トリオ イデアル(瀧本 実里 / 石原 小春 / 東 佳音)

同じ大学出身、同じ門下の3人が同じコンクールで上位を独占し、その3人は全員ヤマハハンドメイドフルート イデアルを吹いていた。

そんな夢のような偶然からトリオ イデアルは始まった。若き3人のフルーティストたちは、いったいどんなふうに考えてイデアルにたどり着き、どんな演奏を目指しているのだろうか。

東 佳音 Kanon Azuma

宮城県出身。
10歳よりフルートを始める。第13回仙台フルートコンクール一般の部第一位。第5回三田ユネスコ・フルートコンクール第二位。第12回大阪国際音楽コンクール木管部門Age-Hの部第二位。第32回かながわ音楽コンクール フルート部門一般の部特選。第16回日本フルートコンヴェンションコンクール アンサンブル・アワード部門(フルートカルテットÀ bientôt)として参加第三位。
2014年度東京音学大学短期留学奨学生としてリュエイユ=マルメゾン音楽院に留学。
小澤征爾音楽塾塾生としてOMF2016、小澤征爾音楽塾オペラプロジェクトXV に参加。これまでに、フルートを工藤重典、甲斐雅之、濤岡敬三、山元康生、神田寛明、ピッコロを秋山君彦の各氏に師事。
東京音楽大学音楽学部器楽科(フルート専攻)、東京音楽大学大学院修士課程管打楽器研究領域(フルート)修了。在学中奨学金を得る。
現在、国内オーケストラに客演を行うとともに、ソロ・室内楽等の演奏活動を行う。

瀧本 実里 Misato Takimoto

栃木県出身。東京音楽大学を卒業。
これまでに、フルートを坂本しのぶ氏、工藤重典氏に師事。第88回日本音楽コンクール フルート部門第1位、併せて吉田賞、加藤賞受賞(2019年)。第17回東京音楽コンクール 木管部門 第1位(2019年)。第24回びわ湖国際フルートコンクール一般部門第1位、併せて滋賀県知事賞・滋賀県教育長賞・高島市長賞・朝日新聞社賞・京都新聞社賞受賞(2019年)。第5回三田ユネスコ・フルートコンクール一般部門第1位、併せて三田市長賞受賞(2017年)。第18回日本フルートコンヴェンションコンクールフルート・ソロ部門第1位、併せて吉田雅夫賞受賞(2017年)。第11回仙台フルートコンクール一般部門第1位(2015年)。2016年~2018年に小澤征爾音楽塾 塾生として、ラヴェル : 歌劇「子どもと魔法」、ビゼー : 歌劇「カルメン」、プッチーニ : 歌劇「ジャンニ・スキッキ」に参加。2018年度ロームミュージックファンデーション奨学生。東京音楽大学短期交換留学奨学生として、リュエイユ=マルメゾン音楽院(フランス)に留学し、フィリップ・ピエルロ氏、パスカル・フェブリエ氏に師事。これまでに東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団と共演。NHK-FM『リサイタル・パッシオ』に出演。

石原 小春 Koharu Ishihara

3歳からピアノを、8歳からフルートを始める。兵庫県立西宮高等学校音楽科を経て、東京音楽大学を特別特待奨学生として卒業。在学中短期留学奨学生としてリュエイユ=マルメゾン地方音楽院(フランス)に留学。現在、東京音楽大学大学院に給費奨学生として在学中。
第67回全日本学生音楽コンクール高校の部大阪大会第3位、同全国大会入選。第24回日本クラシック音楽コンクール高校の部全国大会第2位(1位なし)。第29回宝塚ベガ音楽コンクール木管部門入選。第18回日本フルートコンヴェンションコンクールフルート・ソロ部門第2位。第5回三田ユネスコ・フルートコンクール一般部門第3位及びオーディエンス賞。
これまでに、山腰まり、長谷場純一、工藤重典、神田勇哉の各氏に師事。またジャン・フェランディス、フィリップ・ピエルロ、フィリップ・ベルノルド、ミシェル・モラゲス各氏の指導を受ける。

トリオ イデアルはどのようないきさつで結成されたのですか。

:トリオ イデアルは3人とも東京音楽大学出身で、学年は違いますが、全員が工藤重典先生の門下生です。

瀧本:それで、2017年に行なわれた三田ユネスコ・フルートコンクールで、私たちが1位から3位を独占したことが結成のきっかけです。これはなかなか起こることではないと思います。

石原:そのときに全員がヤマハハンドメイドフルート イデアルを吹いていたことで、2018年4月にトリオとして演奏会をさせていただくことになり、せっかくだから名前も「トリオ イデアル」と付けようという話になりました。

瀧本:私たちは同じ楽器を吹いていても音色が全然違って、そういう3人がトリオとして演奏するというのは他ではないことだったので、とても勉強になりました。

今、どんな活動をしていますか。

石原:先日、大学院を修了するためのリサイタル式試験を行ないました。ロドリーゴの《田園協奏曲》とか、第3楽章がピッコロ持ち替えであるカルク=エラートの《異国の印象》など、普段あまり演奏されないような曲を選曲することにしました。自由なプログラムで演奏ができる機会は少ないですから、珍しい曲やピッコロにも挑戦してみたかったんです。それから福島和夫の《冥》やパガニーニの《24のカプリス》など、世界を巡るようなプログラムにしました。修了後は、まだ具体的にはなっていませんが、フランスに留学したいと考えています。

瀧本:私はフリーランスとしてオーケストラのエキストラに呼んでいただいたり、ソロを演奏させていただける機会があったり、という感じです。どちらにも魅力がありますので、今後もオーケストラとソロ、両方やっていければいいなと思っています。今後は、教える仕事もしてみたいです。昨日は工藤先生主導の演奏会を行ないましたが、そこでは運営も自分たちでやるので、とても勉強になります。

:そのコンサートは私が大学院を修了するタイミングで、工藤先生から「若い人たちで、フルートアンサンブルのコンサートをしたらどうか」というお話をいただき、瀧本さんたちとともに「やってみようか」と決めて、何もわからない状態でしたが手探りで何とか開催にこぎつけました。今回で3回目を迎え、ようやく運営にも慣れてきて、コンサートのクオリティも回を重ねるごとに上がっているので、手応えを感じています。
普段はフリーランスとしていろいろなところで演奏させていただいていますが、自主企画でリサイタルを開くなど、演奏する機会を自分で作っていくように心がけています。それから、今年度まで2年間、東京音大で副科の学生にフルートを教えていました。初心者の人に楽器を教えるという機会は今までなかったので、かなり刺激になりました。例えば体の使い方など一から説明しないといけないので、教えるうちに「自分がやっていることって、正しいのかな?」と思うことも出てきて実際に試してみたり。自らを見直す良いきっかけにもなりましたし、自分がこれから演奏していく上でも重要なことを学べた2年間でした。

もともとフルートを始めたのは?

:フルートを始めたのは10歳のときで、小学校で吹奏楽部に入りたくて、フルート教室に行きました。母が趣味でフルートを吹いていたということもあり、入るからには一番上手になりたいという気持ちもありました。何より、吹奏楽部で別の楽器にまわされてしまうことを避けたかったんです(笑)。

石原:私は7歳のときに、親に勧められて始めました。ピアノは3歳から習っていたのですが、両親は他の楽器もやらせたかったそうです。でもまだ体も小さかったので1年間はリコーダーを吹いていました。最初はフルートが重くて、肩に置いて吹いていました(笑)。

瀧本:小学3年生になる前に、仲の良かった友だちが小学校の吹奏楽部に入るというので一緒に入部しました。最初はトロンボーンをやろうとしていたのですが、とても手が届かず、なぜかフルートが空いていたのでやることになりました。友だちと遊びに行く感覚で、とても「フルートを始めた」とは言えないのですが(笑)。4年生のときにフルートトリオでアンサンブルコンテストに出たのがきっかけで、「1人でも吹いてみようかな」と思ったのが始まりですね。

演奏するにあたって大事だと思うことは?

:いかに音楽の表情が出せるかということが私の中では一番です。完璧なコントロール、完璧な技術で聴かせるというのも素晴らしいと思います。でも「その人の次のリサイタルをまた聴きに行きたい」と思うかどうかはまた別の話です。精密機械のように寸分の狂いもない演奏って聴いていて「すごいなあ」と思いますが、それってある意味「次もこういう演奏をするだろうな」と予想がついてしまうわけです。一方で音楽の表情がしっかり伝わってくるような人の演奏は、毎回発見があって、次も絶対に聴きたいと思う。自分も「次もまた聴きたい」と思ってもらえるような演奏をしたいといつも心がけています。「フルートが上手いな」ではなく「良い音楽をしてるな」と思ってもらえることが、私の中での重要ポイントです。

石原:私の場合は、技術的なことはある程度できるのですが、「表情豊かに吹く」ということをいまだに模索中です。やはり技術だけの演奏だと「つまらない」と感じられたりしてしまうので、そうならないようにしたい。そのために、自分がまず自分の音楽を好きになれるように心がけています。

瀧本:工藤先生がよくおっしゃる、ランパルの「技術は完璧であるべきだ。それを忘れるために」という言葉があるのですが、私はその意味をずっと勘違いしていました。演奏にミスがあって音楽の流れを断ち切ってしまうと、そちらに意識が行ってしまうじゃないですか。それを避けるために、楽譜を完璧に吹ける状態にした上で、自分のしたい音楽をしようと思っていました。でもランパルの言葉の本当の意味は、「技術は完璧にしておいて、本番は音楽だけに集中すること」らしいのです。でも、私は勘違いした方の考え方もどちらも大切だと思っているので、勘違いした方も頭に残しておこうと思います(笑)。作曲家は「こう吹いてほしい」と思って譜面を書くわけですから、その通りに音が出なかったらもったいないですよね。

イデアルを吹き始めたきっかけは?

瀧本:第15回東京音楽コンクールの2次予選まで行って、東京文化会館小ホールで《「しぼめる花」の主題による序奏と変奏曲》を吹くことになったのですが、小ホールと言ってもかなり大きなホールなので「なかなか音が客席に届かない」という話を聞き、「それなら」とイデアルを使うことにしました。自分の成長もあるので楽器の影響がどれだけ大きいかはよくわらかないのですが、その後大きなホールでコンチェルトを吹いたときなど「よく聴こえるね!」と言われることが増えました。
それから、私は低音があまり得意でないのですが、イデアルは下までよく鳴る楽器なので、それまでぼやけているように感じた低音がしっかり鳴るようになりました。吹いていてどこかにストレスがあると、演奏に影響が出るじゃないですか。その点でもイデアルはストレスなく吹けるので、次の三田ユネスコ・フルートコンクール(第1位)や、第17回東京音楽コンクール(木管部門第1位)での結果につながったようにも思います。

石原:イデアルを使う前は、毎回のように「音が小さい」「飛んで来ない」と講評に書かれていました。必死になって、ありったけの息で吹いていたのですがやはりだめで、それを克服したいと思っていろいろな楽器を試しました。楽器屋さんに行ってはそこにある楽器を端から吹いてみて、ということを繰り返して、結局イデアルに決めました。2017年の5月のことでしたが、その年からコンクールでうまくいくことが増えて、音もよく聞こえるようになったと言われるようになりました。自分の吹き方も、楽器に合わせて自然に変わっていったのだと思いますが、すぐに結果が出るようになったので、使う楽器の重要さを改めて感じました。

:私の母が趣味でフルートを吹いていたので、母の楽器を譲り受けて大学に入りました。私自身、楽器に対する執着があまりなく、「吹く人が上手ければどんな楽器でも大丈夫」と思っていました。大学時代は音に対して何か言われたりすることも特になかったのですが、あるとき楽器が急に鳴らなくなって、母の使っていた別の古い楽器を調整して使い始めました。楽器自体のグレードは落ちたにもかかわらず「今までの楽器よりよく鳴ってるね」と言われたり、コンクールや大学の試験でもうまくいって、「あ、楽器ってけっこう大切なんだ」と初めて実感したんです(笑)。「それなら、もうちょっと他の楽器も吹いてみようかな」と思ったときに、工藤先生に「イデアルを試してみたら?」と言われて。「まあ、今はまだ替えなくてもいいかな」と思って楽器屋さんに行って《動物の謝肉祭》の〈大きな鳥かご〉を吹いてみたら、音出しも一切していないのに全部吹けたんです。これがもう一目ぼれで、他の楽器を吹くこともなく「買います!」とその場で決めました(笑)。もともと明るく軽やかな音色の楽器が好きなので、イデアルの音色はぴったりでしたし、操作性も今まで使ってきた楽器に比べて格段に良く「楽器ってこんなに吹きやすいんだ」と。2017年の6月のことでした。

イデアルを吹くようになって演奏はどう変わった?

瀧本:私の場合は急にがらりと変わったというよりは、じわじわと変化しているように思います。操作性が上がったことで指の問題がかなり減ったこともありますが、軽く吹いただけですっと音が出るので、変に力を入れる必要がないし、楽器をコントロールするということに関してあれこれ考えなくてもいいので、演奏だけに集中できるようになっていると思います。

石原:楽器に関して不安要素がないということはすごく大きいと思います。私は本番のときにネガティブになりがちなのですが、楽器で音を出すという面での不安がなくなると、全体の安心感につながるんですね。自分がやりたいように、素直に吹けばその通り鳴ってくれる楽器なので、気持ち的に負担が減ったかなと感じています。

:私の場合、前の楽器が古く扱いづらかったこともあって、「解放された」感がかなり強いです。それまでの楽器から20年タイムスリップしたようなものですから。楽器を操ることに関する不安要素がないので、今まで伝わらなかったことが「何をやりたいのかわかるよ」と言われるようになったことが、私の中では大きいです。それは自分が理想としているスタイルにも合っているし、イデアルに替えて本当によかったと思います。「楽器は大事!」と、今は強く言いたい(笑)。

同じイデアルという楽器でアンサンブルするメリットは?

瀧本:まず、音程のバランスがまったく同じなので、音程がすごく合いやすいです。

:それから、同じ頭部管を使っていることもあって息の圧力のかけ方が似ているので、音が始まるタイミングがそろいやすい。イデアルの場合は低音から高音までバッチリ鳴ってくれるので、低音の人が早めに出なければいけないとか、高音の人がちょっと待たなければいけないこともありません。同じタイミングでポンと出られるのは衝撃的でさえありました。

石原:今2人が言ったように、アンサンブルをすると音程とタイミングがネックになることが多いので、すごくやりやすいです。楽器のおかげだけではありませんが、トリオ イデアルはあれこれ考えず、普通に吹いたら音楽がまとまるような気がします。

瀧本:あと、先生が同じということもあってフレーズの取り方とかスタイルのようなものは共通しているので、私たちには楽器と先生、二重の結束力があると思います。

《Quel est votre idéal?》――あなたの「理想」は何ですか――

瀧本:生の演奏を聴いていただくということが前提の活動をしているので、聴き手に伝わる演奏ができることが理想です。つまり、聴いている人がこちらに入り込んできてくれるような感じ。そんなふうに反応してくださっているという感覚が今まで何回かありましたが、その回数がもっと多くなるといいなと思います。

石原:まず自分が好きなように演奏できることですね。先程も言ったように自分に自信がなくて、ついネガティブ思考になってしまうので、まずそれを克服すること。自信を持って演奏を届けられることって、私はまだ経験したことがなくて、自分のすべてを出し尽くしたような演奏はなかなかできないです。まずそれができるような演奏家になりたい。そして、聴いたお客さんが気に入ってくれたらなお嬉しいと思います。

:やはり「次また聴きたい」と思ってもらえるような演奏ができること。一番の理想は、まったく音楽を知らなかった人に「すごくよかった。この演奏は忘れられない」と言ってもらえることです。映画でも演劇でも絵でもスポーツでも、自分の一生を変えてくれるようなことがあるじゃないですか。そういう体験を自分が提供できる側になりたいです。

文:今泉晃一/写真:武藤章/撮影場所:東京音楽大学

他のインタビューも読む

製品情報

【ハンドメイド】イデアル

フランス語で“理想”という名を持つフルートは新たな到達点です。ソロ演奏からオーケストラまで、プロ演奏家のシビアな要求にも応える優れた演奏性。ハンドメイドならではの優雅な風格をたたえ、美しいラインで構成された外観。匠の手腕を注ぎ込み、時間をかけて入念に作り込まれた高級感溢れるハンドメイドフルート “イデアル”です。