Better Sound for Commercial Installations

Part 1: Sound Basics

1980年代初頭のCDの登場以降、オーディオの世界のデジタル化は着々と進み、今に至っています。もちろん業務用の音響システムも例外ではありません。ここでは音響システムのデジタル化によるメリットを最大限に活用するために、デジタルオーディオの基本的な事項をご紹介します。

デジタル化とは音声信号を数値情報に変換すること

Marching Keyboards

デジタルオーディオとは、アナログの音声信号を数値情報に変換(デジタル化)し、伝送・処理などをおこなうことを指します。

(図:デジタルオーディオ)

アナログからデジタルに変換することを「A/D変換」と呼びます。デジタル化された音声信号は「0」と「1」の数値に置き換えられています。これは、「0」と「1」の2つの数字だけで次の桁に進むことから「2進法」と呼ばれます。ちなみに日常の生活で使う数値は「0」から「9」までの10個の数字で次の桁に進むので「10進法」と呼ばれます。デジタル信号はA/D変換と逆のプロセスでアナログ信号に戻された上で(D/A変換)、スピーカーシステムから拡声されます。 「音の仕組み」で触れたとおり、音が空気の振動である以上、どんなにデジタル化が進もうとも音響システムは必ずアナログ信号に始まり、アナログ信号で終わります。したがって、音響システムの中でおもにデジタル化されるのはミキサーとプロセッサーです。あえて途中のプロセスをデジタル化するメリットは何なのでしょうか。

デジタル化のメリット1:デジタル信号は再現性に優れ、音質が劣化しない

Marching Keyboards

マイクロホンからスピーカーシステムまで、音響システムの回路中には必ずノイズがあります。そして伝送の距離が長い場合、ノイズの影響を受けて信号に歪みが出るのはアナログでもデジタルでも共通していますが、アナログ信号の場合は歪みがそのまま信号波形の歪みとして表れ、音質に影響します。

一方デジタルオーディオは「0」と「1」の数値を、基準レベルに対して「低い電圧」「高い電圧」と二分化して伝送する単純な情報構造のため、仮にノイズによって電圧が多少高くなったり低くなったりしたとしても、基準レベルとの関係性から元の「低い電圧」「高い電圧」へと容易に再現できます。したがってデジタル音響システムはケーブルの引き回し距離が長くなってもノイズの影響を受けにくく、音質を劣化させずに拡声できます。

(図:ノイズの影響を受けるアナログ信号と、ノイズに強いデジタル信号)

デジタル化のメリット2:オペレーションの簡易化や自動化に貢献

機器の設定値(パラメーター)をデータとして手軽に再利用できるのもデジタルの強みです。例えばバンケットルームの場合、宴会や会議など用途ごとの代表的なパラメーターパターンを予め登録しておけばワンタッチで瞬時に再現できます。微調整が必要な場合でも、そのパラメーターをベースに作業ができるため、都度、ゼロから設定をおこなうのに比べて大幅に時間を短縮できます。 またデジタル技術の発展により、ハウリングの抑制や、話者によってばらつく声量を自動的に補正して一定に保つといった、オペレーションの簡易化や自動化に貢献する便利な機能も登場しています。

デジタル化のメリット3:何種類もの機能を1台の機器で実現できる

パソコンをイメージすると分かりやすいですが、デジタル機器はプログラムによって動きます。したがってプログラム次第で、何種類もの機能を1台の機器で実現できます。これはデジタル音響システムにおいても同様です。Part 3の「プロセッシングの種類」でも改めて触れますが、機器数を減らすことができれば、システムの購入や工事、およびメンテナンスにかかるコストを抑制でき、かつ省スペース化が図れます。

デジタル化のメリット4:拡張性に優れ、さまざまな機器と連携が可能

「デジタル化のメリット3」とも関係しますが、機能が固定されているアナログ機器と比較してプログラムによって動くデジタル機器は、施工中の設計変更や完成後のシステム改善および拡張に柔軟に対応できます。 またデジタル音響システムは、パソコンやタッチパネルコントロールシステムなどの外部機器と連携が容易です。それらを用いれば、音響システムに習熟していない方でも容易に操作できるようなインターフェースをカスタマイズできます。 さらにデジタルミキサーやデジタルプロセッサーは、標準で装備している入出力端子に加えて、さらに入出力を増やしたい場合や、特殊な規格の機器を接続したい場合に使用するI/O拡張カードに対応するモデルがあります。これにより、例えばデジタル音響システムの中に既存のアナログプロセッサーを混在させたいといったケースにも対応でき、コストを抑えながら柔軟なシステム構築がおこなえます。

以上、6回にわたってご紹介してきた「Part 1音響の基礎」。簡単にではありますが、音響システムの仕組みや構成、デジタル化の流れについてご理解いただけたでしょうか。Part 2からは、いよいよ各機器について掘り下げながら、商業空間における、より良い音づくりのためのポイントをご紹介していきます!