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ピアニスト中桐 望の留学一年生!奮闘記 in Poland

2012年第8回浜松国際ピアノコンクールで歴代日本人最高位の第2位受賞の中桐望が、初めての海外留学へ出発。日々の出来事や想いを書き綴ります。

(毎月1日、15日頃更新。※更新日は、都合により前後する場合がございます。)
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pianist 中桐 望

pianist 中桐 望
岡山県岡山市生まれ。東京藝術大学ピアノ専攻を首席卒業。同大学大学院修了。2009年日本音楽コンクール第2位。2012年マリア・カナルス国際音楽コンクール第2位。同年、第8回浜松国際ピアノコンクールでは歴代日本人最高位となる第2位を受賞。 関西フィルハーモニー管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、スペイン・ヴァレス交響楽団等のオーケストラと共演。国内外でのリサイタルや音楽祭に多数出演している。第11回岡山芸術文化賞グランプリ受賞。これまでにピアノを内山優子、近藤邦彦、平川眞理、芦田田鶴子、大野眞嗣、角野裕、エヴァ・ポブォツカの各氏に、師事。2014年4月に岡山、名古屋、東京にてデビューリサイタルを開催し好評を博した。今秋よりロームミュージックファンデーション奨学生としてポーランドのビドゴシチ音楽学校に留学している。

No.10脂と涙の木曜日

2015.02.18更新

こんにちは。日本はバレンタインシーズンでしたね!
ヨーロッパでは、日本のように女性が男性にチョコレートを贈る習慣がないので、普段と何も変わらない一日にちょっぴり寂しさを感じつつ、日本のバレンタインの光景を想像して懐かしんでいました。赤やピンクのハートのモチーフに染まった街中に、沢山の可愛いチョコレートが溢れる様子は、見ているだけでも心が躍ります。
そんな2月の甘くて素敵なイベント、実はポーランドにも…!
“Tłusty Czwartek” (トゥスティ チュファルテク)
ポーランド語で、Tłusty=脂っこい、脂の Czwartek=木曜日
「脂の木曜日」といって、一年に一度、ポンチェクというポーランドの揚げドーナツを老若男女問わず、みんなで大量に食べる日があって、四旬節直前の木曜日がその日にあたるそうです。
今年は2月12日が脂の木曜日。ポーランド一年目の私は本当にみんなポンチェクを食べるのかな?と半信半疑で偵察に出かけてみると、街中のケーキ・パン・お菓子屋さんやカフェにはポンチェクが山積みしてあり、至る所にTłusty Czwartek!と書かれた看板が!

中には、本日ポンチェク無料サービス!と書かれたレストランの看板もあったり。

特に、店内でポンチェクを揚げている人気店では、普段のワルシャワでは考えられないほどの長蛇の列が出来ていて、みんな大量にポンチェクを購入していく光景にびっくり。最低でも一人2〜3個、多い人は10個近く食べるそうで、何十個もポンチェクを抱えてお店を後にする人たちを見ながら、“本当にいっぱい食べるんだ…!”と感激してしまいました。
ポンチェクは日本の揚げドーナツとよく似ていて、中にバラのジャムが入っているのが特徴で(クリームや他のジャムが入ったものもあります)表面は粉砂糖またはグレーズコーティングされていて、日本人の口にもとってもよく合います!ポーランドでも、普段から人気のおやつとして親しまれていますが、もともとは四旬節の間断食するカトリックで、その期間の前にラードや卵、砂糖などを使い切るためにポンチェクを作って食べ納めていたのが“脂の木曜日”の始まりなんだそう。最近では断食する習慣も廃れてきて、今では単純に、ポンチェクをたくさん食べる日!として生活の文化に残っているようです。

とても美味しいですが、私は2個が限界でした…。

そんな中、私はちょっぴり涙な木曜日。
…と言っても大した話ではないのですが、私は昔から涙もろい性格で、今ではほとんど泣くことはなくなったのですが、なぜか一年に一度ほど、やけに涙腺が弱くなる日があります。しかもレッスン中に!決して先生に怒られているわけではないのに、なぜだか弾いていて突然涙が出てきてしまうという…変な生徒(笑)もちろん普段は、どんなに厳しいレッスンでも泣くことなんて絶対にないし(当たり前ですが…)、むしろストイックなレッスンの方が楽しくて好きなのですが、この日のレッスンはいつにも増して先生が厳しかったのか、その涙もろい日が突如やってきたのです。
いつも感じていることなのに、その日は特に、自分の理想の音楽にまったく到達できないことへの歯痒さ、悔しさと、「あなたならできると思うから言うのよ!」とよりハードルの高い要求をしてくれる先生の愛情、またそこに応えられない自分の無力さが、じわじわと私の涙腺を刺激。また隣で先生が弾いて聴かせてくれる演奏が、これまた素晴らしく美しくて、素敵で、それを聴いているだけでまた泣けてきて…色々な思いが込み上げてきて、先生にばれないよう涙を拭うのに必死でした。
(過去のレッスンでは、それで泣いているのがばれて、怒ってもないのに何で泣いているの?と逆に先生に心配され、もう我慢できなくなって不安や悩みを大泣きしながら相談したこともありました。本当に変な生徒です…苦笑)
ちなみに、この日のレッスン曲は、ショパンのピアノ協奏曲第2番の第2楽章。
涙もろくなってしまったのは、曲のせいもあるかもしれませんね!
まだまだショパンへの片思いは続きそうです。

しゅんとしてレッスンから帰宅。しかし、買っておいたポンチェクを食べたら何だか少し元気になりました!
ポーランドの素朴で温かい優しさが、いつもより心に染みる一日でした。

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pianist 中桐 望

pianist 中桐 望
岡山県岡山市生まれ。東京藝術大学ピアノ専攻を首席卒業。同大学大学院修了。2009年日本音楽コンクール第2位。2012年マリア・カナルス国際音楽コンクール第2位。同年、第8回浜松国際ピアノコンクールでは歴代日本人最高位となる第2位を受賞。 関西フィルハーモニー管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、スペイン・ヴァレス交響楽団等のオーケストラと共演。国内外でのリサイタルや音楽祭に多数出演している。第11回岡山芸術文化賞グランプリ受賞。これまでにピアノを内山優子、近藤邦彦、平川眞理、芦田田鶴子、大野眞嗣、角野裕、エヴァ・ポブォツカの各氏に、師事。2014年4月に岡山、名古屋、東京にてデビューリサイタルを開催し好評を博した。今秋よりロームミュージックファンデーション奨学生としてポーランドのビドゴシチ音楽学校に留学している。
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