Better Sound for Commercial Installations
Part 3: Mixers and Processors
04. チューニングによる音づくり
機器の設置後は、使用しているスピーカーシステムや音響空間の特性をそれぞれ考慮しながら、現場で最終的な音質調整をおこないます。これらの作業をチューニング(音質調整)と呼びます。チューニングがしっかりなされないと、せっかく厳選した機器も、その性能を十分に発揮できません。
スピーカープロセッシング(スピーカーシステムの特性を考慮したチューニング)
機器設置後のチューニングは、大きく2つの観点からおこないます。すなわちスピーカープロセッシング(スピーカーシステムの特性を考慮したチューニング)と、音場補正(音響空間の特性を考慮したチューニング)です。まずはスピーカープロセッシングからご紹介しましょう。
Part 2の「スピーカーシステムの配置方法と必要な音圧レベル」 でも触れたとおり、スピーカーシステムは機種によって音色や位相特性が異なります。これらの要件から生じる音の不自然さを、プロセッシングによって補正していくのがスピーカープロセッシングです。
スピーカープロセッシングでは、チューニングに使用する機器にスピーカーシステムの特性を細密に反映させる必要があります。近年は音響システムのデジタル化により、スピーカーシステムごとにメーカーが推奨するプリセットデータが提供されているので、このデータを読み込むだけで簡単に推奨設定を再現できるようになりました。より良い音づくりのためには、こういったサービスが用意されているプロセッサーおよびスピーカーシステムを積極的に採用することも有効です。
例えばヤマハのデジタルインストレーションミキサーIMX644にはヤマハ製のスピーカーシステム用プリセットデータが用意されており、そのデータをIMX644 Managerの画面からワンタッチで呼び出せるようになっています。これらのプリセットデータをベースに、IMX644が標準搭載しているイコライザーやディレイを使って効率的に調整ができるのです。
(図:ヤマハ デジタルインストレーションミキサーIMX644は、プリセットデータをIMX644 Managerの画面からワンタッチで呼び出せます。)
またデジタルミキシングエンジンDMEシリーズ用のプリセットデータもDME Designerのスピーカープロセッサー画面上から呼び出して手軽に活用ができます。DMEシリーズには「スピーカープロセッサー」というスピーカーチューニング専用のコンポーネントが用意されており、イコライザーやディレイはもちろん、クロスオーバー、リミッターなどの多彩な機能が活用できます。もちろんDMEシリーズ用のプリセットデータは、このスピーカープロセッサー用に提供されているものですから、効率的で緻密なチューニングをサポートしてくれます。
(図:ヤマハ デジタルミキシングエンジンDMEシリーズ用のプリセットデータも多数用意されており、 DME Designerのスピーカープロセッサー画面上から呼び出せます。)
音場補正(音響空間の特性を考慮したチューニング)
次に、音場補正をご紹介しましょう。言うまでもないことですが、それぞれの施設によって形状や大きさ、内装の材質、備品の配置などは異なります。このような施設の特性によって音の響き方は大きく変わります。例えば私たちが生活している一般的な家屋で考えても、リビングルームと風呂場の音の響き方は大きく異なりますね。それは空間の広さ、壁や床に使用されている材質などにより音の反射の仕方に差があるためです。ここまでは比較的イメージしやすいですが、もう少し込み入った話になると、そのように反射した音同士の干渉によって、さらに音の響き方は変わってきます。
音場補正とは、このような施設の音響特性を必要に応じて補正しながら望ましい音づくりをおこなうことを指します。例えば音場補正の一例として、「ハウリングの抑制」があります。詳しくは「ハウリングの抑制~ハウリングの発生原因」でご紹介しますが、ハウリングとは施設の音響特性によって特定の周波数帯域が強調されてしまい、それが「キーン」とか「ボー」という不快な音になる現象です。この場合、イコライザーを使って不必要に強調された周波数帯域を下げることになります。
という訳で、次からはこの「ハウリングの抑制」について掘り下げていくことにしましょう。ハウリングは、音響システムを使用する多くの人が直面する課題です。3回にわたって、じっくりとご紹介していくことにします。