今月の音遊人
今月の音遊人:葉加瀬太郎さん「音楽は自分にとって《究極のひまつぶし》。それは、この世の中でいちばん面白いことだから」
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次に紹介したいのは、リュートの先祖であり、アラブ音楽において重要な弦楽器であるウード。(写真上)
「当資料室のものはエジプトのウードで、透かし彫りや貝を使った装飾が美しく、細かい作業が得意な職人が手掛けたことがわかります。同じウードでも、地域や制作者が異なるとスタイルも異なります」
チベット仏教の儀式で使われる人間の大腿骨でつくられたラッパのカンリンや、アラスカのエスキモーが使う太鼓のソカークもほかではなかなか見られないもの。
「ソカークはセイウチの胃袋の皮でできていますが、外側の厚い皮ではなく、内側の薄い皮が太鼓に適しているようです。ただし破れやすく、エスキモーの人達は手縫いで補修しますが、細かい針目できれいに縫うため、小泉先生はその器用さに感動したようです」
また日本の楽器も数多く収蔵しており、南九州地方に伝わる「ごったん」と「てんぷく(天吹)」は、どちらも地域に根ざす伝統楽器。
「主に杉の木で出来たごったんは、三味線の代用品として使われたものですが、現在弾く人はほとんどいません。いっぽうのてんぷくは30センチほどの竹製の縦笛で、こちらも吹ける人はほとんどおらず、幻の楽器といってよいと思います」
日本において個人による大規模な楽器コレクションはほかにも見られますが、当資料室の場合、民族音楽学者が楽器分類学の観点から体系的に収集した点が大きな特徴となっています。また通常は、研究者の個人資料は公開されず、亡くなった後は散失してしまうことが多いなか、小泉氏のコレクションは東京藝術大学に移管できた稀有な例といえます。
「写真を撮って記録するだけでなく、わざわざ楽器を持ち帰ってきているところに、小泉先生の研究者、教育者としてのスピリットが表われていると思います。すべての楽器にはその土地の文化、伝統が息づいており、手触りや重さ、音、装飾など、見て、触れてみなければわからないことが一杯あります。今はネット上に情報が溢れていますが、音楽を学ぶ若い学生や後世の人達に民族音楽のすばらしさを伝えるためにも、当資料室を守っていくことがわれわれの使命と考えています」
なお小泉氏の著書を見ると、様々な民族楽器の由来や、楽器にまつわるエピソードを詳しく知ることができます。植村教授によると『音楽の根源にあるもの』(平凡社ライブラリー)に小泉氏の考えが詰まっているとのことなので、興味のある方はぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。読めばきっと、民族楽器に触れてみたくなるはずです。
所在地:東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学 音楽学部
アクセス:JR 上野・鶯谷駅、地下鉄 根津駅より徒歩約10分、地下鉄 上野駅より徒歩約15分
開室日:月 13:15~16:45、火 10:30~17:00、水 10:30~15:30、木 10:30~17:00
※火・木は昼休みも利用できます
※ご利用が可能な時間帯は年度、曜日により変わるため、オフィシャルサイトの「利用案内」で確認してください。
閉室日:金、土、日、祝日
※8~9月末日、3~4月授業開始前日、入試(登校禁止)期間 年末年始
※学外の方が当室をご利用の場合は、1週間前までにオフィシャルサイトの「お問い合わせ」、または050-5525-2381(開室時間のみ)ご予約ください。
文/ 武田京子
photo/ 東京藝術大学所蔵
tagged: 楽器博物館探訪, 小泉文夫, 小泉文夫記念資料室, 東京藝術大学
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