Better Sound for Commercial Installations

Part 1: Sound Basics

音響の世界に関わっていない一般の方たちにとって、最も馴染みがある音響システムといえば、音を直接私たちに届けるスピーカーシステムかも知れません。しかし音の信号は、スピーカーシステムに至る前に複数の機器を経由しています。ここでは音の信号がたどる経路を簡単に追ってみましょう。

音響システムには大きく4段階ある

Marching Keyboards

音響システムの役割を簡単に言うと、音声や音楽を音質および音量の調整をした上でスピーカーシステムから聴取者に向けて伝達することです。このことを踏まえた上で、音響システムの構成を図にしました。ご覧のとおり、音響システムは大きく分けて「音源の変換」、「混合(ミックス)/効果(エフェクト)」、「増幅」、「拡声」の4段階があります。

(図:音響システムの構成)

それでは図の左側から、順番に見ていきましょう。

(1) 音源の変換

(1) 音源の変換

まずは伝達したい音声や音楽を音響システムで処理できる電気信号へと変換する必要があります。

代表的なのは、マイクロホンと各種プレーヤーです。

 

 

【マイクロホン】

人間の声や生楽器の音などを電気信号に変換するのがマイクロホンです。音を電気信号に変えるとはどういうことでしょうか?一般的な音響システムで広く使われている「ダイナミックマイクロホン」の構造を例に簡単にご紹介します。

(Figure: Dynamic Microphone Construction)

 

【各種プレーヤー】

音の情報を記録したメディアを再生して電気信号に変換する機器です。ポピュラーなのはCDプレーヤーやMDプレーヤーですね。また近年普及している携帯型デジタルプレーヤーや、カセットデッキ、レコードプレーヤーのようなアナログ時代のプレーヤーもあります。またチューナーを搭載しているプレーヤーであれば、ラジオやテレビなどの放送電波も音源として活用できます。

(2) 混合(ミックス)/効果(エフェクト)

Marching Keyboards

音響システムで処理できるように変換された電気信号は、ミキサーおよびプロセッサーへと送られて、混合(ミックス)され、効果(エフェクト)を加えられます。

 

【Mixer】

入力された複数の電気信号(音源)を、音量や音質を個別に調整した上で混合(ミックス)して出力するのがミキサーの役割です。ミキサーに馴染みのない方のために、ヤマハのミキサーMG124Cの操作パネルを参考に、ミキサーの代表的な電気信号の流れをなぞってみましょう。

 

【チャンネルコントロール部】

チャンネルコントロール部では、音源ごとに音量や音質を調整します。端子部から入力された音源に対して、一般的に以下のような調整がおこなわれます。

 

1. Gain

マイクロホンからの電気信号は、各種プレーヤーからの電気信号(「ラインレベル信号」と呼ばれます)に比べて極めて微弱なため、ミキサーに備えられた「ヘッドアンプ(プリアンプ)」という機能で適正なレベルにまで増幅する必要があります。その調整をおこなうのがGAINです。

2. イコライザー

一般的にミキサーは、おもに音色補正やハウリングの抑制に用いられる3~4バンドのイコライザーを装備しています。イコライザーについてはPart 3の「プロセッシングの種類」や「ハウリングの抑制(イコライザーの活用)」などでご紹介します。

 

3. AUX

メインのスピーカーシステムへと向かう、いわば本流の信号経路に対して、AUXは外部機器へと向かう支流の経路となります。おもに、この後にご紹介するプロセッサーや、演奏者がステージ上でサウンドをチェックするためのモニタースピーカーなどへと信号を送る場合に用いられます。

4. PAN

PANは2台のスピーカーシステムで音を鳴らす場合に、左右のスピーカーシステムへ出力される割合を変えることができます。「音像定位」という、ステレオならではの音の鳴らし方をする場合に用います。

5. チャンネルフェーダー

チャンネルフェーダーを使って、各チャンネルの信号のレベル(音量)を調整します。ここで決められた音量バランスで電気信号は混合(ミックス)されます。

 

【マスターコントロール部】

混合(ミックス)された電気信号は、ステレオOUTマスターフェーダーでレベル(音量)を調整され、STEREO OUT端子からパワーアンプ、すなわち次の「増幅」の過程に送られます。

 

【プロセッサー】

プロセッサーは電気信号を加工して効果(エフェクト)を加える機器です。おもに音の明瞭性や自然な音の聞こえ方を実現するための補正や、表現を豊かにするために特殊な効果(エフェクト)を加える場合に用いられます。詳しくはPart 3の「プロセッシングの種類」でご紹介します。

(3) 増幅

電気信号を増幅してスピーカーシステムを駆動させるのがパワーアンプです。大抵は、あまり人目に触れない場所に置かれている一見地味な存在ですが、音響システムの中でも最も大きい電圧・電力を扱う、実は主役級の役割を果たしている機器と言えるかも知れません。

パワーアンプには2つの音声信号を増幅できる2チャンネルタイプ、4もしくは8つの音声信号を増幅できるマルチチャンネルタイプなどがあります。2チャンネルタイプは、音楽などステレオの音声信号を増幅する場合に多く用いられます。一方マルチチャンネルタイプは、アンプの設置場所の省スペース化を図りながら、より多くのスピーカーシステムを鳴らすことができるというメリットがあります。

(4) 拡声

Marching Keyboards

そして音響システムの最終段階は、増幅された電気信号を生の音に戻して聴取者へと拡声するスピーカーシステムです。電気信号を生の音に戻すプロセスは、先にも触れたとおりマイクロホンと逆になります。一般的な音響システムで広く用いられる「ダイナミックスピーカー」の構造を例に簡単にご紹介しましょう。

パワーアンプからの電気信号がボイスコイルに入力されると磁界に変化が生じてボイスコイルを振動させます。この時点で電気信号が音響振動に変換されたことになります。しかしこれだけでは音響的にわずかなもので、ほとんど音として認識はできません。そのためボイスコイルの先端にはコーン紙と呼ばれる振動板が取り付けられており、この振動板を動かすことで空気に疎密波を発生させ、音声に変換、出力するようになっています 。

ダイナミックスピーカーはそれ単独で使用されることはなく、多くは「エンクロージャー」と呼ばれるボックスに組み込まれます。またエンクロージャーに組み込まれるダイナミックスピーカーの数は1個から10数個まで、システムによってさまざまです。一般的にダイナミックスピーカー1個に相当する単位を「スピーカーユニット」、スピーカーユニットがエンクロージャーに組み込まれた状態のものを「スピーカーシステム」と呼びます。

(図:ダイナミックスピーカーの構造)

 

簡単にではありますが、音響システムの構成をお分かりいただけたでしょうか。施設の規模や用途によって音響システムの形態は異なりますが、原理原則は、ここでご紹介したことが基本となります。さて次からは、音響システムの形態を用途別に見ていくことにしましょう。