今月の音遊人
今月の音遊人:曽根麻央さん 「音楽は、目に見えないからこそ、立体的なのだと思います」
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磨き続けた技術と感性、そして挑戦が詰まったクラシックアルバム『classique』/宮本笑里インタビュー
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2018.12.26
2007年のデビュー時から、ジャンルの垣根を越えてバイオリンの素晴らしさを伝えてきた宮本笑里。2017年のデビュー10周年を経て、新たな一歩となる2018年に取り組んだのは、自身の原点であるクラシック曲のみで構成されたアルバム『classique』を作り上げることだった。
「私はデビュー当時から、クラシックとポップスどちらも挑戦してきました。でも2018年に11年目に入るということで、やはり自分の原点に立ち返ることも大事だなと思ったんです」
初期のアルバムでも取り上げていたエルガー『愛のあいさつ』やラフマニノフ『ヴォカリーズ』、コンサートの定番となっているサラサーテ『ツィゴイネルワイゼン』など、これまで慣れ親しんできた曲たちは、新たな視点を持って演奏に取り組んだそうだ。
「どの曲もまずテンポ感が違いますね。特に『愛のあいさつ』は、以前はサラサラ〜と綺麗に歌うことに重点を置いて演奏していたのですが、今回はテンポ感も少し遅めですし、エルガーが妻のために書いたということをより意識しながら弾いています。クライスラーの『美しきロスマリン』などは、楽譜をみただけだとすごくシンプルで、どなたでも弾きやすい曲の一つだと思いますが、メロディーが簡単であればあるほど、表現することが難しいんですよね。自分らしく歌いたいけれど、それが間違った方向に行ってはよくないと思いますし、ただ単に楽譜に書かれたとおりに弾いただけでは、人を感動させることはできません。ですから今回レコーディングではすごく勉強させてもらいましたし、今の自分としては納得のいく演奏を収録できたと思います」
本作では、バルトーク『ルーマニア民族舞曲 Sz.56』に初挑戦。ここでも彼女の原点に対する想いを垣間見ることができる。
「私は、バイオリニスト・五嶋みどりさんの『アンコール!ヴァイオリン愛奏曲集』というアルバムを、バイオリンを始めた頃からずっと聴いていました。その中に『ルーマニア民族舞曲』が収録されているんですが、タイトルどおり踊りたくなるような演奏に、小さい頃から引き込まれていたんです。なので、念願叶って弾けた時は、もう歓びでいっぱい!すごく心地よく演奏できました」
また、気鋭のピアニスト佐藤卓史とともに挑んだホールレコーディングも、アルバム制作に大きな刺激を与えたそうだ。
「スタジオでのレコーディングと違い、ホールのナチュラルな響きや残響もそのまま味わいながら演奏できましたし、目を閉じて弾いていると、まるでコンサートで演奏しているような感覚も味わえました。3日間という限られた時間でのレコーディングだったので、コンサートの本番と同じような、いい意味での緊張感も感じながら取り組めて、新たな感覚で録音できたと思います」
充実した作品を作るためには、練習は欠かせない。忙しい日々の中から練習時間を捻出することにも注力した。
「いま子育てをしながら活動しているので、一人の時間が以前に比べると少なく、どうやって集中して練習するかという点にも苦労しました。それでも支えてくださる方や私の演奏を楽しみに待ってくださる方がいるので、頑張る事が出来ています」
全編クラシックでまとめたアルバム『classique』は、原点を懐かしんだノスタルジー作品ではなく、新たな視点でクラシックの魅力を引き出すという、宮本笑里の“全力の挑戦”が詰まった作品だった。それを成し得たのも、10年間磨き続けた技術と感性、そして師匠とも呼ぶべきバイオリンの名器との出会いがあったからだ。
「デビュー・リサイタルの時は、ただもう“失敗しちゃいけない!”という状態でした(笑)。その後数年でたくさんコンサートを重ねましたが、まだ宮本笑里の音というのが見えていなかったんです。いろいろな試行錯誤を重ねる中、約300年前に生まれたバイオリンと出会ったんです。それまで100挺近く試させていただいたのですが、そのバイオリンと出会った瞬間に“あっ、これだ!”とビビッときて。こういうふうに弾けばより深い音も出せるんだということを、楽器から勉強させてもらえました。それがなかったら、自分の奏でたい音楽は表現しきれなかったかもしれないですね」
2018年12月には『宮本笑里リサイタルツアー2018~2019』がスタート。宮本笑里の挑戦は、今もなお続いているのだ。
「今回のツアーではブラームスの『バイオリンソナタ第3番』に挑戦しています。ブラームスのソナタは本当に人生観そのものが感じられて、だからこそもっと年齢を経てからのほうが、音色が深くて心に響く演奏ができるんじゃないかと思っていたんです。でも『classique』という念願のアルバムを出し、いろんなことに挑戦しているこのタイミングで取り上げるべきなのかなと思いました。今の私が捉えているブラームスと自分の人生観を照らし合わせて、精一杯伝えたいという強い想いで挑んでいますので、それをみなさんに“こういう聴こえ方もあるんだな”と少しでも感じていただけたら嬉しいですね」
『classique』
発売元:ソニーミュージック
発売日:2018年7月25日
価格:3,500円(税抜)
宮本笑里リサイタルツアー2018〜2019
出演:宮本笑里(バイオリン)、佐藤卓史(ピアノ)
日時:2019年1月19日(土)14:00開演
会場:浜離宮朝日ホール(東京都中央区築地5-3-2 朝日新聞東京本社・新館2F)
日時:2019年1月20日(日)14:00開演
会場:ザ・フェニックスホール(大阪府北区西天満4-15-10)
文/ 飯島健一
photo/ 宮地たか子
tagged: バイオリン, インタビュー, 宮本笑里, classique
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