STEP1 Dante機器、スイッチ、ケーブル、PCの準備

まず、Danteシステム構築に必要な各種ハードウェアを準備してください。本ガイドではヤマハ「CL/QLシリーズ」等のミキサーを用いたライブミキシングシステムを想定していますが、ミキサーを用いないシステムでも基本的なセッティング方法は共通です。

3-1-1 オーディオネットワークとは?

Danteに対応したミキサーとI/Oラック等を用意してください。マイクを使う環境ではHA(ヘッドアンプ)を搭載した Dante対応I/Oラックが必要です。そのHAをミキサーからリモートできる必要があるため、同じメーカーの機種を組み合わせることが基本となります。ヤマハ製品では、「CL/QLシリーズ+Rシリーズ」と「TFシリーズ+Tio1608-D」がスタンダードな組み合わせです。最新のRIVAGE PMシリーズとRシリーズを組み合わせることもできます。

Dante対応デジタルミキシングコンソール
CLシリーズ(CL5)
Dante対応I/Oラック
Rシリーズ(Rio3224-D2)

3-1-2 ネットワークスイッチ(スイッチングハブ)の準備

1Gbps以上の速度のポートを持つギガビットイーサネットに対応したスイッチを用意してください。近年はギガビットスイッチもコスト面で入手しやすくなっています。業務音響の用途であれば耐久性も高い機種が望ましいでしょう。とはいえ、サーバー等で用いられる100Gbps以上の速度を持つような非常に高価なスイッチを用意する必要はありません。また、Danteは100Mbpsのスイッチでも動作しますが、帯域幅が狭いため扱えるチャンネル数が少なくなること、安定性の面でもパフォーマンスを発揮できないことなどの理由で非推奨です。

省電力イーサネット「EEE」機能を無効にできることも必須条件です。

デイジーチェーン接続前提であればスイッチは不要ですが、スター型接続・リダンダント接続・低レイテンシーシステムを構築したい場合はスイッチが必要です。PoE(Power over Ethernet)による給電が必要なDante機器を接続する場合は、PoE対応ネットワークスイッチを用意してください。

ネットワークスイッチ選択のポイントは後述の「ネットワークスイッチ 基礎編」で詳しく解説していますので参考にしてください。

ギガビットネットワークスイッチ

3-1-3 LANケーブルの準備

Dante機器とネットワークスイッチ間を接続するためのLANケーブルを用意してください。CAT5e以上の速度を持つSTPケーブル(シールド付きツイストペアケーブル)を推奨します。LANケーブルの選択はDante機器やネットワークスイッチに比べて軽視されることが多いですが、その品質はDanteシステムの性能に大きく影響するためとても重要です。

LANケーブル配線距離

1本のLANケーブルで配線できる最長距離はイーサネット規格で100mと規定されていますが、ケーブルの品質やコネクター部の圧着状況によっては100mの距離を達成できない場合があります。また、LAN端子のパッチ盤を経由している場合はその総延長距離の把握が重要です。パッチ盤の向こう側に敷設されているケーブル長と、パッチ盤から新たに配線したケーブル長の総延長距離が100mを超えないようにしなければなりません。また、パッチ盤のLANレセプタクルによる接点が増えることで、LANケーブル上の物理特性に影響が出るため、100mよりもさらに短い安全な距離(例:80m)を見積もって、追加のケーブル長を選択することが重要です。ケーブルの総延長距離がわからない場合や、厳密な距離や速度の検証を行うには、専用のケーブルテスターで測定を行うことが望ましいでしょう。

LANケーブルの配線距離を伸ばすには、ネットワークスイッチを経由することで距離をいったんリセットできます。また、光メディアコンバーターを経由して光ファイバーケーブルで配線することが有効な対策です。

コネクター(RJ45、Neutrik社製etherCON)

一般的なLANケーブルのコネクターはPC等でもおなじみの「RJ45」ですが、プロオーディオ市場では「Neutrik社製etherCON」も多く使用されています。用途に応じてRJ45とetherCONを使い分けてください。

etherCONコネクターは頑丈なハウジングとロック機構により、RJ45で問題になりがちな爪折れによるロックが利かなくなるトラブルを防ぐことができます。ケーブル抜き挿しの多い仮設SRやパッチ盤などの用途では耐久性の高いetherCONが最適でしょう。Dante機器およびネットワークスイッチのLAN端子がetherCONであれば、LANケーブルも同じetherCONを使うことができます。なお、etherCONのLANケーブルをRJ45端子に直接挿し込むことはできません。

RJ45コネクターは耐久性の面ではetherCONに劣りますが、ネットワークスイッチ上を占めるポート面積が小さいため、1台のネットワークスイッチが多くのLANポートを搭載している特徴があります。例えば、1U幅のネットワークスイッチに40個以上のポートを搭載しているモデルもあります。そのため、ポート単価が安く、ラッキングスペースもコンパクトに済むという利点があります。ラック内配線ならばケーブル抜き挿しが発生せず、耐久性の懸念が少ないためRJ45でも十分でしょう。ネットワークスイッチをリセス設置すればRJ45コネクター部をラック内に収めることができるためさらに安心です。また、RJ45のLANケーブルはetherCONコネクターに対しても使用できます。

STPケーブルの推奨

EMC(electromagnetic compatibility:電磁両立性)の観点から、電磁干渉防止のために、STP(Shielded Twisted Pair)ケーブルの使用を推奨します。LANケーブルはDante機器やネットワークスイッチなどの電子機器同様に電磁波の発生源となります。しかし、電子機器本体が各メーカーの厳しい製造基準に基づき電磁波の影響を少なくしている一方で、日本ではLANケーブルの電磁干渉に関する厳密な基準や法令上の規制が強く無いため、シールドされていないUTPケーブルが使用されることも少なくありません。LANケーブルから発生する不要輻射により、他の電子機器等に影響を与える可能性および、外部からの影響を受ける可能性があるため、シールドされたLANケーブルを使うことでそのリスクを極力抑えることが重要です。

STPケーブルに後からRJ45プラグを圧着して取り付ける際もSTP用にシールドされたRJ45プラグをお使いください。

ケーブル被覆とシールド構造

LANケーブル内部のシールド構造にはいくつかの異なる方式があります。家電量販店で入手できるシールド付きLANケーブルの多くはFTP(Foiled Twisted Pair)と呼ばれるアルミホイルを被膜とした方式です。

この方式のケーブルの多くはケーブル自体が固く曲げにくいため、固定設備配線に向いています。仮設SRやホール劇場のパッチケーブルのように引き回すことが多い用途には、柔軟性が高く巻きやすい編組シールド方式のSTP(その他にSFTPなどがある)が向いているでしょう。

TIPS

全二重通信

LANケーブルには4対(計8本)の撚り対線が通っており、内部で送信用や受信用などの役割が分かれているため、1本のLANケーブル接続だけで双方向のやりとりが可能となっています。接続した先のDante機器やネットワークスイッチのLAN端子側も同様に送信と受信を同時に行うため、このような送信・受信を同時に行える通信を「全二重通信」と呼びます。これにより、送信用・受信用それぞれのケーブルを配線することが不要となります。

3-1-4 光ファイバーケーブルの準備

ケーブルのみで100m以上の長距離配線が必要な場合は光ファイバーケーブルによる接続が必要です。Dante端子は全てLANコネクターなので、直接光ファイバーケーブルを挿し込むことはできません。光ファイバー接続に対応したネットワークスイッチもしくは光メディアコンバーターを経由して光変換することで、光ファイバーケーブルによる接続が可能になります。また、光接続の端子はLAN端子とは異なり、送信用(Tx)と受信用(Rx)に分かれているため、光ファイバーケーブル接続時は送信用端子と受信用端子とを適切に接続する必要があります。

ネットワークスイッチによる光変換

一般的なネットワークスイッチで光変換を行うには、SFPスロットに光ファイバー対応のSFPモジュール(右図)を装着することで可能になります。SFPモジュールにおける光端子はLCコネクターです。ネットワークスイッチ間を光ファイバー接続する場合は、双方のネットワークスイッチに同じ規格(例:1000BASE-LX)のSFPモジュールを装着します。規格が異なると通信が行われません。

また、プロオーディオ市場に流通しているネットワークスイッチには、内蔵されたSFPモジュールでLAN⇔光変換を行い、パネル上にNeutrik社製opticalCONなどの業務用光コネクターで接続可能になっている製品(例:ヤマハSWPシリーズ)などがあります。

メディアコンバーターによる光変換

市販の光メディアコンバーターを使用すれば、単一のLAN接続を光ファイバー接続に変換できます。メディアコンバーターにはネットワークスイッチ+SFPモジュールのような集線機能はありませんが、ひとつのLANケーブル配線経路を単純に光変換したい場合に便利な方法です。光メディアコンバーターを使う際も、双方に同じ光通信規格の機種が用意されている必要があります。端子はSCコネクターが一般的です。

例) D-Link社製メディアコンバーター
DMC-700SC

マルチモードとシングルモード

光ファイバー通信にはマルチモード(Multi Mode Fiber:MMF)とシングルモード(Single Mode Fiber:SMF)の2種類があり厳格に区別する必要があります。SFPモジュールやメディアコンバーターおよび、光ファイバーケーブルもマルチモード用とシングルモード用があり、これらを混在して接続することはできません。必ずどちらかに統一してください。

マルチモードファイバーシステムはシングルモードファイバーシステムよりも比較的安価にシステム構築できます。また、マルチモードファイバーケーブルは比較的大きなコア径に複数の光のモードを通過させるためケーブル曲げに対しても耐性があり、取り扱いやすいという特徴があります。ケーブル長は最大で2km程度と言われていますが、詳細な距離はお使いのマルチモード変換機器の仕様を確認してください。

シングルモード光ファイバーは、光を伝送するコア径がマルチモード比べて非常に小さく、またコア内に単一波長の光を通すため、ケーブル曲げに対する耐性は低く、また接続面での減衰が大きく、取り扱いは比較的難しくなります。シングルモードは長距離伝送に向いており、最長で40kmもの長距離伝送を行うことが可能です。

コア径

マルチモードには2種類のコア径(62.5μm、50μm)、シングルモードには1種類のコア径があり、マルチモード使用時は、この2つの径が混在しないように注意が必要です。コア径はケーブル側と機器側とで正確に合わせる必要があります。

ヤマハSWPシリーズに搭載しているopticalCON端子で使用できるマルチモードファイバーケーブルのコア径は「50μm」です。

コネクター

光ファイバーケーブルのコネクターは様々なタイプがありますので、混在しないように注意が必要です。ネットワークスイッチのSFPモジュールからLCコネクターで光ファイバーケーブル配線する場合、LCコネクター部は強度が高くないためラックから全面に飛び出さないようスイッチ本体をリセス設置したり、コネクター部をガードするなどの工夫が必要です。

仮設SRや抜き挿しが多い場面では、光コネクター部が頑丈にハウジングされた業務用コネクターの使用を推奨します。代表的な製品に、Neutrik社製opticalCONがあり、ヤマハSWPシリーズでも採用しています。この他にも様々な業務用コネクターが流通しており、そのどれもが堅牢な構造になっています。

ケーブル被覆

ケーブル本体の被覆も重要です。市販のマルチモード・シングルモードファイバーケーブルは非常に細く、頑丈な被覆に覆われていないため、固定設備等のラック内配線などでのみ使用できます。仮設SRや設備の移動備品などで長い距離を引き回すには、頑丈な被覆に覆われた光ケーブルと業務用光コネクターがアッセンブリーされている製品がおすすめです。

例) Neutrik opticalCONケーブル

3-1-5 PC(Windows/Mac)の準備

DanteシステムでDante Controller等のソフトウェアを使用するにはWindowsまたはMacのコンピュータを用意し、Danteネットワークに接続します。最新のDante ControllerはWiFiによる接続も可能ですが、より安定した通信のためには、有線LAN接続が望ましいでしょう。近年の薄型ノートPCのようにLAN端子を持たないPCの場合は、市販の外付けLANアダプターを装着して有線LAN接続できます。Dante ControllerがPCに求めるスペックはそれほど高くないため、市販のほとんどのPCで動作します。

Dante Virtual Soundcardでマルチトラック録音・再生を行う場合は、PCのLANインターフェースが1G以上の速度であることが重要です。また、録音・再生に使うDAWソフトウェア(Steinberg社製Nuendoなど)上で、マルチトラック音源の録音・再生を十分に動作させることができる余裕のあるスペックが必要です。

Dante Virtual Soundcardによる録音・再生環境構築については、「Dante Virtual Soundcard」を参照ください。

外付けUSB-LANアダプター