4-1-1 Danteシステムの安定性を高めることの重要性

Danteシステム規模の大小を問わず、プロオーディオの世界においては、音を止めずに安定して動作し続けることが最重要です。いかに高価な機器を用いたり、高度で複雑なネットワークを構築していたとしても、安定した動作が得られなければオーディオネットワークを導入する意味がありません。

しかし、1本のケーブル配線だけでシステム構築されていることや、音声データがネットワーク上でやりとりされていることで、トラブルが発生した際にお手上げになってしまうのではないか?と、不安を覚えた方も多いのではないでしょうか。

下表のように、実際にはDanteシステムの安定性を脅かす多くの不安要素があります。それらの不安を取り除き、Danteシステムを安心して運用していくためには、システムの安定性を高めるノウハウを知っておくことが重要です。

Danteユーザーを不安にさせることとは?
  • LAN/光ケーブルが断線しないだろうか?
  • 突然音声が途切れたりしないだろうか?
  • システムの動作は本当に正常なのか?
  • クロック同期は本当に安定しているのか?
  • 適切なレイテンシー設定はいくつなのか?
Danteシステムを不安定にさせることとは?
  • 安価で粗悪なケーブルやコネクタを使用していること
  • 信頼できるスイッチを使用していないこと
  • 適切なクロック設定になっていないこと
  • 適切なレイテンシー設定になっていないこと
  • ネットワークがDante通信に最適な状態でないこと

4-1-2 Danteシステムの安定性を高める手法

Danteシステムの安定性を高める手法は、下表のように3つに分類して考えることができます。まず「物理的なインフラを強固なものにすること」、次に「Dante機器に正しい設定を施すこと」、そして「スイッチを含めたネットワークのパフォーマンスをDante通信に最適な状態にすること」です。それぞれの詳細は応用編の各項目にて解説していますので参考にしてください。

➀ 強固なDanteインフラを整える

  • 品質の良いケーブルの使用
  • 信頼できるギガビットスイッチの使用
  • リダンダントネットワーク構築

➁ Dante機器の設定を最適化する

  • クロック同期設定の最適化
  • 音声伝送設定の最適化
  • 制御関連設定の最適化
  • ファームウェアアップデートによる最適化

➂ ネットワークパフォーマンスを最適化する

  • パケットを機能毎に分解して考える
  • Danteに十分な帯域幅を持つ
  • QoS(優先順位付け)
  • IGMPスヌーピング(マルチキャスト制御)

4-1-3 PTP同期の重要性

Danteシステムの安定性を高めるには上表のようにさまざまな視点から考えることが必要になりますが、なかでも大事なことはPTP同期の安定動作です。その理由は、PTP同期が不安定になることでDanteシステムの音声は簡単に止まってしまうにも関わらず、その実PTP同期の安定性向上は軽視され、結果的にそれがDanteシステムトラブルの大半の原因になってしまっているためです。
PTP同期を安定させるには、Danteインフラが強固であることや、Dante機器の設定が最適であることはもちろんですが、ネットワークパフォーマンスの最適化が重要な鍵を握っています。

4-1-4 安定性と音声伝送負荷の関係

また、PTP同期の安定動作と、音声パケット伝送によって発生するネットワーク負荷とはトレードオフの関係にあることを考慮しなくてはなりません。仮にPTP同期が安定動作しているとしても、システム規模拡張に伴う音声信号データ量の増加により帯域幅が圧迫されれば、同じネットワークを共有するPTPパケットにも影響が生じはじめます。PTP同期のパフォーマンスに影響を与える音声伝送の要素は、「音声データ量(チャンネル数とサンプリング周波数で変化する)」と「レイテンシー設定に伴うオーバーヘッド増加」と「フロー(ユニキャストとマルチキャストの使い分け)」です。

4-1-5 パケットを機能毎(同期、音声、制御)に分けて考える

PTP同期の安定化のためのネットワークパフォーマンス最適化のステップとして、Danteネットワーク上を流れるパケットを機能ごとに区別して考えることがコツとなります。Danteネットワークの中を覗いてみると、そこにはDanteシステムを機能させる様々な役割を持ったパケットが流れています。それらは主に「PTP同期、音声、制御」の3つに分けて考えることができます。すなわち、PTP同期の安定化とは、各々の機能の動作や性質に合わせて、適切な設定を施していくことに他なりません。

4-1-6 パケット毎の安定化手段

Dante内のパケットを機能毎に分解すると、下表のように安定化のための優先順位があることが分かります。PTPパケットが快適に行き来できることが安定化のための最優先項目であり、その次に音声パケットという順番です。また、音声パケットの安定性向上とDanteレイテンシー設定などは密接な関係があります。制御信号の優先順位は高くはありませんが、I/OラックのHAリモートなどの安定性に関わってきます。

機能 安定化
優先度
データ
形式
安定化の条件 スイッチの
安定化機能
ユーザーによる
Dante設定の安定化手段
同期 1 PTP PTPパケットによる「同期」が
安定していること
QoS Danteクロック同期設定
(推奨設定か外部同期か)
音声 2 PCM Danteレイテンシー設定値以内に
音声パケットが到達していること
QoS
IGMP
Danteレイテンシー設定
ユニ/マルチキャスト設定
制御 3 その他 本体機器側のリモートコントロールが
正常に動作していること
QoS 本体機器側の
各種設定最適化

以降のページより、PTP同期の安定動作を含む、さまざまな安定化のためのノウハウについて解説していきます。