というリーズナブルな価格も手伝って本機はCD時代のアナログプレーヤーとしては記録的な大ヒットとなり、シリーズを拡大しながら1989年まで生産が続けられた。さらに1991年には復刻限定生産と銘打って再び販売されている(復刻時価格は19万8000円)。なおGT-2000は樺突板黒色塗装仕上げ、GT-2000Lはウォルナット突板仕上げでオートリフターを装備したモデルである。

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1986

マリンバ用の希少材、アフリカンパドゥクを贅沢に使った最高級スピーカースタンド

SPS-2000

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SPS-2000は希少なアフリカンパドゥク材を使った最高級スピーカースタンドとして、当時のフラッグシップスピーカーであったNS-2000/NS-1000X/NS-1000のユーザーをターゲットに1986年に限定生産されたものだ。マリンバ用の鍵盤用材であるアフリカンパドゥクは響きが良いうえに強く重く、また乾燥するほど安定するというスピーカースタンド用として理想的な特性を持つから、オーディオライフの伴侶として長く愛用できることだろう。この贅沢な企画はマリンバの製作も手がけるヤマハだからこそ実現できたものであり、翌1987年にはヤマハ100周年記念プロダクトであるNSX-10000のためのスピーカースタンドとして「SPS-10000」がアフリカンパドゥク材で製作されている。

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1987

CD録音を意識した広帯域とDレンジ。カセットデッキ「K-1」シリーズの集大成

K-1x

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1978年に始まるヤマハカセットデッキ随一の人気シリーズ、K-1系の最終モデルとなったのが、1987年発売のK-1XとK-1XWである。外装色はK-1Xがブラック、K-1XWはシルバー(サイドウッド付き)。K-1XWのほうはオーディオ回路用とメカニズム用を分離したツイントランス構成やオーディオ用電源コンデンサー、吟味したカップリングコンデンサー、アルミレッグなどを採用したチューンドモデルという位置づけで、価格も2万円高かった。外観は一新されたものの、歴代K-1のアイデンティティであるシーリングパネルは踏襲され、左右の大まかなレベル調整をパネル内のレベルトリマーで、微調整やフェードイン/アウトを表のマスターフェーダーで行う録音ボリュームも共通。マスターフェーダーはこのモデルからdB表示の縦型スライダーとなり、操作性の高さとミキシングコンソールを思わせる雰囲気が魅力だった。メカニズムはワンウェイ・デュアルキャプスタン、音の決め手となるテープヘッドはヤマハ伝統の高真空遠心鋳造法によるピュアセンダストを採用したギャップ幅0.7μ(再生)/2μ(録音)のコンビネーション3ヘッドで、優れた高域特性とダイナミックレンジを実現している。ところでカセットデッキのノイズリダクションについては、1970年代末にドルビーBタイプの後継を狙ういくつもの新方式が乱立したことをご記憶の方もいらっしゃるだろう。最終的には「ドルビーB+C」のグループと「ドルビーB+dbx(タイプII)」のグループに分かれ、ヤマハは後者を選択した。dbxは音楽制作の現場でも実績のある技術で、ノイズ低減効果も高くヤマハとしては自然な流れだったのだが、1980年代前半には早くも前者が事実上のスタンダードとなっていく。そのためK-1XではついにドルビーCも追加し、ドルビーBとdbxを合わせた3方式対応に至ったというわけだ。dbx使用時のS/Nは95dBにも達し、互換性を気にしなければCDや生演奏の録音に最適であった。CDが登場した1982年からの数年間、カセットデッキはCDを録音するための道具として大活躍する。CDの高音質に対応するため特性向上への努力は続けられ、音を極めたカセットデッキの多くは1980年代後半に誕生している。しかし1987年にDATが登場すると各社はカセットデッキのラインアップを徐々に縮小、10万円を超える高級機はDATに取って代わられるようになる。そしてヤマハにとっても、このK-1X/K-1XWが10万円を超える最後のカセットデッキとなった。

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