Danteクロック同期を安定させるためには、PTPパケットが快適に行き来できるネットワーク環境の構築が不可欠です。クロック同期応用編では、Danteの同期の仕組みについて詳しく見ていきます。

4-3-1 クロック同期の安定動作に必要な要素

まず、クロック同期が安定して動作するために必要となる要素は下記です。

  1. クロック同期の推奨設定を施すこと(「クロック同期 基礎編」参照)
  2. 十分な帯域幅確保と信頼できるスイッチの使用(Dante専用および1Gbps以上の帯域幅)
  3. ネットワークスイッチ機能の最適化(QoS、IGMP、EEE無効化)
  4. クロックステータスモニタリング活用による不安定性の観測と対策

4-3-2 クロック同期の推奨設定を施すこと

クロック同期基礎編でも述べた通り、クロック同期を最も安定させる方法は、推奨設定である「Danteに同期する」を採用することです。

Danteクロック同期の設定手法は大きく2つに分けられる

まずはご使用のDanteシステムのクロック同期が、この推奨設定になっているかどうかをご確認ください。もし、外部クロックに同期する必要がある場合、高度な設定が必要になります。外部クロック同期について「外部クロック同期」を参照ください。
Danteクロック同期の安定度合いを確認するには、クロックステータスモニタリングを用います。

4-3-3 クロックステータスモニタリングの活用

Dante Controllerが備える『クロックステータスモニタリング』機能を使えば、Danteネットワーク(PTPリーダー ⇔ フォロワー)のPTP同期の精度や安定度合いをリアルタイムで視覚的に確認できます。

クロックステータスのヒストグラムは、PTPクロックリーダーの「0 ppm」を基準に、フォロワー機のクロックがどの程度の誤差(オフセット)を持つかを緑色バーの横軸方向で示しています。1本のバーが立っている状況であれば、安定傾向にありますが、数本のバーが乱立していたり、バーが基準(中心)から極端に離れている場合は不安定な兆候が見られます。これはPTP同期になんらかの影響を与える要素があることを示唆しており、その除去が必要です。昼夜でこの機能を走らせることで、クロックの不安定性を観測することも有効な手段です。

4-3-4 PTPリーダー移動時に音切れが起きない仕組み

クロック同期を推奨設定にすることで、PTPクロックリーダーが移動しても音切れが発生しないという恩恵が得られます。その簡単な仕組みについて解説します。
ネットワーク上のDanteモジュールは独立したクロックソース(VCXOなどの水晶発振器)を備え、それぞれのクロックは高精度な時間軸で独立して動作しています。PTPはそれら独立して動作するクロックソース同士を“ゆるやか”に同期させています。
下図のように、PTPクロックリーダーが移動した場合、新たなPTPリーダー機の緑色バーが元の位置からゆるやかに「0 ppm」の基準位置に近づき、やがて「0 ppm」に達すると停止します。この動作が“ゆるやかな同期”であり、PTPクロックリーダー移動時でも音切れしない仕組みです。

一方で、外部クロック同期時のPTPリーダー移動では、急激なクロックオフセットが行われ、Dante上の音声信号は一時的にMUTEされるため、これらの恩恵を得られません。

TIPS

Danteはサブネット(レイヤー3)を超えられない?

Danteが採用する「PTP v1」はL3スイッチやルーターによるIPルーティングに対応していないため、通常Danteはサブネットを超えることはできません。
サブネットを超えるには「Dante Domain Manager」ソフトウェアが必要です。Dante Domain Managerが無い環境では、レイヤー2の同一LAN内のみでシステム構築してください。Dante Domain Managerを用いた遠隔地間の通信を行う場合も、インターネット網など汎用回線での通信は、速度や帯域確保の点で非常に困難と言え、専用線(ダークファイバー等)の使用を推奨します。
また、サブネット超えのルーティング用機器には、ルーターよりもL3スイッチの方がハードウェア処理による高速処理が期待できるため、レイテンシー観点からも有利と言えます。