今月の音遊人
今月の音遊人:原田慶太楼さん「音楽によるコミュニケーションには、言葉では決して伝わらない『魔法』があるんです」
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そもそも、ものをつくることが好きで、職人の道に入ったという望月さん。楽器経験はなく、あえて自分とはもっとも縁遠い世界だった弦楽器を選んだ。
専門学校に進んで2年間学び、その後、弦楽器の専門店で職人として7年間働いた。現在、職人歴は12年になる。
「一般的に業界のなかでは、修業には10年はかかるといわれています。でも、いつまで経ってもこれで完璧というのはないと思うんです」
そんな望月さんが、ずっと心がけていることがある。見えないところで手を抜かない。それは、修業を始めて最初に師匠に教わったことだ。
「表板を外して中を見たときに、きれいな修理をしているなとわかるような仕事をしたいと思っています。それは楽器の内側なのでお客様には見えないし、どうでもいいことかもしれません。でも、見えないところこそ気を付けて心を配る。結局、それが全部につながってくるんじゃないかと思います」
日頃は工房での作業がメインだが、特約店のメンテナンス会やアーティストの公演サポートのために、外に出かけて仕事をすることもある。望月さんにとっては、ユーザーと直接会話ができる貴重な機会だ。
「自分の楽器が本来持っている音や使いやすさに気づいていない方がたくさんいらっしゃいます。それに気づいてもらい、よくなったと喜んでもらえるのがいちばん嬉しいですね。我々の仕事は、楽器をきちんとした状態に戻すこと。そして、その楽器がもっているポテンシャルをできるだけ高いところまで引き上げることです」
健康な状態で楽器が使われ続けてほしい。望月さんのその思いが、ひとつの弦楽器の歴史と未来をつくる。
Q.子どもの頃、なりたかった職業は?
A.親が製造業を営んでいたので、物心ついたときから目の前でプロの仕事を見ていました。だから、サラリーマンというのがピンとこなかったし、職人になりたかったですね。ですから、もし現在の仕事に就いていなかったら、たとえば料理とか違う分野の職人になっていただろうと思います。
Q.プライベートでよく聴く音楽は?
A.たまにクラシックを聴きますが、いちばん好きなのはチャイコフスキーのバイオリン協奏曲。聴いているとテンションが上がるので、気分を盛り上げたいときに聴きます。
Q.最近の仕事で印象的だったことは?
A.田中貴金属さんがヤマハ協力のもと1億円の純金製バイオリンを製作し、2015年9月30日に公開されました。製作の際に、指板やあご当てをつけたり、駒を立てたりするノウハウがないとのことで、私のところに依頼をいただいたんです。木とは性質が全く異なる純金なので、扱い方に気を使いました。重さが約14キロもあり簡単に持ち上げることも出来ず、クロスで拭いただけでも傷が付いてしまいます。とても高価なもので最初は緊張したのをよく覚えています。
Q.最近行ったコンサートは?
A.先日仕事で、来日したリンジー・スターリングのコンサートに行きました。踊りながら演奏するアメリカ人バイオリニストで、独特な表現をする方です。一般的にバイオリンの演奏は動きが少ないですが、そこにアクションやダンスなどのパフォーマンスを取り入れていてとても面白かったですね。いろいろな場面で、バイオリンが活躍してくれればいいなと思います。