4-6-1 フローとは?

Danteの音声通信は『フロー』と呼ばれる独自の概念を用いており、音声通信に関する基本単位として扱われます。ユニキャスト・マルチキャスト、帯域幅の消費量、リダンダンシー動作、Danteレイテンシー適用値など、Danteの音声通信に関する挙動はフロー単位で説明がつきます。そのフローについて考えるうえで重要なものが「ユニキャスト」と「マルチキャスト」です。限られたネットワーク帯域幅で効率的に音声ルーティングを行うにはユニキャストとマルチキャストの性質を理解しておくことがとても重要です。

4-6-2 ユニキャストとマルチキャスト

Danteに限らず、ネットワークのパケット通信の世界では、そのパケットの役割に応じてユニキャストとマルチキャストが使い分けられています。そのため、音声通信についてもユニキャストとマルチキャストを適切に使い分ける必要があります。それぞれについて説明します。

『ユニキャスト』とは1対1の通信のことを示します。同一ネットワークに接続されたDante機器同士は任意で音声のやりとりを行えますが、通常行われる音声パケット交換はネットワーク上での1対1通信、つまり『ユニキャスト』です。そのため、音声パケットの宛先アドレスには一意の特定の機器のみが指定されています。Danteの音声パッチの初期値はこの『ユニキャスト』が適用されます。

『マルチキャスト』とは1対多の通信を示します。マルチキャストは宛先が一意の特定の機器ではなく、マルチキャストアドレスを用いています。スイッチはマルチキャストアドレスを読み取り、全てのポートにパケット転送するよう動作します。

また、よく誤解されるポイントとして、「パラパッチ=マルチキャスト」ではないことです。

Danteでのパラパッチとはユニキャストを複数回行っている状態と捉えてください。

4-6-3 ユニキャストフローとマルチキャストフロー

フローはこのユニキャストとマルチキャストで役割が分けられます。『ユニキャストフロー』は4chをひとまとめにした1対1通信、『マルチキャストフロー』は8chをひとまとめにした1対多通信です。例えば『ユニキャスト』での1chのみのパッチ時は、4ch分のサイズのフローが送信されます。そのため、Danteパッチでは4ch単位で帯域使用量が変化することを覚えておくと良いでしょう。

ここで重要なことは、『ユニキャストフロー』は際限なく送信できるわけではないということです。送信可能なユニキャストフロー数はモデルによって異なります。

パラパッチ時の重要なポイントがもうひとつあります。例えばDante対応アンプやスピーカーのような1~2ch単位の入力専用機器へのパラパッチ時も、1~2chの使用で1フローを消費してしまいます。そのため、チャンネル数に対する送信フローの効率が悪く、多数のDante対応アンプ・スピーカーへの分配時は送信フローが足りなくならないよう注意が必要です。

4-6-4 Danteシステムはユニキャストを基本に構築する

Danteパッチは初期値でユニキャストが適用されるため、システム規模がコンパクトであれば意識する必要はありません。しかし、一つの機器から多くの機器にパラパッチするような大規模なユースケースでは、ユニキャストフローが不足する場合が出てきます。マルチキャストはそのような場合に使用します。そのため、フローが不足するまではユニキャストを基本にシステム構築することを推奨します。マルチキャストフローの作成はDanteControllerの「Create Multicast Flow」から行うことができます。

TIPS

受信フロー数

フローは送信だけでなく受信側にもあり、Dante Controllerで受信フロー数を確認できます。Dante対応マイクやW/Lレシーバーを使う場合の受信フロー消費数には注意が必要です。

4-6-5 マルチキャストフロー使用時の注意点

マルチキャストフロー使用時は、Danteネットワークの帯域消費量に気を配る必要があります。ネットワークスイッチはマルチキャストパケットを受け取ると、そのパケットを複製して、接続された全ての機器に対してマルチキャストパケットを転送します。すると、不要な機器にもDante音声パケットが流れ、帯域幅を無駄に消費してしまいます。また、パケット複製・転送するネットワークスイッチにも大きな負荷がかかります。このネットワーク帯域幅・ネットワークスイッチへの負荷は音声パケットだけでなくPTP同期のパフォーマンスにも影響を及ぼします。

4-6-6 IGMPスヌーピングによるマルチキャスト制御

ネットワークスイッチの『IGMPスヌーピング』機能を使うことにより、マルチキャストフローによるネットワーク帯域消費量を効率化できます。『IGMP』は、マルチキャストを必要としているポートにのみ音声パケットを転送するよう動作します。

一方で、マルチキャストであるPTPパケットに悪影響を及ぼさないために、『IGMP』は全てのネットワークスイッチでバージョンを揃え、設定を適切に行う必要があります。ヤマハ製「SWP2/SWP1シリーズ」ではDanteに最適なIGMP設定を自動的に行うことができます。

TIPS

Danteに最適なIGMP設定とは?

Danteに最適なIGMP設定は、[IGMPクエリア:有効]、[TTLチェック:無効]、[IGMPクエリー送信間隔:30秒]を推奨しています。