Better Sound for Commercial Installations

Part 2: Amplifers and Speakers

パワーアンプを選択する際に大前提として決めておかなくてはいけないのが、スピーカーシステムとの接続をハイインピーダンス方式にするか、ローインピーダンス方式にするかです。一般的にはあまり聞き慣れない言葉ですが、この判断でパワーアンプの機種も台数も全く異なってきます。

「インピーダンス」という言葉について理解するためには電気の基礎を学ぶ必要がありますが、ここではごく簡単にご紹介します。

電気工学の基本理論に「オームの法則」があります。これは、「電圧」「電流」「抵抗」という3つの要素の関係を表したものです。「電圧」は電気の圧力、「電流」は電気の流れ、「抵抗」は電流を流れにくくする力を表します。「抵抗」と「インピーダンス」は厳密には異なりますが、ここでご紹介する内容の範囲では同義と考えても差し支えありません。両方とも単位はΩ(オーム)で、インピーダンスは交流電流に対する抵抗を意味しています。

ここで話を分かりやすくするためにダムをイメージしてください。この場合、電圧は水圧に、電流は水流に、インピーダンスは水門に、それぞれ似ています。水門を狭めると(≒インピーダンスを上げる)と、その分水流(≒電流)が少なくなります。ダムの水量が維持されるので、水圧(≒電圧)は高いまま維持されます。この三者の関係を踏まえつつ、ようやく本題である「ハイインピーダンス接続」と「ローインピーダンス接続」の話に入ります。

Marching Keyboards

ハイインピーダンス接続とは、スピーカーシステムにスピーカートランスを取り付けることでインピーダンスを数百Ωから数kΩに上げてパワーアンプと接続する方式です。このようにすることで、この後にご紹介するローインピーダンス接続に比べて、はるかに少ない電流でスピーカーシステムを鳴らすことができます。すなわち多数のスピーカーシステムが接続できるようになるということです。ハイインピーダンス接続した場合のパワーアンプ側の最大出力電圧は、100Vまたは70Vで動作させるのが一般的です。

図:ハイインピーダンス接続

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一方、ローインピーダンス接続はスピーカートランスを使用せず、スピーカーシステムの定格インピーダンス(4~16Ωが一般的)のままパワーアンプと接続する、オーソドックスな方式です。

以下、両方式の違いを見ていくことにしましょう。

(図:ローインピーダンス接続)

スピーカーシステムとパワーアンプの接続

ハイインピーダンス接続

ハイインピーダンス接続(100Vラインまたは70Vライン)対応のパワーアンプを使用する必要があります。かつ使用するスピーカーシステム(スピーカートランス)の定格入力の合計値以上の出力をもつパワーアンプを選びます。

ローインピーダンス接続

スピーカーシステムのインピーダンスに対応できるパワーアンプを選ぶ必要があります。両者を合わせないと、パワーアンプの能力を十分に発揮できない場合があります。また、使用するスピーカーシステムの最大出力を得るためには、そのスピーカーシステムの許容入力(PGM)と同等のパワーアンプを選びます。出力が低すぎるパワーアンプでは音がひずんでスピーカーユニットを破損させる可能性もあるので注意が必要です。

駆動できるスピーカーシステムの数

【ハイインピーダンス接続 】

使用するスピーカーシステムの定格入力の合計値がパワーアンプの出力値以内に収まっている限りは、何台でもスピーカーシステムを並列接続できます。ハイインピーダンス接続の場合、スピーカーシステムの定格入力はスピーカーシステムと使用するスピーカートランスの設定で決まります。例えば、出力が200W×2チャンネルのパワーアンプと、スピーカートランスの取り付けにより定格入力が10Wになったスピーカーシステムの場合、1チャンネルあたり最大20台、2チャンネル合計で最大40台のスピーカーシステムが接続できます。異なる定格入力のスピーカーシステムを混在させて接続することもできます。

図:スピーカーシステムの定格入力の合計値<パワーアンプの出力であれば、 スピーカーシステムは何台でも接続できます。

ローインピーダンス接続

一般的には図のように、1チャンネルに1台のスピーカーシステムを接続します。したがって接続できるスピーカーシステムの台数は、パワーアンプが備えているチャンネル数(2~4~8チャンネル)にとどまります。

図:一般的 にローインピーダンス接続は1チャンネルに1台のスピーカー システムを接続します。

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ただし、ローインピーダンス接続でも1チャンネルに対して複数のスピーカーシステムを接続する方法があります。

ひとつめは「並列接続」という方法です。同じインピーダンスのスピーカーシステムを並列接続した場合、スピーカーシステム全体の総合インピーダンスは1本あたりのスピーカーシステムのインピーダンスを台数で割った値になります。図の例の場合、4Ωのパワーアンプに対して接続できる8Ωのスピーカーシステムの台数は2台まで、ということになります。

図 並列接続

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もうひとつ、「直列接続」という方法があります。直列接続の場合、スピーカーシステム全体の総合インピーダンスは各スピーカーシステムのインピーダンスの和になります。ただしケーブルのつなぎ方を見ていただくと分かるように、仮にひとつのスピーカーシステムが故障した場合、そこで電気信号がせき止められてしまうため他のスピーカーシステムにも影響を与えてしまいます。 以上の制約から、多数のスピーカーシステムを使用したい場合は、やはりハイインピーダンス接続を使用するほうが一般的なようです。

図:直列接続

伝送の距離と効率

電気信号を伝送するケーブルには抵抗があります。伝送距離が短い、すなわちケーブルが短い場合の抵抗はほとんど無視できますが、伝送距離が長くなると抵抗が増大し、そのままでは電気信号の伝送効率、しいては音質にまで影響を与えます。以下、伝送の距離と効率の関係から両方式のメリットとデメリットをご紹介します。

ハイインピーダンス接続

図のように長距離伝送でケーブルの抵抗が8Ωになった場合でも、1kΩというスピーカーシステムのインピーダンス値に対して無視できるくらいの値のため、ケーブルでの伝送ロスがほとんどなく、したがって電気信号の伝送効率にもほとんど影響を及ぼしません。

図:ケーブル抵抗に影響されない長距離伝送が可能です。

ローインピーダンス接続

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短距離伝送でケーブルの抵抗を無視できる範囲であれば、スピーカートランスの取り付けといった加工をせずに、パワーアンプおよびスピーカーシステムの性能をそのまま発揮させることができるローインピーダンス接続の方が、ハイインピーダンス接続よりも音質的に有利です。また、基本的にパワーアンプのチャンネルごとに1台ずつスピーカーシステムを接続するので、スピーカーシステムごと(ゾーンごと)に異なる音声信号を伝送できる点も有利です。

しかし図のように長距離伝送でケーブルの抵抗が8Ωになった場合、スピーカーシステムのインピーダンス8Ωと同等になるのでパワーアンプの出力を分け合い(ケーブルで電圧ロスが発生し)、理論上、電気信号の伝送効率が50%まで下がってしまいます。したがってローインピーダンス接続の場合は、ケーブルの抵抗が無視できる範囲に伝送距離を短く抑えるか、そうでなければケーブルを太くするなどの対策が必要になる場合があります。

図:長距離伝送ではロスが多く発生してしまいます。

以上のような特徴の違いから、ハイインピーダンス接続は学校や駅、ショッピングセンター、ホテルなど、同じ音声信号を広い範囲に伝送する必要があり、かつ多数のスピーカーシステムを使用する場所で用いられます。一方、ローインピーダンス接続はゾーンごと(スピーカーシステムごと)に異なる音声信号を伝送でき、かつ短距離伝送であれば音質面で有利なため、店舗やオフィスのBGM用システムとして多く用いられます。

Marching Keyboards

(図:ヤマハのパワーアンプラインナップは、独自のEEEngine (Energy Efficient Engine) 技術など、高音質・ハイパワーを保ちながら、大幅な省電力化が図られています。)

以上、スピーカーシステムとパワーアンプの接続の仕組みについてご紹介してきました。両者の接続方法、スピーカーシステムの台数および音圧レベルから、必要なパワーアンプの仕様が割り出せたら、いよいよ具体的に機種の選択に入ります。

パワーアンプは音響システムの中で最も大きい電圧・電力を扱う部分であり、音質にも大きく関わる大事な機器です。音づくりという面ではミキサーやスピーカーシステムのような派手さがなく、一見地味な存在として考えられがちですが、実はパワーアンプによって音響システム全体の品質が大きく左右されると言っても過言ではありません。したがってパワーアンプの機種選定にあたっても、可能な限りその品質にはこだわりたいものです。

特に扱う電圧・電力が大きいことから、電気的な負荷条件に耐えられることが求められます。そのため、音質や出力という基本的な事項に加えて「省電力」というキーワードにも着目してみてください。消費電力が抑制できれば発熱量も削減できるため、熱による内部パーツの劣化を遅らせ、パワーアンプの耐久性と信頼性が高まります。もちろん電気代など、日常の運用コスト削減にも貢献します。

次から、「混合(ミックス)/効果(エフェクト)」を担うミキサーとプロセッサーの話に入っていきます。比較的、基本原理が確立されているスピーカーシステムやパワーアンプに対して、ミキサーとプロセッサーはデジタル化をはじめとする技術の発展に伴って進化を続けています。読み進めていけば、新しい発見があるかも知れませんよ!