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どこ吹く風PARTⅡ〜實川風の音楽日記〜

2015年ロン=ティボー国際コンクール第3位をはじめ、コンクールやリサイタルで活躍の期待の俊英・實川風が等身大の「今」を書き綴ります。

(毎月1日、15日頃更新。※更新日は、都合により前後する場合がございます。)
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pianist 實川風

pianist 實川風
1989年千葉県出身。東京藝術大学音楽学部首席卒業、同大学院修士課程在籍。2007年ショパン国際コンクールin ASIA一般部門金賞、ピティナ・ピアノコンペティション特級銅賞・聴衆賞。東京ニューシティ管との共演で上海音楽祭に出演。2008名古屋国際音楽コンクール第1位・聴衆賞・ビクター賞・名フィル賞。 第77回日本音楽コンクールピアノ部門第3位。2008年度ヤマハ支援制度奨学生。2011年名古屋名駅ロータリークラブ椿賞。2013年サザンハイランド国際ピアノ・コンクール第2位(オーストラリア)。
これまでに、ポーランド国立クラクフ室内管、東京ニューシティ管、東京フィル、ニューフィル千葉、東響、名古屋フィルとの共演や、同世代の竹山愛(フルート)との共演等、ソロ・リサイタルの他に室内楽でも活躍している。2011年シャネル・ピグマリオンデイズ参加アーティスト。 ピアノを山田千代子、ダン・タイ・ソン、多美智子、御木本澄子、江口玲の各氏に、フォルテピアノを小倉貴久子氏に、室内楽を川中子紀子、伊藤恵の各氏に師事。学内にて、アリアドネ・ムジカ賞、安宅賞、アカンサス賞、大賀賞を受賞。

※上記は2015年01月15日に掲載した情報です。

No.21クリスマスカンタータ

2015.12.16更新

パン屋再就職

「君のその足首についているのはなんだい」
「え、これのこと? あなた分からないの?」
「そうだな。そう、皆目見当がつかない。それは僕が知ってて当然、いわば世間的常識の範疇にあるものなのかな?」
「そういうことじゃないわ。違うの。」
「いい?あなたは今コーヒーを飲んでいる、分かるでしょ?それって考えるまでもないじゃない。これも同じこと。」
「なるほどね。君の言わんとしていることは良く分かる。つまりそれは一種の偽善なんだ。欺瞞に満ちた偽善、そうだろう?」
「そんなんじゃないわ。もっと単純に考えてほしいの。」
「そうかな、僕にはそうとしか思えない。だって君はさっきから退屈そうだ。あの日と何も変わらない」
「変わるわよ。私は退屈していない。ただ、一つだけはっきりとしているわ」
「はっきり?」
「そう、はっきり。」
「はっきりか。それは僕にとって?」
「あなたにとっても私にとってもはっきりとしているの」
「つまり、二人にとってはっきりしているということ?」
「そうね。そうとも言えるかもしれない」
「あるいはー」
「それは二人にとってはっきりとしすぎて、返って不明瞭になっていることはないかな?」
「そんなことはないと思うの。」
「ということは、はっきりとしているわけだ」
「待って。やっぱりくっきりとしているんじゃないかしら」
「いや、そんなに単純化できる問題とは僕は思えない。それならみっちりしているというのはどうだろう?」
「みっちりとは違うわ。ぽっくりなら少しは分かるけれど」
「二人にとってぽっくりとした事実。」
「明白よ。」
「そうだね、明白だ。パン屋を襲うくらいに明白だ。」
「今はパン屋さんは開いてるかしら?」
「開いているかもしれないし開いていないかもしれない。でも今の僕たちにとってどちらでもいいことのように僕は思う」
「どうして?」
「パン屋が閉まってたらケーキ屋を襲えばいいんだから」
「捕まらない?」
「そうだね、捕まったらギロチン刑は免れないと思う」
「あるいはー」
「佃煮屋を襲うのはどうだろう?」
「良いわね。ウナギの佃煮が食べたいわ。」
「僕も賛成だ。佃煮はノリとウナギに限る」
「そうかしら?赤貝の佃煮も美味しいのよ。」
「赤貝か。」
「やれやれ、どうやら僕は君を買いかぶっていたのかもしれない」
「どうしたの、急に。」
「ご飯も炊かずに赤貝の佃煮を奪うのはどう考えても賢明じゃない。どう考えてもね。」
「そしたら、まずお米屋さんを襲わなきゃいけないわね」
「自明だよ。結局のところー」
「まずはお米ってことさ。何万年経っても地球が月の引力から逃れられないのと同じようにね。」
「なんでも知ってるのね」
「そんなことはないさ、僕が知っているのはオネゲルのクリスマスカンタータがいい曲だ、ということくらいだよ」



久しぶりにやってしまいました。
(連載第5回 出だし をご参照ください。笑)

彼の言葉通り、オネゲルのクリスマスカンタータ、この寒い季節になってから聴くとたまらん一曲なのです。

オネゲルはスイス生まれで20世紀の前半に活躍したフランスの作曲家で、ドビュッシーやラヴェルのあとの世代の作曲家なのですが、クリスマスカンタータはオネゲルが亡くなる前、一番最後に書いた作品です。

前半に人々の苦しみを描いたあとに、救世主の誕生、というストーリーが音楽になってるのですが、さまざまな聖歌が登場したあとのクライマックスでは、キリスト教信者ではない僕が聞いてもジワっと来てしまいます。
僕が持っている音源は、アンセルメ指揮/スイス・ロマンド管弦楽団の1960年代の録音で、ずっとそれを聞いているのですが、最近youtubeで、デュトワ×N響の演奏見つけました。
こちらも素敵!!
アンセルメのよりも軽めのテンポで、とても整理されて聞こえてきます。

前半は混沌としているので、もし綺麗な部分から聞きたいという方は、8:30あたりから聞くと清らかな児童合唱が現れます^_^ (個人的には、最初から聞いてこの部分が来た時がたまらんのです〜)
できればスピーカーでどうぞ♪

いかがでしたでしょうか。
一度生で聞いてみたいものです〜

この曲が気に入られた方は、交響曲3番「典礼風」もぜひ!



というわけで、近況報告もせずオネゲル推しでしたが、僕自身はと言いますと、来年3/17にヤマハ銀座店のヤマハホールにてリサイタルをさせていただく運びになりました。
また詳細が決まり次第、こちらでもご案内したいと思います!

本日(13日)、愛媛県松山のヤマハミュージック松山店さんのアオノホールでのサロンコンサートでした。次号でご報告いたします♪


パン屋再就職 続き

「オネゲル、いい曲ね。」
「本当にそう思う?」
「ほんとよ。」
「それならよかった。僕もそう思う。」
「ところでゴンタ、實川風ってピアニスト知ってる?」
「實川風?知らないな。ピアニストなの?」
「ええ、そうらしいわ。なんでも連載の期日を全然守らないばかりか、遅れすぎて周回遅れになってるらしいけど。」
「それはまずいね。」
「ええ、今だってもう12月半ばよ。11/30にアップしたのは11/15の分だって事を忘れてるんじゃないかしら」
「困った人だね」

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pianist 實川風
1989年千葉県出身。東京藝術大学音楽学部首席卒業、同大学院修士課程在籍。2007年ショパン国際コンクールin ASIA一般部門金賞、ピティナ・ピアノコンペティション特級銅賞・聴衆賞。東京ニューシティ管との共演で上海音楽祭に出演。2008名古屋国際音楽コンクール第1位・聴衆賞・ビクター賞・名フィル賞。 第77回日本音楽コンクールピアノ部門第3位。2008年度ヤマハ支援制度奨学生。2011年名古屋名駅ロータリークラブ椿賞。2013年サザンハイランド国際ピアノ・コンクール第2位(オーストラリア)。
これまでに、ポーランド国立クラクフ室内管、東京ニューシティ管、東京フィル、ニューフィル千葉、東響、名古屋フィルとの共演や、同世代の竹山愛(フルート)との共演等、ソロ・リサイタルの他に室内楽でも活躍している。2011年シャネル・ピグマリオンデイズ参加アーティスト。 ピアノを山田千代子、ダン・タイ・ソン、多美智子、御木本澄子、江口玲の各氏に、フォルテピアノを小倉貴久子氏に、室内楽を川中子紀子、伊藤恵の各氏に師事。学内にて、アリアドネ・ムジカ賞、安宅賞、アカンサス賞、大賀賞を受賞。
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※上記は2015年01月15日に掲載した情報です。