Web音遊人(みゅーじん)

松井秀太郎

ジャズの新しい時代を切り開くトランペット奏者、松井秀太郎がメジャーデビュー

国立音楽大学ジャズ専修で学び、在学中より演奏活動を開始したトランペット奏者の松井秀太郎。自身のジャズコンサートやBLUE NOTE TOKYO ALL STAR JAZZ ORCHESTRAへの参加、HYDEのコンサートサポートなど、その活動は幅広く、非常に濃い内容であった。大学を首席で卒業後、さらにその勢いは増しており、2023年7月、アルバム『STEPS OF THE BLUE』でメジャーデビューを果たす。

クラシックからジャズへ

松井は国立音楽大学附属高等学校在籍時からトランペットを専攻していたが、もともとはクラシックを学んでいた。進路を決める中で突如ジャズへの転向を決意したという。
「もっとさまざまなジャンルの音楽に触れていきたいという想いが強くなりました。そのときに大学にはジャズ専修があり、しかも世界的な奏者の方々に教えていただけるということを知り、どうしても行きたいと思ったのです」
クラシックからいきなりの方向転換ということで、環境は大きく変わる。そこに対する恐れや不安はなかったのだろうか。
「クラシック漬けの日々だったので、ジャズを深く勉強したことはありませんでしたが、とにかくジャズ専修の先生方に習いたい!という想いが強かったので。特にトランペットを師事した奥村晶先生はもともとクラシックを学ばれて、ビッグバンドにミュージカル、ポップスと幅広いジャンルで活躍されていたので、どうしてもレッスンを受けたかったのです」

松井秀太郎

学生時代から幅広い活動を展開

大学入学後は新しく学ぶことの連続だったそうだが、松井は学生時代の早い段階からプロとしての活動を開始している。
「1、2年次は国立音楽大学のNewtide Jazz Orchestraなどビッグバンドで演奏することがメインでした。少しずつスタジオレコーディングの仕事などもしていましたが、コロナ禍で非常事態宣言の影響もあり実際にプロとして学外に出ていくようになったのは3年次の終わりからですね。ライブハウスでセッションしたミュージシャンの方といろいろな形で共演したり、BLUE NOTE TOKYO ALL STAR JAZZ ORCHESTRAに参加したりするようになりました。4年次にはHYDEさんのコンサートツアーのサポートを行うなど、活動がさらに広がっていきました」
ジャズの活動が中心ではありつつも、多様な音楽に関わっている松井。これからもジャンルの垣根を越えた展開を強く希望している。
「特定のジャンルに絞るのではなく、ジャズを核にしながら、幅広く音楽に携わっていきたいですが、やはり中心にあるのはジャズですね。自分の表現したい世界を音にして、ステージでお客様に届けることができると、とても幸せな気持ちになります」
そんな松井が影響を受けたアーティストは、ウィントン・マルサリスだという。松井の多彩な音色を聴いていると確かに納得できる。
「最初はマルサリスの演奏するクラシック音楽に魅了されたのですが、その後、他ジャンルの演奏を聴いてさらに惹き込まれていきました。テクニックや奏でる音に、ものすごく説得力があるのです」

恩師 小曽根真のひと言で決まったデビューアルバム

メジャーデビューアルバムとなる『STEPS OF THE BLUE』がついにリリースされるが、これはどのような背景で制作されたものだったのだろう。
「2022年5月、大学卒業後はじめて全曲オリジナル曲によるライブを開催しました。そこに小曽根真さんがいらしていて、終演後、“このプログラムをそのままレコーディングしよう”というお話をくださったのです。すぐにレコーディングの日取りも決まり、8月には収録を行いました」
ライブ・プログラムに加えて、2022年11月にシングルとしてリリースした、チャイコフスキーのバレエ『白鳥の湖』の『ナポリの踊り』を編曲した『Neapolitan Dance』も収録されており、クラシックを学んでいた松井ならではの魅力が輝いている。
「もともとチャイコフスキーが大好きで、特にこの曲は自分を表現するのにいいかなと考えて選んだ曲でした。2022年7月、PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)に出演する機会をいただいたときにできたものです。小曽根さんと共演する際の曲として編曲したものなので、ピアノを小曽根さんが弾いてくださっています」
アルバムの最初を飾る『Hypnosis』、最後の『Trust me』は大学の卒業試験のために作った曲であり、思い入れも強いという。
「卒業試験の課題は“15分間何をしてもいい”というものだったので、自分のバンドでオリジナル作品を2曲演奏しました。先にできたのは『Trust me』で、タイトルどおり“自分自身を信じる”という気持ちを込めています。『Hypnosis』は、『Trust me』とは対照的な楽曲を作りたいというところから生まれたものです。どちらも大切な曲なので、アルバムの最初と最後の曲にしました。」

松井秀太郎

今回のアルバムでは共演者の面々も大変に豪華だ。
「小曽根さんは大学でもたくさんのことを教えていただいた恩師で、ジャズを演奏する上での心構えや音楽の根幹となるものを学びました。中林俊也さん(サクソフォン)は大学の先輩で、学生時代からご一緒する機会も多く、とても信頼している方です。小川晋平さん(ベース)は小曽根さんのプロジェクト『From OZONE Till Dawn』で出会った方で、ぜひ一緒にやりたいと話していて、2022年のライブでそれが実現しました。兼松衆さん(ピアノ)と小田桐和寛さん(ドラムス)も大学の先輩で、以前から演奏を聴く機会があり、やはりいつかご一緒したいと思っていました。おふたりとも音楽への造詣が深く、多彩な音楽性をお持ちなので、自分のやりたい音楽にすごく寄り添って、その世界を広げてくださいます。中川英二郎さん(トロンボーン)は金管楽器奏者としてずっと尊敬していた方で、まさか自分の曲を吹いていただける日が来るとは……と感激しています」

今後も松井はブルーノート東京でのレコード発売記念コンサートをはじめ、精力的な演奏活動を予定している。
「ブルーノート東京に自分のバンドで出演するというのは昔からの夢だったので、それが実現して本当に嬉しいです。アルバム曲はもちろん演奏しますが、ほかにもいろいろと考えていますし、2部制のステージもそれぞれ違った内容になると思うので、ぜひ両方にお越しいただきたいですね。その後もサントリーホール ブルーローズなど、普段なかなかできないコンサートホールでのライブの予定もありますし、ソプラノ歌手の田中彩子さんとジャズのスタンダードナンバーをご一緒する機会もあります。これからも新しいことに挑戦していきたいと思っています」

■Debut Album『STEPS OF THE BLUE』

STEPS OF THE BLUE
発売元:avex-CLASSICS
発売日:[CD]2023年7月26日(水)/[LP]8月30日(水)
価格:[CD]3,300円/[LP]6,600円(いずれも税込)
詳細はこちら

■CD発売記念LIVE『STEPS OF THE BLUE』

日時:2023年9月22日(金)
18:00開演(17:00開場)/20:30開演(19:45開場)
会場:ブルーノート東京(東京・南青山)
詳細はこちら

■サントリーホール ARKクラシックス『ARK JAZZ スタンダード・ジャズの魅力』

日時:2023年9月30日(土)15:30開演(15:00開場)
会場:サントリーホール ブルーローズ(小ホール)(東京・赤坂)
詳細はこちら

■松井秀太郎カルテット Concert Hall Live

2024年
1月14日(日):三井住友海上しらかわホール(名古屋市)
1月20日(土):サントリーホール ブルーローズ(東京・赤坂)
1月27日(土):あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール(大阪市)
1月28日(日):FFG ホール(福岡市)
2月2日(金):横浜みなとみらいホール 小ホール(横浜市)
2月10日(土):石川県立音楽堂 交流ホール(金沢市)
3月31日(日):札幌コンサートホール Kitara 小ホール(札幌市)
詳細はこちら

■テレビ出演

『シン・バロックの音楽会』
テレビ朝日:2023 年7月29日(土)/BS朝日:2023年7月30日(日)

photo/ 宮地たか子

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人 小沼ようすけ

今月の音遊人

今月の音遊人:小沼ようすけさん「本気で挑まなければ音楽の快感と至福は得られない」

24089views

音楽ライターの眼

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが2020年、復活/トム・モレロのギターの原点を探る

8123views

長く使い続けてもらえる電子ドラムを目指して──電子ドラム「DTX6K5-MUPS」

楽器探訪 Anothertake

長く使い続けてもらえる電子ドラムを目指して──電子ドラム「DTX6K5-MUPS」

1301views

ヴェノーヴァ

楽器のあれこれQ&A

気軽に始められる新しい管楽器 Venova™(ヴェノーヴァ)の魅力

4542views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

9058views

重田克美

オトノ仕事人

スポーツやイベントの会場で、選手やお客様のためにいい音環境を作る/音響エンジニアの仕事

11151views

メニコン シアターAoi

ホール自慢を聞きましょう

五感で“みる”ことの素晴らしさを多くの方と共感したい/メニコン シアターAoi

4680views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

6511views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

9636views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

6678views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

9411views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11844views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

10701views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

27550views

音楽ライターの眼

トークとピアノが心地よい、和やかな昼下がり/飯森範親と辿る芸術Vol.2

4009views

鬼久保美帆

オトノ仕事人

音楽番組の方向性や出演者を決定し、全体の指揮を執る総合責任者/音楽番組プロデューサーの仕事

4365views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

2860views

CP88/73 Series

楽器探訪 Anothertake

ステージで際立つ音色とシンプルな操作性で奏者をサポート!最高のライブパフォーマンスをかなえるステージピアノ「CP88」「CP73」

19425views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

14328views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

6947views

エレキベース

楽器のあれこれQ&A

エレキベースを始める前に知りたい5つの基本

10089views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

4488views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11844views