Danteは既存のネットワーク技術を最大限利用できるように設計されたテクノロジーであり、スイッチの持つさまざまな機能を活用できます。それはつまり、スイッチの働きひとつでDanteネットワークのパフォーマンスも大きく変わってしまうほどスイッチの能力に依存していると言っていいでしょう。ネットワークスイッチ応用編では、各種最適化機能や、一部の高度な設定について説明します。

Danteのパフォーマンスを最適化する機能

  • QoS:PTP同期の安定化
  • IGMPスヌーピング:マルチキャストフローの最適化

Danteネットワーク構築で使用するその他の機能

  • VLANとトランク、スパニングツリー、リンクアグリゲーション

4-8-1 QoSによるPTP同期の安定化

Danteの安定動作の鍵を握るのはPTPパケットが快適にネットワーク上を行き来できる状況です。しかし、多くの音声チャンネル数を扱い帯域幅の多くを消費してしまうとスイッチへの負荷も高まり、PTPパケット転送のパフォーマンスが低下します。

スイッチが持つ『QoS』機能を使うことで、このような混雑したネットワーク状況においてPTPパケットを優先して転送させることが可能です。Danteに最適な優先順位は、最優先がPTPパケット、その次が音声パケット、その次が制御などの他のパケットとなっており、スイッチ上のQoSはこの優先順位に従って転送を行います。

QoSによる優先転送の効果はネットワークが混雑した状況に至ってからはじめてその力を発揮するので、ネットワーク帯域幅に余裕があればQoSが無くても十分に動作します。とはいえ、よりよいPTP同期の安定動作のために、常にQoSによる優先転送の恩恵を受けられる環境を構築しておくことが、Danteシステムの安定化のためには望ましいでしょう。

4-8-2 QoSとは

QoSとは「Quality of Service」の略で、ネットワーク上の特定の通信を優先でき、業務用スイッチの多くに搭載されている機能です。QoSには様々な種類がありますが、Danteでは「Diffserv(DSCP)」というタイプを用いています。Audinate社はDanteに適した優先順位に基づく「QoS(DSCP)設定表」(下図)を公開しており、この設定に従ってQoS設定を施せば、Danteに最適なネットワーク環境を構築できます。しかし、この設定表に基づいたQoS設定をスイッチに施すことはそれほど簡単なことではありません。ご覧の表の通り、少々難しい表現で優先順位が示されています。

Priority Usage DSCP Label Hex Decimal Binary
High Time critical PTP events CS7 0x38 56 111000 同期
Medium Audio, PTP EF 0x2E 46 101110 音声
Low (reserved) CS1 0x08 8 1000 制御
None Other traffic BestEffort 0x00 0 0 その他

4-8-3 QoSの設定方法

QoSの設定方法は大きく分けて2つあります。ひとつはDanteに最適なQoS設定を備えたスイッチを使用し、その設定を呼び出す方法です。例えばヤマハ製スイッチ「SWPシリーズ」では、Danteに最適なQoS設定値があらかじめプリセットされているため、それをディップスイッチで呼び出すだけで、Danteに最適な状態になります。設定間違いも起きず、常にDanteに最適な状態を保つことができます。

もうひとつは上図の「QoS(DSCP)設定表」に基づき、スイッチメーカーが提供するGUIソフトやCLI(コマンドライン)を用いて、一から手動で設定を施す方法です。この方法は、より高度な優先順位付けが必要な特殊なネットワーク設計の際に応用が利きますが、ネットワークスイッチやコマンドに関する専門的なスキルが必要なため、ハードルの高い方法と言えるでしょう。

4-8-4 IGMPスヌーピングによるマルチキャストの最適化

ネットワークスイッチの機能のひとつ『IGMPスヌーピング』はマルチキャストパケットを不要な機器に転送しないよう働きます。Danteに最適化されたヤマハ製スイッチ「SWPシリーズ」などでは、マルチキャストフローの転送を最適化するために初期値で有効になっています。IGMPスヌーピングはDanteマルチキャストの最適化に限らず、近年映像分野で普及が進むSDVoEでも使用されている技術です。SDVoEで運用される高解像度の映像パケットは容量が大きいため、ユニキャスト転送ではかえって非効率になってしまう点があり、マルチキャストとIGMPスヌーピングの組み合わせにより、ネットワーク帯域幅の消費効率を高めています。

IGMPスヌーピングとマルチキャストフローの詳しい動作については、前述の「ユニキャストとマルチキャスト」で詳しく説明していますので参考にしてください。

PTPパケットへの影響について

PTPパケットはマルチキャストのため、IGMPがPTPパケットに影響を及ぼす場合があります。その場合、PTPクロックリーダーが2つ以上出現するような挙動を示し、Danteネットワークは不安定な状態となります。不適切なIGMP設定や、スイッチ間IGMPバージョン・設定不一致などがその主な原因ですが、適切なIGMP設定が行えない場合は、無効にすることで改善することがあります。

4-8-5 VLANとトランク

スイッチの代表的な機能といえば『VLAN』と『トランク』です。なかでも『タグVLAN』では、複数スイッチ間の共通のVLANを、トランクポート経由で1本のケーブルでまとめて接続することができます。Dante PrimaryとSecondaryを単一スイッチのVLANで分けることもできますが、スイッチ本体のリダンダンシーにならないため推奨しません。

DanteシステムをVLANで区切ることがあるものは、主に音声と制御などです。

4-8-6 スパニングツリープロトコル

スパニングツリープロトコルは多くのマネージドスイッチに搭載されている機能のひとつです。複数のスイッチをリング状に接続した際に、パケットループによって通信が破綻してしまうことを防ぐ働きがあります。その働きを利用して、リングトポロジーによるリダンダンシーに活用されています。

例えば、Danteシステムもある程度の規模になると下図のように、3箇所にスイッチを配置するケースも増えてくるでしょう。その場合、スイッチ間リンクがデイジーチェーンのままでは不安が残ります。そのため、スイッチ間リンクをリング接続し、スパニングツリーを組み合わせることでリダンダンシーを実現できます。

4-8-7 リンクアグリゲーション

スパニングツリーは大規模ネットワークにおけるスイッチリダンダンシーには適していますが、コンパクトなDanteシステムにおいて、スイッチ間リンクのケーブル接続を単純に2重化したい場合には『リンクアグリゲーション』の方がシンプルな方法かもしれません。

リンクアグリゲーションは、下図のように“複数の物理リンクを、単一の論理リンクとして束ねる”ことができる機能です。リンクアグリゲーション用として設定したスイッチのポート同士を2本以上のケーブルで接続することで、あたかも1本の接続のようにみなすことができます。これにより、スイッチ間リンクのケーブル接続のリダンダンシーをシンプルに実現できます。

またリンクアグリゲーションは、束ねた接続分の帯域幅を拡張することができますが、それはあくまで理論値であり、1Gbps x 2により単純な2Gbpsにはならないため、帯域幅拡張よりは冗長化としての側面が強いと考えたほうが無難でしょう。