Better Sound for Commercial Installations
Part 1: Sound Basics
03. 身の回りの音響システム~拡声設備によるアナウンス放送(情報伝達)
Application 1: 身の回りの音響システム~拡声設備によるアナウンス放送(情報伝達)
街に出かけると、あらゆる施設でアナウンス放送が流れているのを耳にします。これらの情報伝達のために使われる音響システム(拡声設備)には、その役割をしっかりと把握した上での設計思想があります(あるいはあるべきです)
The 7-meter Rule
本題に入る前に、音響の世界にあまり馴染みがない方のために言葉の紹介をひとつさせてください。「PA(ピーエー)」という言葉が音響の世界ではよく使われます。これはPublic Addressの略で、広く公衆に音を伝えることを指します。ちなみに似たような言葉でPAよりも一般的な認知度があるのが、広報を意味するPR(Public Relations)ですね。伝える媒体を音に限定しているか、していないかの違いはありますが、基本的には同様の行為を指していると考えて良いでしょう。
PAという言葉は、ライブ・イベントで音響システムを扱う仕事を指す場合に使われることが多いのですが、そもそもの語源は「広く公衆に音を伝えること」全般を指します。ここでご紹介する「拡声設備によるアナウンス放送(情報伝達)」は、PAの最も基本的な形態と言えるでしょう。
極端なことを言えば、音響システムを使わずに大声で話をして、その内容が聴取者に伝わっていれば、それさえもPAと言えるかも知れません。それでは音響システムの導入が必要かどうかを判断するときの目安ですが、大体、「話者と聴取者の距離が7メートル以上離れる空間で必要」と覚えておいてください。
アナウンス放送を重要な情報源にしている人たちがいる
例えばショッピングセンターを歩くと、各種イベント案内や迷子のお知らせなど無数のアナウンス放送を耳にします。また駅では、電車の接近に注意を喚起するアナウンス放送がおこなわれています。このように私たちは、日ごろからさまざまな施設でアナウンス放送によって情報を得ています。
実はバーゲンセールの告知のように、関心のない人にとってはあまり意味のないアナウンスも多く放送されているのかも知れませんが、安全性などの観点から必要不可欠なアナウンス放送も存在します。特に視覚に障害を持っている方たちにとっては非常に重要な情報源となるため、快適で安全な環境を創造するためにはアナウンス放送に適した音響システムのデザインが必要なのです。
アナウンス放送に適した音響システムのデザインとは?
それではアナウンス放送に適した音響システムを実現するために気を付けるべきポイントとは何でしょうか。
まずは言うまでもなく音質ですね。音が割れたり歪んだりしていては、アナウンスが正しく伝わらない恐れがあります。高齢者など聴覚が低下している方たちにとっては、なおのこと聞き取りづらいはずです。当然、音質は音響システムの性能で左右されます。高性能の機器を導入できれば、それに越したことはありませんが、それで全てが解決するわけでもないのです。
例えば音がこもりやすい施設で何も対策を施さずに音響システムを設置しては、いくら機器が高性能でも良い音は望めません。施設の空間特性をしっかりと配慮し、システム設計をおこなう必要があります。また運用性も重要なポイントです。例えば時間帯によって人の出入り量が大きく変動する施設では、話し声や人の足音などから発生する騒音量も変動します。したがって、それに合わせて音響システムの音量を調整しないと、アナウンス放送が騒音にかき消されて聞き取りづらかったり、逆に周囲が静かでアナウンス放送がうるさ過ぎたり、ということが発生します。またBGMを流している施設では、アナウンス放送をする際にBGMの音量を下げないと、両者が入り混じって非常に聞きづらくなります。近年は音響システムの進歩により、上記のような煩雑なオペレーションを簡易化、あるいは自動化できるケースが増えていますので、検討の際には視野に入れておきたいところです。
(図:施設の空間特性に応じたシステム設計をおこなわなければ、たとえ高性能の機器を用いたとしても、聞き取りやすい音は実現できません。)
高性能の機器を用いても、それだけで聞き取りやすい音を実現できるわけではないということを強調しましたが、これはアナウンス放送だけでなく、あらゆるシーンで共通して言えることです。だからこそ用途による音響システムの違いを把握することが大切ですね。次はBGMについてご紹介します。