白石 法久

フルートデュオ櫻舞(オウブ)でも活躍中の白石法久は、吹奏楽にも特別な想いを持っているそうだ。ヤマハハンドメイドフルート イデアルに対しては当初、警戒感があったというが、はたしてその理由とは?

白石 法久(しらいし のりひさ) Norihisa Shiraishi

群馬県出身。武蔵野音楽大学卒業。第14回びわ湖国際フルートコンクール第1位受賞、併せてオーディエンス賞(聴衆賞)を受賞。第26回日本管打楽器コンクール第5位。第20回宝塚ベガ音楽コンクール入選。第12回日本フルートコンヴェンションコンクール・デュオ部門第1位。第13回日本クラシック音楽コンクール・フルート部門最高位受賞。第15回日本フルートコンヴェンションコンクール・アンサンブル部門第1位。第10回びわ湖国際フルートコンクール・アンサンブル部門最高位受賞。第6回日本現代音楽演奏コンクール入賞。第1回三田ユネスコフルートコンクール入賞。第25回かながわ音楽コンクール・フルート部門第2位。
2009年、神奈川フィルハーモニー管弦楽団契約首席奏者を務める。
これまでにフルートを甲斐道雄氏に師事。
現在、フリーランス奏者として、ソロ、室内楽、オーケストラなど幅広く活躍。

フルートを始めたきっかけは

中学1年生のときに吹奏楽部でフルートを始めました。姉が2人いるのですが、それぞれオーボエ、クラリネットをやっていたので、「吹奏楽部に入ってフルートを吹くこと」はすでに決められていました。「フルートじゃなかったら家に入れない」とさえ言われて(笑)。いざ部活に入ると他にフルート経験者がいて自分は打楽器になりかけたのですが、1か月がんばって練習した結果、無事フルートになることができました。後に、地元の楽器屋さん主催のアンサンブルコンテストに姉弟3人で出たこともあります。

進んだ東京農大二高という高校はマーチングが有名な学校で、自分でもドラムメジャーをやるなど、すごく力を入れていました。後にマーチング指導員1級の免許を取り、10年くらい前までマーチングの指導も並行して行なっていましたし、コンテも書いていました。ただ夏の時期などはそれに追われてしまい、自分のフルートの練習ができなくなってしまったことがあって、以後は演奏活動に集中することにしました。

甲斐道雄先生に師事

音大受験に当たって、フルートは先生につきませんでした。高校3年生のときに武蔵野音大の夏期講習で甲斐道雄先生にレッスンを受けることができたのですが、そこで「お前のフルートは何だ!」とこっぴどく怒られました。私の方も音大レベルというものがまったくわかっていなかったので、適当に吹いていたと思うんです。大学に入ってから聞いた話では、当時男で音大に来るというのは相当な覚悟がいるから、男子には特に厳しくしていたということ、夏期講習でガツンと言われてやめてしまうようでは音楽の世界はやっていけない、ということでした。

その後武蔵野音大に入り、甲斐先生に師事しました。甲斐先生は独特の指導法があって、大学1年生の前期はバッハ以外のバロック曲しかやりませんでした。エチュードはケーラーの1巻から。どのくらいまで仕上げていけば先生がOKをくれるかわかっていたので、最初のレッスンに行ったときに「どれをやってきた?」と言われて「全部やってきました」と(笑)。その後も先生が出す課題を1か月先くらいまで聞いておいて、前もって全部練習しておきました。レッスンはだいたいエチュードが4~5曲+ソロ1曲という感じで、ジョリヴェやイベール、ニールセンのコンチェルトも1回のレッスンで終わった気がします。やる曲が多いので、楽譜代がものすごくかかったのを覚えています。

大学4年間は、ほぼ毎日学校が閉まるまで練習していました。効率のいい練習のやり方もいろいろ考えましたが、結局はメトロノームに合わせて遅いテンポから少しずつ上げていくということが一番だとわかりました。「音楽性は後からついてくる」と考えて、まずはとにかく指が回るようにしたのです。中学校の吹奏楽部の先生にも言われたのですが、「技術の上にこそ表現がある」。つまり、やりたいことがあっても思うように楽器が吹けなければ表現できないということです。
甲斐先生にも、音を間違ったりリズムが転んだりすることに対してはとにかく怒られました。4年生のときに調子を崩して悩んでいたら、先生が「一緒にロングトーンをしよう」と言ってくれてひたすら2人でロングトーンをしたときもありました。レッスンはめちゃめちゃ厳しかったですが、優しい先生だったなと思います。

吹奏楽への想い

現在、オーケストラはもちろんですが、プロの吹奏楽団にエキストラで乗ることも多いです。日本の吹奏楽のレベルって、世界一じゃないですか。吹奏楽でなければ出せないサウンドというものもあります。
プロの楽団での演奏は、少なくともピッコロ、フルートという高音楽器に関しては吹奏楽の方がシビアに感じます。その理由のひとつはダイナミクスの幅で、弱音部分はオーケストラだと主に弦楽器がやってくれますが、その役割をフルートが演じなければならないからです。音程のシビアさも相当なものですね。

フルートは吹奏楽のトゥッティではなかなか音が通らないですが、それでも聴こえないと意味がない。機械で測った音量ではなくて、全体の響きの中にスパイス成分のひとつとしてきちんと存在していることが大事なんです。
よく指導者に「フルート、聴こえない!」と言われているのを見ますが、無理に音量を出すと音がまとまらなくなってしまい、倍音の少ない音になって逆にどんどん聴こえなくなってしまう可能性があります。そうではなく、コンパクトで存在感のある音を出した方がいい。

音のコア(芯)がないと、いくら思い切り吹いても聴こえないんです。ただしやりすぎると硬い音になってしまうので、音のコアの周りにある雑味のようなものが実はすごく大事で、シャーリング(息の音)もそれに含まれます。そのバランスが、ヤマハハンドメイドフルート イデアルは絶妙なんですよ。

山内豊瑞さんとのフルートデュオ、櫻舞

櫻舞(オウブ)は2004年、大学4年のときに、ひとつ下の学年の山内君と結成しました。第10回びわ湖国際フルートコンクールはこのときだけ「アンサンブル部門」があり、そこで最高位を受賞しました。同じ年の札幌のフルートコンベンションコンクールに、やはりその年だけ「デュオ部門」があって、そこでも優勝。巷では「櫻舞が1位を取ったコンクールはなくなる」と言われていました(笑)。
2013年にリリースしたCD『プロヴァンス風組曲』にはそのときの課題曲であるクーラウの《3つの大二重奏曲より》も収録しています。もともと、バロックと現代曲を演奏するというコンセプトなので、現代曲ばかり演っているように思われがちですが、バロックを演奏する機会も多いです。

デュオの面白いところは、2人で駆け引きができるところですね。山内君が吹いたフレーズと僕が吹くフレーズがまったく違っても面白いし、ぴたっと合わせるところは合わせるなどと、かなり自由にできるんです。三重奏、四重奏になると誰か1人が本番で急に違う方向に行こうとしても全員がついていくのはなかなか難しいですが、二重奏なら例えば1人がエキサイトしてしまってもついて行くこともできるし、逆にブレーキをかけることもできる。互いに手綱を持っていて、綱引きをしている感覚が面白いです。

フルートを演奏する上で大事だと思うこと

メロディを吹くのは話をしたり、言葉をしゃべるのと同じことで、何か伝えたいことがあるから演奏するわけですよね。それがないと、ただ音を並べているだけになって、つまらない演奏になってしまいます。つまり、音ひとつひとつが言葉であり、全体が文章であって、そこには意味があるんです。

では「伝えたいこと」は誰のものかというと、基本的には作曲家の言いたいことを追求していいと思います。というのは、10人が同じように作曲家の言いたいことを追求して、楽譜に忠実に演奏したとしても、結局10種類の演奏になるからです。演奏者の個性は勝手に出てきてしまいますからね。

楽器は白石さんにとってどんな存在?

楽器からインスピレーションを受けることはあります。楽器は道具だと思っていますが、それが変わるとやりたいことが自然に変わってくるんですよね。「この楽器に合う吹き方をしよう」ということではなく、やりたい音楽そのものが変わるんです。

楽器を替える場合でも、その楽器に不満があって替えるということはあまりないです。そういうときにはだいたい自分に原因があるので。

実は今使っているイデアルも、最初は試しに借りていたんです。でも、その前に使っていた外国製の楽器と比べると、圧倒的に吹くのが楽だったんです。あまりに楽過ぎて、しばらくの間警戒していたくらいです。「そんなうまい話、あるわけないだろ」みたいな(笑)。

イデアルは音程もいいし、高い音も低い音もムラなく鳴る。それまで自分の中の「吹くのが楽な楽器」って、薄っぺらで深みがないとか、音色の変化が付けづらいというイメージがあったんです。でもイデアルは違った。いろいろな現場で使ってみると、今まで苦労していた部分が楽にできるようになった分、表現を追求できるようになりました。音色も、吹き手の要求するいろいろな音が出せる。「やっぱりこれだろう」と、イデアルを使うことを決めました。

例えば予期せぬ吹き方をしてしまった場合に、楽器が勝手に修正していい音で鳴ってしまうのは、あまり歓迎できません。その点イデアルは吹き手をサポートしてはくれるのですが、楽器が勝手に音を作ってしまうのではなく、吹き手が音色を練ることができる。そのあたりのバランスが本当に絶妙だと思います。
先ほどもお話ししたように、シャーリングを含んだ音の成分のバランスもすごく好きで、特にホールで吹くと抜群です。でも普段あまり響かない部屋で練習しているときの音もいい。

イデアルを使うようになって変わったこと

もしかすると、理想とする音のイメージが自分の中で少し変わったかもしれません。以前はかなり音色に執着していた部分があって、ロングトーンばかりしていました。シャーリング等のノイズのかなり出る楽器だったので、ノイズを減らす吹き方をしていたんです。でもそれって矛盾があるなと思っていたときに、自分が納得できるちょうどいいバランスのイデアルに出会ったわけです。

イデアルは音のつながりもすごくよく、しかも鳴りムラがないのですべての音が自分の理想としているような感じで並んでくれるため、一音、一音作るのではなく、横の流れで音楽を作れるようになりました。

吹きたい曲も変わりましたね。以前はロマン派はあまり好きではなかったのに、ロマン派の曲も吹きたいと思うようになったり、あとは歌の曲を吹きたくなりました。歌の曲って音色的にシビアなんです。フルートで吹く場合は歌詞がないから、いろいろな種類の音色を使い分ける必要があって。そうなったときに、まるで自分が言葉をしゃべるように表現しやすいのがイデアルです。この楽器を吹くようになって初めて、歌詞を乗せて歌っているような感覚を得ることができました。

《Quel est votre idéal?》――あなたの「理想」は何ですか――

楽器は道具でもあるので、自分の声とか言葉のように自在に扱えるように日々努力していかなければならないのですが、イデアルを使うようになってから、楽器と自分との距離がぐっと縮まったという実感があります。楽器は十分なことをしてくれているので、自分がもっと努力して本当に体の一部となったときに、音楽がさらに立体的に表現できるようになると思います。

それから、初めて楽器を手にしたときのように、いつまでもワクワクしていたい。実際に今でもフルートを吹くのが楽しいし、楽器を吹くたびに発見があるんです。楽器がインスピレーションを与えてくれる。毎日新しい発見があって、新しいひらめきがあって、そのためにこんなことがしたい、あんなことがしたいと思う。そうやって、音楽家として常に進化していきたいですね。

文:今泉晃一/写真:武藤章/撮影場所:武蔵野音楽大学

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製品情報

【ハンドメイド】イデアル

フランス語で“理想”という名を持つフルートは新たな到達点です。ソロ演奏からオーケストラまで、プロ演奏家のシビアな要求にも応える優れた演奏性。ハンドメイドならではの優雅な風格をたたえ、美しいラインで構成された外観。匠の手腕を注ぎ込み、時間をかけて入念に作り込まれた高級感溢れるハンドメイドフルート “イデアル”です。