4-11-6 SMPTE ST 2110機器との接続の流れ

ここまででSMPTE ST 2110規格の全体像やDanteとの関係性について詳しく触れてきましたが、ここからはDante機器とSMPTE ST 2110-30機器との音声接続が具体的にどのような形で行われるのかを見ていきましょう。本ガイドでは接続のイメージを簡潔にわかりやすくお伝えするために、ポイントを絞って解説し、全ての設定内容の詳細には触れずに進めます。

SMPTE ST 2110環境下のDante機器同士の接続

はじめに、“Dante機器同士”を接続する場合は、SMPTE ST 2110システム環境下であっても従来どおりのDante方式が適用されますので、SMPTE ST 2110-30の方式で接続することはできません。理由としては、Dante機器が最大限の能力を発揮できるのがDante従来のネイティブ動作のためです。見方を変えれば、SMPTE ST 2110-30対応Dante機器はSMPTE ST 2110環境化ではSMPTE ST 2110-30とDanteの両方の“言語”を同時に話すことができるというわけです。

SMPTE ST 2110-30対応の非Dante機器:MONTONE.42

本ガイドでは具体的な接続モデルにDirectOut Technologies社のSMPTE ST 2110-30対応Audio-over-IPブリッジユニット「MONTONE.42(モントーネ42)」をDante機器と接続するSMPTE ST 2110-30対応機器の例として説明します。

まずはSMPTE ST 2110機器との接続の概念を俯瞰して把握するために、以下のような簡単な4ステップに手順を分けて考えます。

Dante Domain Managerを用いてSMPTEドメインの作成と設定をする
音声ルーティングのための機器検出と「SDP」の概念を理解する
送信:Dante機器の音声信号をSMPTE ST 2110-30機器に送信する
受信:SMPTE ST 2110-30機器の音声信号をDante機器が受信する

SMPTE ST 2110機器との音声接続を行うために大きく分けたこの4ステップを踏んでいきます。これがもし、Dante機器のみのシステムでしたらDante Controllerを立ち上げて音声パッチを行うだけでセットアップは済んでしまいますが、SMPTE ST 2110環境ではそう簡単にいかないことがわかります。SMPTE ST 2110-30の音声信号を意図した機器間でやりとりするにはSMPTE ST 2110規格の概念を正しく理解し、これらの手順を全てクリアしなくてはならず、加えていずれの工程も難易度の高いものとなります。そして、手順3~4が示すように、信号を受信する場合と送信する場合とで内容が異なることも重要なポイントです。

Dante Domain Managerを用いてSMPTEドメインの作成と設定をする

STEP:

  1. Dante Domain ManagerによるSMPTEドメインの作成
  2. Dante Domain ManagerによるSMPTEドメインの設定
  3. Dante Domain ManagerによるSMPTEドメインへのDante機器登録
  4. Dante ControllerによるSMPTEドメインへのログイン

1. Dante Domain ManagerによるSMPTEドメインの作成

Dante機器にとってSMPTE ST 2110-30は異なる仕組みを持つ規格のため、相互接続のためにはDanteとSMPTE ST 2110-30の間で共通の仕組みで動作する環境をネットワーク上に用意する必要があります。そのために、SMPTE ST 2110-30専用の領域をDanteネットワーク上に作り、その領域内で機能するSMPTE ST 2110規格に準じた設定を施す必要があります。そのような特殊な環境条件を整えることを可能にするのがDanteネットワーク管理ソフトウェアの位置づけにあるDante Domain Managerです。ここでいうSMPTE ST 2110-30専用の領域をはじめ、Dante Domain Managerの管理下で様々な高度な設定が行える領域のことをDanteの世界では「ドメイン」と呼びます。Dante Domain Managerで作成できるドメインには次の3つのモード*があります。

* Dante Domain Managerの「Advanced Settings」>「Clocking Mode」に該当します。

Default Danteのみのネットワークで使用する場合に使用
AES67 AES67を用いた相互接続の場合に使用
SMPTE SMPTE ST 2110-30を用いた相互接続の場合に使用

SMPTE ST 2110-30との相互接続のためには「SMPTEモード」を選びます。

これにより、SMPTE ST 2110-30相互接続のためのドメインが生成されます。

2. Dante Domain ManagerによるSMPTEドメインの設定

作成したSMPTEモードのドメインでは、SMPTE ST 2110に関する各種設定項目が表示されます。設定項目にはPTPv2やSMPTE ST 2110に関する様々なパラメータがあり、各パラメータを正しく設定するためにはSMPTE ST 2110およびPTPv2に関する知見が必要です。一般的にはSMPTE ST 2110システム環境の基準に従って適切な値を入力します。

* 表示されている値はサンプルです。

3. SMPTEドメインへのDante機器登録

SMPTEドメインの作成と詳細設定を終えたら、Dante機器のSMPTEモードへの登録を行います。SMPTE ST 2110-30機器との相互接続を行いたいDante機器を、SMPTEドメインに登録します。この登録のプロセスをDante Domain ManagerではEnrollと呼びます。SMPTEドメインに登録したSMPTE ST2110-30対応Dante機器はSMPTEモードとして動作します。

また、SMPTEドメイン内ではDante機器同士で信号のやりとりが行われることもあるため、必要に応じて非SMPTE ST2110-30対応Dante機器も同じSMPTEドメインに登録します。

4. Dante ControllerによるSMPTEドメインへのログイン

Dante Domain Managerによるドメイン登録作業を終えたら、Dante ControllerでDante Domain Managerサーバーにログインし、作成したSMPTEドメインにアクセスします。すると、SMPTEドメインに登録したDante機器が表示されます。このとき、Dante Controllerに表示されるのはDante機器のみであり、同一ネットワーク上のSMPTE ST2110-30機器は表示されません。*

* SMPTE ST 2110-30機器側が「SAP(Session Announcement Protocol)」と呼ばれる機器検出プロトコルを使用している場合、そのSMPTE ST2110-30機器から送信されるマルチキャストオーディオストリーム情報がDante Controllerに表示されます。その場合は、【④ 受信:SMPTE ST 2110-30機器の音声信号をDante機器が受信する】場合において以下手順②をスキップできます。

音声ルーティングのための機器検出と「SDP」の概念を理解する

ここまでの工程で音声信号をやりとりしたい機器同士がSMPTE ST 2110-30規格に基づいて動作できる環境が準備できました。次に、Dante機器とSMPTE ST2110-30機器の音声ルーティングを行うのに必要なプロセスである「機器の検出」と、そこで用いる「SDP」と呼ばれるプロトコルについて解説します。この機器検出と呼ばれる工程は本来、独自AoIP規格では固有の自動機器検出機能によって簡略化され、ユーザーは意識する必要がない部分ですが、SMPTE ST 2110環境ではユーザー自身が手動で行う必要があります。

STEP:

  1. SMPTE ST 2110環境下のDante Controllerの役割を知る
  2. 機器検出について理解する
  3. マルチキャストと機器検出の関係
  4. SDPとは?
  5. SDPの伝達方法

1. SMPTE ST 2110環境下のDante Controllerの役割を知る

SMPTE ST 2110環境下において、Dante機器とSMPTE ST 2110-30機器を相互接続するためのパッチ作業はDante Controllerを使用します。SMPTE ST 2110規格にはSMPTE ST 2110-30機器同士やDante機器と音声パッチを行う共通のソフトウェアが無いためです。またDante Domain Managerにも音声パッチの機能はありません。SMPTE ST 2110環境下でDante Controllerができることは、SMPTE ST 2110-30機器からの音声信号を検出しDante機器が受信するためのパッチ作業および、Dante機器からの音声信号をSMPTE ST 2110-30機器に送信するためのマルチキャストの作成です。

2. 機器検出について理解する

あらゆるAoIP規格に共通して言えますが、音のやりとりをするための音声パッチという作業は、送信機器と受信機器のそれぞれがソフトウェア上で認識されていて可能になります。例えば、Dante機器同士の接続の場合、通常は音声信号を送信したい機器と受信したい機器のそれぞれがDante Discovery(Windowsの場合)、Apple Bonjour(Macの場合)という自動検出機能によってDante Controllerというひとつのソフトウェア上で認識され“見えている”ため、マウス操作ひとつを行うだけで音声パッチが行なえます。

しかし、SMPTE ST 2110環境下では、Dante Controller上にDante機器は見えるのですが、肝心のSMPTE ST 2110-30機器は認識されず“見えない”ため、Dante機器との音声パッチ操作ができません。
この「機器が見えている状態」というのが、機器検出やディスカバリーと呼ばれる概念です。ネットワークではこの機器検出の概念がとても重要です。ソフトウェアで機器が見えない限り、音声パッチをしたくてもできないためです。そのため、SMPTE ST 2110では、音声パッチの前にまずソフトウェア上でSMPTE ST 2110-30機器の検出を達成しなくてはなりません。具体的には、Dante Controllerのルーティング画面上にDante以外のSMPTE ST 2110-30機器のオーディオストリーム情報が見える、という状況を用意します。

3. マルチキャストと機器検出の関係

機器検出を達成しなくてはDante Controllerを用いた音声パッチができないことを説明しました。しかし、現状のDanteの仕組みではDante ControllerにSMPTE ST 2110-30の機器本体そのものを検出することはできません。Dante上でのみ機能する自動検出機能であるDante DiscoveryおよびApple BonjourではSMPTE ST 2110-30機器を認識できないためです。また、SMPTE ST 2110-30規格側にもDante Controllerに機器認識させるための通知を行う機能はありません。

では、どのようにしてDante ControllerにSMPTE ST 2110-30機器を認識させるのでしょうか。

その答えはマルチキャスト送信と「SDP」と呼ばれる仕組みを用いることです。マルチキャストは接続されている同一ネットワーク上の複数の機器にデータを流すことができる送信方式です。マルチキャストを用いることで、受信機器側がデータを「受け取る」「受け取らない」に関係なく、ネットワーク上の全ての機器にオーディオストリームを流すことができます。「SDP」はそのマルチキャストを送信先のシステムに検出させるために用いるプロトコルです。SMPTE ST 2110-30ではマルチキャスト形式の音声送信を利用し、そのオーディオストリームに含まれる通信のための情報が記述された「SDP」を用いることで、受信機器側の制御用ソフトウェアで機器検出させることができます。Danteの場合では、この「SDP」をDante Domain Managerで扱うことができ、Dante Domain ManagerからDante Controllerに機器検出のための情報が伝達されることで、Dante ControllerでSMPTE ST 2110-30機器のオーディオストリームを検出できます。
補足ですが、Dante機器同士の接続の場合、ユニキャストフローが自動で適用されますが、ユニキャストは送信機器と受信機器が見えている前提で行える方式のため、SMPTE ST 2110-30環境でユニキャストは使用されません。

4. SDP(Session Description Protocol)とは?

SMPTE ST 2110-30では音声送信にマルチキャスト方式を用い、マルチキャストのオーディオストリームに含まれる「SDP」による機器検出を行うと説明しました。では「SDP」とはどのようなものでしょうか。
SDPはSession Description Protocolの頭文字を取ったものです。セッション記述プロトコルとも表されることがあります。「Session:セッション」とはネットワークの世界では通信の開始から終了までのことを指し、SMPTE ST 2110では映像・音声メディア送信におけるストリームの一連の流れと捉えることができます。SDPは、SMPTE ST 2110-30機器のマルチキャストの送信を行う際に、受信機器側のシステムとの通信の確立(セッション)をするために、通信に必要なパラメータを記述したデータ形式のひとつです。具体的には、Dante機器を含むSMPTE ST 2110-30対応機器がマルチキャストを作成すると、そのオーディオストリームに関するパラメータが記述されたSDPが生成されます。そのSDPを受信機器側に知らせることでセッションを確立させる準備ができます。SDPは、SMPTE ST 2110で想定されるような異なる仕組みで動作するネットワーク機器間において、通信に必要となる共通のパラメータをお互いの機器上で共有することで、そのパラメータに準じた相互接続を可能にする仕組みというわけです。

SDPは下図のようなテキスト形式のデータです。一見するとプログラミング言語記述のように見えますが、要約すると、マルチキャストIPアドレス、オーディオフォーマット、チャンネル数、PTP同期のリーダー機器情報など、通信に必要な基本情報が書かれています。この情報に基づいた音声通信が行われます。

5. SDPの伝達方法

では、マルチキャスト送信機器側で生成したSDPはどのようにして受信機器側のシステムに伝達するのでしょうか。SMPTE ST 2110規格にてSDP伝達の方法が定められていればそれを利用できれば良いのですが、SMPTE ST 2110では音声通信セッション確立のためのSDPパラメータ内容については定義しているものの、SDPを受信側のシステムに伝達する方法については規定していません。つまり、利用者自身が何らかの方法で伝達を行う必要があります。ネットワークの世界ではセッション確立のためにSDPを伝達し機器検出するディスカバリー方式として標準的に利用されているプロトコルが数種類ありますが、Danteが対応するのはSAP(Session Announcement Protocol)と呼ばれるものです。

しかし、送信側のSMPTE ST 2110-30機器側がSAPに対応していない場合、送信側のSDPをDanteシステム側に手動で伝達する必要があります。SDPの手動伝達の方法としてはSDP記述内容をコンピュータ上で扱えるテキストデータとして渡すのが一般的です。
また注意すべき点として、SDPに記述されている情報は送信機器本体の情報ではなく、ストリームに関する情報です。つまり送信側はマルチキャストを複数作成すれば、SDPもそれぞれに付随して複数生成されますので、それぞれのSDPを伝達する必要があります。よって、Dante Controllerなどのソフトウェアに検出された情報は機器本体ではなくストリームのひとつひとつであることを知っておく必要があります。

ここまで、SMPTE ST 2110-30における機器検出の方法が、マルチキャストの送信と、それに付随するSDPの伝達であることを説明してきました。次に、そのSDPを用いたDante機器とSMPTE ST 2110-30機器の相互接続方法を解説します。

送信:Dante機器の音声信号をSMPTE ST 2110-30機器に送信する

まずは、Dante機器の音声信号をSMPTE ST 2110-30機器に送信する手順を、SDPの受け渡し方法と併せて解説します。

音声信号(マルチキャスト)とSDPの流れ:
Dante機器(SMPTEモード) ⇒ SMPTE ST 2110-30機器

STEP:

  1. Dante ControllerでDante機器のマルチキャストを作成
  2. マルチキャスト作成時にストリームのタイプ「SMPTE A/B/C」を選択する
  3. DanteマルチキャストのSDPをSMPTE ST 2110システムに伝達する

1. Dante ControllerでDante機器のマルチキャストを作成

SMPTE ST 2110-30機器に音声信号を送るためには、Dante Controllerを用いてSMPTEモードのDante機器でマルチキャストを作成します。マルチキャストを作成するとネットワーク上にマルチキャストオーディオストリームが流れますが、そのストリームをどのSMPTE ST 2110-30機器が受信するのかについて、Danteシステム側ではコントロールできません。ストリームを受信する意思のあるSMPTE ST 2110-30システム側の判断でセッションが確立し音声の受信が行われます。また、受信する側のSMPTE ST 2110-30システム側のソフトウェアでDante機器のオーディオストリームを検出するためにDanteシステム側からのSDPの伝達が必要です。

2. マルチキャスト作成時にストリームのタイプ「SMPTE A/B/C」を選択する

SMPTEモードのDante機器でマルチキャストを作成する際、ストリームのタイプとしてDante/SMPTE A/SMPTE B/SMPTE Cの4種類の選択肢が表示されます。Danteを選択した場合はDante機器同士の接続で使用するマルチキャストフローが作成されます。SMPTE ST 2110-30機器に送信する場合はSMPTE A/B/C のいずれかを選択します。SMPTE A/B/Cそれぞれの違いは、以下の表で示すように、チャンネル数、パケットタイム(パケット化にかかる時間)で、用途に応じて適切なものを選択します。SMPTE AはAES67規格が制定された際に規定されたフォーマットであり、AES67に準拠しています。SMPTE BとSMPTE CはSMPTE Aをベースに、SMPTE ST 2110-30規格にて追加されたものです。また、他のSMPTE ST 2110ドキュメントではClass A/B/CやLevel A/B/Cという表記で表されています。

Class Format Ch Packet Time
SMPTE A (AES67準拠) 48kHz / 24bit 1 – 8 ch 1.000 msec
SMPTE B 48kHz / 24bit 1 – 8 ch 0.125 msec
SMPTE C 48kHz / 24bit 1 – 64 ch 0.125 msec

3. DanteマルチキャストのSDPをSMPTE ST 2110システムに伝達する

次に、受信側のSMPTE ST 2110-30システムでDanteマルチキャストオーディオストリームを検出するためにSDPを伝達します。Dante ControllerでSMPTE A/B/Cマルチキャストを作成するとそのオーディオストリームの詳細が記述されたSDPが生成されます。生成されたSDPの抽出はDante Domain Managerで行います。Dante Domain ManagerでSMPTEドメインにアクセスし、Dante SMPTE/AES67 Sessionメニュー上に表示されているSESSION NAMEを選択すると、そのストリームに関するSDP記述が表示されます。表示されたSDPはファイル形式として保存できないため、テキストをコピーし、テキストファイルなどでSMPTE ST 2110-30システム側に伝達します。その伝達の際、DanteユーザーはSMPTE ST 2110-30システム側のソフトウェアについて精通していないケースがほとんどのため、受信機器側にはSDPを受け取って処理できる専門のエンジニアが必要になるでしょう。SMPTE ST 2110-30システム側は、そのSDPを移植することで、Danteマルチキャストオーディオストリームを検出でき、パッチ操作を行うことでDante⇒SMPTE ST 2110-30のセッションが確立し、音声信号が通ります。

また、SMPTE A/B/CのDanteマルチキャストオーディオストリームはSAPを利用したSDP通知を行うため、受信機器側がSAPに対応していれば、SDPが自動的に通知され受信機器側のソフトウェアでDanteのオーディオストリームを自動検出できます。その場合は手動でのSDP伝達は不要です。

受信:SMPTE ST 2110-30機器の音声信号をDante機器が受信する

次に、SMPTE ST2110-30機器から送信されるマルチキャストオーディオストリームをDante機器が受信する手順を解説します。

音声信号(マルチキャスト)とSDPの流れ:
SMPTE ST 2110-30機器 ⇒ Dante機器(SMPTEモード)

STEP:

  1. SMPTE ST 2110-30送信機器側のSDPのDante Controllerによる自動検出確認
  2. Dante Domain ManagerによるSDP登録
  3. Dante Controllerによる受信パッチ

1. SMPTE ST 2110-30送信機器側のSDPのDante Controllerによる自動検出確認

SMPTE ST 2110-30機器の音声信号をDante機器側で受信するためには、送信機器側でマルチキャストを作成し、それに付随するSDPを受信機器側に伝達する必要があります。それにより、セッションが確立し、Dante Controllerでオーディオストリームを検出し、音声パッチ操作により音を通すことができます。
そのため、まずはSMPTE ST 2110-30機器側でマルチキャストのオーディオストリームを作成します。その後、まずはDante ControllerのSMPTEドメインのルーティング画面にてそのマルチキャストオーディオストリームが検出されるかどうかを確認してください。もし、SMPTE ST 2110送信機器がSAPに対応していれば、SDPをDanteシステム側に通知し自動検出が行われ、Dante ControllerのTransmitters欄にストリーム情報が青文字で表示されます。SMPTE ST 2110-30送信機器側がSAPに対応していない場合は自動検出できないため、SDPの手動伝達が必要になります。SMPTE ST 2110システム側の仕様にも依りますが、マルチキャストを作成すればSDPが生成されるため、Danteシステム側の技術者は生成されたSDPをテキストデータ等の何らかの方法で受け取ります。

2. Dante Domain ManagerによるSDP登録

SMPTE ST 2110-30送信機器側のSDPがDante Controllerによって自動検出できなかった場合、SMPTE ST 2110システム側から入手したSDPを、Danteシステム側に移植します。この工程はDante Domain Managerを用います。SMPTEドメインの設定にあるExternal SMPTE/AES67 SessionsメニューにてADD SESSIONを選択すると、SDPを記述できるテキストエリアが表示されるため、入手したSDPをテキスト形式でコピー&ペーストします。

3. Dante Controllerによる受信パッチ

これにより、Dante Controllerルーティング画面のTransmitters欄でSMPTE ST 2110-30マルチキャストオーディオストリームを検出することができます。SMPTE ST 2110-30ストリームは青文字で表示され、ネイティブDante機器と区別されます。このオーディオストリームもSMPTE ST 2110-30機器側で選択されたSMPTE A/B/Cいずれかのタイプが適用されており、「+」マークで展開すればひとつのストリームに複数の音声信号を確認できます。あとは、これまで通りDante Controller上で、Receivers欄側のDante機器に受信パッチするだけで音声信号が通ります。

以上が、Dante機器とSMPTE ST 2110-30機器の相互接続を行うための一連の流れとなります。SMPTE ST 2110-30における音のやりとりを行うまでに、いくつかの複雑な手順が必要であることをご理解いただけたでしょう。ここまでの説明では、SMPTE ST 2110の基本的な導入部に触れたのみであり、本ガイドでは書ききれていない高度な要素が多数残されています。しかし、多くのDante機器ユーザーやプロオーディオ技術者にとって、IP標準規格を通じた新たな見識が得られ、それにより身近にあるDanteの素晴らしさに再度気づき、また別の角度からDanteという技術を見るきっかけになるでしょう。