2005年第15回ショパン国際ピアノコンクールで第4位に輝いた山本貴志が、再びポーランドにも拠点を置きながら新たな活動を開始。日本とポーランド、両国から生の声をお届けします。
※Kraj kwitnących wiśni(クライ・クフィットノンツィフ・ヴィシニ)=「桜の花咲く国」:ポーランドでは日本の事をこのように表現します。
- No.24 2015.08.05更新 「Do zobaczenia!(最終回)」
- No.23 2015.07.10更新 「DIY・・・!?」
- No.22 2015.06.25更新 「緑一色のポーランド」
- No.21 2015.06.05更新 「「ポーランド」を形にしたら・・・?」
- No.20 2015.05.22更新 「折衷の国・日本」
- No.19 2015.05.13更新 「ピアノの力!」
- No.18 2015.04.17更新 「季節も時代も次の舞台へ・・・」
- No.17 2015.04.01更新 「インスピレーションがたくさん・・・!」
- No.16 2015.03.20更新 「行きつけのお店!」
- No.15 2015.03.09更新 「2回の特別な日」
- No.14 2015.02.24更新 「魂が沸き立つような・・・」
- No.13 2015.02.03更新 「氷の鍵盤」
- No.12 2015.01.16更新 「欧州音めぐり」
- No.11 2015.01.05更新 「2015年を気持ち新たに・・・。」
- No.10 2015.01.01更新 「ピアノを背負って楽屋口から・・・」
- No.9 2014.12.03更新 「ポーランドらしいものあれこれ」
- No.8 2014.11.18更新 「マズルカとワルツ・・・?」
- No.7 2014.11.04更新 「既に晩秋のワルシャワより」
- No.6 2014.10.15更新 「黄金の秋、黄金のワルシャワ」
- No.5 2014.10.02更新 「音楽が引き寄せてくれる「出逢い」」
- No.4 2014.09.16更新 「ヘ短調ワルツを思い浮かべながら・・・」
- No.3 2014.09.01更新 「日本人とショパン」
- No.2 2014.08.19更新 「季節を想う」
- No.1 2014.08.01更新 「波蘭」
- pianist 山本 貴志
- 1983年長野県生まれ。5歳でピアノを始め、97年第12回長野県ピアノコンクールでグランプリ受賞。98年第52回全日本学生音楽コンクール東京大会中学校の部で第3位入賞。2001年には第70回日本音楽コンクール第3位。02年、桐朋女子高等学校音楽科を首席で卒業後、ソリストディプロマコースに在籍。03年より5年間、ワルシャワ・ショパン音楽アカデミーに在学。 04年第56回プラハの春国際音楽コンクール第3位入賞及び最年少ファイナリストに贈られる“ヴァレンティーナ・カメニコヴァー”特別賞を受賞。第6回パデレフスキ国際ピアノコンクール第5位。04年度文化庁新進芸術家海外留学研修員。05年、第4回ザイラー国際ピアノコンクールにおいて満場一致で優勝およびショパン作品最優秀演奏賞受賞。同年、第15回ショパン国際ピアノコンクール第4位入賞。アメリカ・ソルトレークシティでの第14回ジーナ・バッカウアー国際ピアノ・コンクール第2位入賞。第33回日本ショパン協会賞を受賞。08年、ショパン音楽アカデミーを首席で卒業し、代表としてワルシャワ・フィルと共演。これまでに大島正泰、玉置善己、ピオトル・パレチニの各氏に師事。現在はリサイタル、室内楽、コンチェルトなどを精力的に行っている。avex-CLASSICS よりショパン:ワルツ集とノクターン集をリリースするなど、今もっとも期待される若手ピアニストのひとりである。今秋よりポーランドに在住。
No.6黄金の秋、黄金のワルシャワ
2014.10.15更新
今ワルシャワへ向かう飛行機の中でこちらの原稿を書いています。予報ではまだ日中20度近くまで気温が上がるそうですが、さて現地はどうでしょうか・・・!?
10月17日はショパンの命日。最晩年はマズルカなどの規模の小さな作品しか残しませんでしたが、絶筆と言われているヘ短調のマズルカのほぼ無調とも言える神秘的な和声には本当に驚かされます。転調を続けた先に待っているイ長調の部分ではふるさとのマズルカの足音が微かに聞こえるよう・・・でも2回繰り返されるとヘ短調に戻って同じ旋律を物悲しく奏でます。作品34のイ短調のワルツにも出てきますが、長調のモティーフをそのまま短調で繰り返す手法は本当に涙を誘いますよね・・・。このように最期の最期まで人の心を惹きつける作品を残したショパンはやはり特別な存在と言わざるを得ません。生誕日も命日も、いつもショパンに対してありがとう、という気持ちになります。(ちなみに生誕日は3月1日と2月22日、2つの説がありますが、ポーランドでは2月22日と思っている方が多い印象です)
命日の前ですのでショパンの晩年の作品のことが頭に浮かびます。最後の大作といえばロ短調ソナタ、舟歌、ポロネーズ幻想曲、そしてチェロソナタ。最後の力を振り絞るがごとく書き上げた奇跡のような作品の数々ですが、作曲した張本人でさえその真価にまだ確信が持てなかったようです。チェロソナタについては「自身で弾いてみるのですがある時はこの作品に満足し、ある時は不満なのです」と言っていますし、ポロネーズ幻想曲に至ってはその曲名について作曲した直後は「まだ題の決まっていない曲」と、どう名付けて良いか迷っていた様子が伺えます。(日本語では「幻想ポロネーズ」と訳されることが多いですが、幻想的なポロネーズ、という意味ではなく、はっきり「ポロネーズ − 幻想曲」と2つの異なる題を並列しています。つまりこの作品はポロネーズでもあり幻想曲でもあるのですね・・・)
チェロソナタには作品番号65が与えられていますが、ショパンが自身で出版を許可した最後の作品、文字通り彼の白鳥の歌となりました。あまりに独創的過ぎたために特に難解な第1楽章は生前人前で演奏されなかったという逸話も残っていますが、それも頷けるほど自在な転調に彩られた中身の濃い作品です。ショパン音楽院で学んでいた時に室内楽の教授が仰っていたお言葉を今でも忘れることができないのですが、それは
「ショパンはこのチェロソナタを生み出すために生を受けたに違いない」
というものでした・・・。ショパンコンクールでは予選で変ロ短調ソナタかロ短調ソナタを選んで演奏することになっていますが、その選択肢にチェロソナタも入れるべきだ、とも熱弁していらっしゃいました。確かにこの作品に込められたエネルギーと美しさは凄まじく、そして特殊とも言える作品だと感じます。それは殆どピアノ曲しか書かなかった彼の数少ない室内楽曲であること、そして例えばアンダンテ・スピアナートと大ポロネーズのようにピアノパートのみでも十分成立する作品とは違い、チェロパートとピアノパートが分かち難く結びついている珍しい形式だという点が大きいと思います。ピアノパートだけだと空虚で、書き忘れとも思えるような和音なのですが、チェロパートに目を向けるときちんとその足りない音を補っているのです・・・。まさにショパンがピアノとチェロの音色の親和性を感じていた証と言えそうです。ラフマニノフが変ロ短調のピアノソナタを、そしてト短調のチェロソナタを書いたことにもショパンの影響が少なからず感じられます。
命日を迎えるにあたって、これらの晩年の作品の楽譜を今一度ゆっくり眺めてみたく思います。演奏しても楽譜を眺めても美しいショパンならではの楽しみです・・・!
コラムIndex
- No.24 2015.08.05更新 「Do zobaczenia!(最終回)」
- No.23 2015.07.10更新 「DIY・・・!?」
- No.22 2015.06.25更新 「緑一色のポーランド」
- No.21 2015.06.05更新 「「ポーランド」を形にしたら・・・?」
- No.20 2015.05.22更新 「折衷の国・日本」
- No.19 2015.05.13更新 「ピアノの力!」
- No.18 2015.04.17更新 「季節も時代も次の舞台へ・・・」
- No.17 2015.04.01更新 「インスピレーションがたくさん・・・!」
- No.16 2015.03.20更新 「行きつけのお店!」
- No.15 2015.03.09更新 「2回の特別な日」
- No.14 2015.02.24更新 「魂が沸き立つような・・・」
- No.13 2015.02.03更新 「氷の鍵盤」
- No.12 2015.01.16更新 「欧州音めぐり」
- No.11 2015.01.05更新 「2015年を気持ち新たに・・・。」
- No.10 2015.01.01更新 「ピアノを背負って楽屋口から・・・」
- No.9 2014.12.03更新 「ポーランドらしいものあれこれ」
- No.8 2014.11.18更新 「マズルカとワルツ・・・?」
- No.7 2014.11.04更新 「既に晩秋のワルシャワより」
- No.6 2014.10.15更新 「黄金の秋、黄金のワルシャワ」
- No.5 2014.10.02更新 「音楽が引き寄せてくれる「出逢い」」
- No.4 2014.09.16更新 「ヘ短調ワルツを思い浮かべながら・・・」
- No.3 2014.09.01更新 「日本人とショパン」
- No.2 2014.08.19更新 「季節を想う」
- No.1 2014.08.01更新 「波蘭」
執筆者 Profile
- pianist 山本 貴志
- 1983年長野県生まれ。5歳でピアノを始め、97年第12回長野県ピアノコンクールでグランプリ受賞。98年第52回全日本学生音楽コンクール東京大会中学校の部で第3位入賞。2001年には第70回日本音楽コンクール第3位。02年、桐朋女子高等学校音楽科を首席で卒業後、ソリストディプロマコースに在籍。03年より5年間、ワルシャワ・ショパン音楽アカデミーに在学。 04年第56回プラハの春国際音楽コンクール第3位入賞及び最年少ファイナリストに贈られる“ヴァレンティーナ・カメニコヴァー”特別賞を受賞。第6回パデレフスキ国際ピアノコンクール第5位。04年度文化庁新進芸術家海外留学研修員。05年、第4回ザイラー国際ピアノコンクールにおいて満場一致で優勝およびショパン作品最優秀演奏賞受賞。同年、第15回ショパン国際ピアノコンクール第4位入賞。アメリカ・ソルトレークシティでの第14回ジーナ・バッカウアー国際ピアノ・コンクール第2位入賞。第33回日本ショパン協会賞を受賞。08年、ショパン音楽アカデミーを首席で卒業し、代表としてワルシャワ・フィルと共演。これまでに大島正泰、玉置善己、ピオトル・パレチニの各氏に師事。現在はリサイタル、室内楽、コンチェルトなどを精力的に行っている。avex-CLASSICS よりショパン:ワルツ集とノクターン集をリリースするなど、今もっとも期待される若手ピアニストのひとりである。今秋よりポーランドに在住。