Web音遊人(みゅーじん)

荘銀タクト鶴岡

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

山形県の西北部に広がる庄内地方は、自然に恵まれた地として古くから豊かな食文化を育み、人々が生活をしてきたエリアである。その中で鶴岡市は、西に日本海、東に山岳信仰の場として有名な出羽三山(月山、羽黒山、湯殿山)を有し、観光地としても食の発信地としても広く注目されてきた。江戸時代初期から明治時代を経て現在に至るまで、多くの偉人を輩出した街としても知られている。

城下町としての歴史をもつ鶴岡は、その中心だった鶴ヶ岡城の周辺が街として繁栄。人々の生活・文化を育んできた名所・旧跡や和洋折衷の美しい建築物が数多く残っている。そうした中にあって、未来的なフォルムに目を奪われてしまうのが、2018年に完成した荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)だ。

荘銀タクト鶴岡

(写真左)中心部を頂点に、なだらかな山や波の動きを思わせる外観。(写真右)ガラス張りのエントランスホールは、明るく開放的。

TACT(=Tsuruoka、Art、Culture、Terrace。つまり鶴岡における芸術文化が集う場)というキーワードを名称とし、命名権を獲得した荘内銀行の愛称(荘銀)を冠しているこのホールは、1971年に落成した旧文化会館を改築。21世紀型の文化創造・発信地としてリニューアルオープンし、多くの人々に至福のひとときを提供する場となっている。2018年3月のグランドオープン時には、約20年ぶりにNHK交響楽団が鶴岡へ来演。さらに『NHKのど自慢』の公開収録、宝塚歌劇団、劇団四季、シンガーソングライター・松山千春のコンサート、松竹大歌舞伎など実に多彩な公演が続いた。

「庄内地方は酒田も含め、吹奏楽、合唱、アマチュアオーケストラなど音楽活動が盛んな地域ですので、音楽に対する理解や探究心も深く、ホールの改築が決まってからも多くのご意見が寄せられました。音がいいホールにしてほしいというご要望はもちろん多く、加えて舞台と客席との一体感がある空間にしてほしいというご意見や、主催公演を増やしてほしいという声もありました。ホール完成後の内覧会や公演にいらしていただいたお客様からは、自分もこのホールで演奏したいという声も寄せられています」(事務局スタッフ)

そうした公演が行われた大ホールは、客席数(固定席)が1,120。形状は立体的なワインヤード型であり、床には白木をふんだんに使用しているため明るい雰囲気である。ステージと客席の距離感も近く、音響面においても自然で明快な音が客席へ届き、大所帯のオーケストラ公演からピアノリサイタルまで瑞々しい音楽を味わえるだろう。ステージは天井が高いため、演出効果も重要なオペラやバレエを含む各種の舞台公演にも対応。客席から見えない部分にセットなどを組み上げるスペースもあり、多彩な公演を開催できるホールとして生まれ変わった。

荘銀タクト鶴岡

(写真左)立体感のあるワインヤード型の客席は音響も明快で、聴く喜びを教えてくれる。(写真右)ツルのデザインが施された客席のシート。

もちろん、生音の素晴らしさを味わえるクラシック音楽のコンサートにも期待がかかる。2019年3月までのオープニングシーズンにおいては、人気若手奏者の三浦文彰と辻井伸行によるデュオや、吹奏楽ファン垂涎の海上自衛隊東京音楽隊コンサート、そして恒例となっている山形交響楽団の鶴岡公演(2019年3月の公演では、鶴岡の高校生やアマチュア合唱団が共演する)などが行われるのだ。

「地元の音楽団体や学校の吹奏楽部、合唱部などアマチュアの皆さんにも積極的に使っていただき、このホールで演奏したり歌ったりする喜びを味わっていただきたいです。小ホールや建物内の開放的なエントランスを使って、新しいことができないかと模索もしています」(事務局スタッフ)

可動席で約200名を収容できる小ホールは、固定客席のないフラットな空間。コンサートや発表会はもちろん、演劇やダンスなど多彩な公演にも気軽に使える。また、ガラス張りで周囲の街や隣接する致道館(旧庄内藩の藩校)の庭園を借景する広いエントランスも、アイデア次第でさまざまな可能性を秘めた空間だといえるだろう。気軽に出入りができる憩いの場としても親しまれており、取材で訪問したときには周囲の景色をスケッチしている人もいた。

ホールの外観は、中心部を頂点として四方へとなだらかな傾斜が広がっている山を思わせ、芸術を発信していく場としての雰囲気をかもし出している。周辺には鶴岡アート・フォーラムや慶應義塾大学の先端生命科学研究所など、モダンな建築物もあり、荘銀タクト鶴岡も地域の新しい文化形成においてシンボル的な場になっていくだろう。

■荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

所在地:山形県鶴岡市馬場町11-61
TEL:0235-24-5188
ホール形式:ワインヤード型
席数:固定席1,120席、多目的鑑賞室15席
詳細はこちら

 

特集

櫻井哲夫

今月の音遊人

今月の音遊人:櫻井哲夫さん「聴いてくれる人が楽しんでくれると、自分たちの楽しさも倍増しますね」

4571views

3大テノールを受け継ぐ情熱的な歌声を聴かせたサルヴァトーレ・リチートラを偲ぶ Vol.3

音楽ライターの眼

3大テノールを受け継ぐ情熱的な歌声を聴かせたサルヴァトーレ・リチートラを偲ぶ Vol.3

3033views

ピアニカ

楽器探訪 Anothertake

ピアニカで音楽好きの子どもを育てる

14396views

楽器のあれこれQ&A

ウクレレを始めてみたい!初心者が知りたいあれこれ5つ

5160views

ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

13622views

調律師 曽我紀之

オトノ仕事人

演奏者が望むことを的確に捉え、ピアノを最高のコンディションに整える/コンサートチューナーの仕事

4163views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

19613views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5611views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22908views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

5752views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

5378views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30891views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

10489views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

24633views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase7)ブーレーズとベリーのパラレルワールド、現代音楽はイノベーションのジレンマか

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase7)ブーレーズとベリーのパラレルワールド、現代音楽はイノベーションのジレンマか

1762views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

歌うときは、体全部が楽器となるように/ボイストレーナーの仕事(前編)

25602views

われら音遊人:クラノワ・カルーク・ オーケストラ

われら音遊人

われら音遊人:同一楽器でハーモニーを奏でる クラリネット合奏団

8403views

トランスアコースティックピアノ™

楽器探訪 Anothertake

音量の問題を解決し、ピアノの楽しみを広げる「トランスアコースティックピアノ」

4329views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

8592views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

5018views

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぼう電子ピアノ「クラビノーバ」3シリーズ

3211views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7703views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26118views