今月の音遊人
今月の音遊人:大西順子さん「ライブでは、練習で考えたことも悩んだことも全部捨てて自分を解放しています」
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漢字にすると、「猫力」と書くアメリカの女性シンガーがいる。少し前に観た来日公演では猫のように自由奔放、途中でおトイレに行ったり(!)、ステージを猫背気味に歩いて歌っていたっけ。猫と音楽。とても相性のいい組み合わせだ。そもそも、猫が座る背中の形はト音記号に似ている。実は猫そのものが音楽かもしれない。
自分の愛猫ポチを肩に抱いた写真をジャケットにしたのは、山田稔明。『緑の時代』のどの曲にもポチの気配が漂う。猫がいる風景、時間の中の、フッと顔がほころび、ホッと心が和み、いいなぁと思うひとこまを、絶妙に切り取って歌う。アルバムのラスト曲〈猫のいる暮らし〉では、「今度生まれ変わったとしても、こんな寄り道だらけの日々を僕は歩きたい、ねぇ、猫を呼ぶ、ちょっと目を開ける」と歌うが、そこに山田のほっこり猫まみれな日常が裏で覚悟みたいなものとせめぎ合っている、と感じてハッとした。1973年生まれ。大学時代からバンドを組み、ずっと歌ってきた。本意でも不本意でもたくさん寄り道をするのをよしとする強い決意があるから、平らかな視線で日常を捉えて歌える。シンガーソングライター、山田稔明の本質を垣間見た。
それにしてもポチはかわいい。同時発売されたポチの写真集『ひなたのねこ』を見ながら聴き、ポチや、ポチと、内田百閒の『ノラや』のようにつぶやいて、写真を撫でる。悲しいことに、CD発売直後にポチは亡くなってしまった。ポチや、ポチ、おまえは今、どこにいるの?
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猫好きではエド・シーランも負けていない。業界でいうところの「アー写」、宣伝用の自分の写真にも愛猫を登場させ、日ごろから猫好きを公言する。赤毛で小太りのイギリス青年。人がよさそうで、猫と昼寝が似合う。でも本当はすごく勤勉で、二枚目のアルバム『x』を作るために三年で百二十曲も書いた。この人の歌もお父さんやガールフレンドらとの日常が主題で、その後ろにはいつも猫がいると想像してニヤニヤする。親しみやすいメロディーを歌い、ラップもする。軽やかでしなやか。万人に愛される歌だ。
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自ら猫になったのは、あのノラ・ジョーンズ。自ら猫に? そう。プスンブーツ(カントリーを鳴らす長靴を履いた猫)という名前の、女性三人組を結成した。デビュー作『ノー・フールズ、ノー・ファン』では、たおやかにコーラスを響かせつつ、ニール・ヤングやウィルコの曲をカバーし、三人並んでギターをかき鳴らす。かわいいだけじゃない、猫女たちはツメも立てるのだ。