Danteレイテンシー設定を短縮することで、ライブサウンドなどの遅延に対してシビアな用途において低遅延再生の効果が期待できます。しかし、Danteレイテンシー設定の短縮に伴い発生するパケットロスのリスクや、パケット数増加によるネットワークオーバーヘッドの帯域幅圧迫といった課題も同時に解決する必要があります。レイテンシー応用編では、低遅延システムを構築するための、安全なDanteレイテンシー設定の方法について解説していきます。
4-5-1 レイテンシー設定を能動的に変更するきっかけとは?
Danteレイテンシーの初期値は1.00msecであり、よほど遅延にシビアな環境でない限り、初期値のままでも十分使用できるでしょう。Danteレイテンシー値は、ご使用のDante環境が下記のような2パターンに当てはまる場合に、1.00msecから短くするか、または長くするのかを検討します。
“低レイテンシー伝送”が必要な場合
パケット遅延値より大きい、最短レイテンシーを設定する
(レイテンシーモニタリングでパケット遅延を観測する)
“パケット遅延”が非常に大きい場合
パケット遅延値より大きい、長めのレイテンシーを設定する
(5.00msecで足りない場合はDante Domain Managerを使用する)
4-5-2 レイテンシー設定の指標
Danteレイテンシー設定の最もわかりやすい指標は、音声パケットが経由するスイッチの台数です。しかし、スイッチ台数を指標にした場合の最短の0.25msecを実現するには、スイッチが1台のみというかなり小規模なシステムに限定されてしまいます。実はスイッチ台数の指標には、実際に流れる音声信号による帯域幅消費量(チャンネル数、サンプリング周波数、ビットレートで変化する)やスイッチの処理速度などのパフォーマンスに関する条件が提示されていないため、かなり大雑把な基準であると考えられます。
この大雑把な基準に頼らずに、より厳密にレイテンシー設定短縮を追い込んでいく方法は、レイテンシーモニタリング機能で観測できるパケット遅延実測値を指標にすることです。レイテンシーモニタリングの使い方について説明します。
ベーシック
経由するネットワークスイッチの台数を指標にする
アドバンス
レイテンシーモニタリングによる「パケット遅延実測値」を指標にする
4-5-3 レイテンシーモニタリング
Dante Controllerの『レイテンシーモニタリング』機能を使えば、Danteレイテンシー設定値に対して、音声パケットが実際にどれだけの遅延で到達しているのかを観測できます。これにより、スイッチ台数ではなく、より厳密な低レイテンシーシステム構築のための設定検討が可能になります。また、下図にある「0.333msec」とは、Danteレイテンシー設定1.00msecの場合のパケット化に必要な定まった遅延時間であり、実際には0.333msecよりも大きいパケット遅延が観測されます。
4-5-4 パケット遅延
Danteでは、デジタルオーディオデータ(PCM)を「パケット化」する時間(下図)と、そのパケットを転送する時間の合計が「パケット遅延」として発生します。パケット化にかかる時間は、サンプリング周波数、パケットに格納するサンプル数で一定値に決まるため簡単に予測できます。一方、ネットワークスイッチ等でパケットが転送されるのに必要な時間は、ネットワークパフォーマンスに大きく左右されるため、不定値です。つまり予測が難しいのです。そのふたつの遅延合計値が上図のレイテンシーモニタリングで観測されます。
4-5-5 Danteレイテンシーとデータ量の関係
Danteレイテンシーを変更すると音声データ量も変わるという関係があり、短縮方向に変更すると音声データ量は増加します(下図)。その仕組みを説明します。
(1)低遅延でパケット到達する必要がある ⇒ (2)パケット化遅延時間の短縮のためにオーディオサンプル数が減る ⇒ (3)単位時間で同容量の音声データを流すためにパケット数が増加する ⇒ (4)パケット数増加に伴いオーバーヘッド(ヘッダー等)が増加する、という流れです。
このように、Danteレイテンシー設定は音声データ量とも密接な関係があります。多チャンネル伝送で帯域幅を大きく消費している場合にレイテンシーを短縮する際は、残りの帯域幅に注意が必要です。
4-5-6 機器間のDanteレイテンシーは長い値が適用される
DanteレイテンシーはDante機器毎に個別に設定できます。そのため、音声をやりとりするDante機器間では異なるDanteレイテンシー設定になることがあります。この場合、音声をやりとりする機器間で“長い方”のDanteレイテンシー値がフロー毎に適用されます。下図のように、ひとつのDante機器で複数の異なるレイテンシーのフローをやりとりしていることがわかります。