今月の音遊人
今月の音遊人:古澤巌さん「ジャンルを問わず、父が聴かせてくれた音楽が今僕の血肉になっています」
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日本人ピアニストとしては史上最年少の12歳でCDデビューを果たして一躍注目を集めて以来、豊かな音楽性に磨きをかける牛田智大さん。愛らしい少年から青年へと成長した牛田さんに、音楽への思いをうかがいました。
ショパンの『ピアノ協奏曲第1番』とチャイコフスキーの『ピアノ協奏曲第1番』ですね。僕の音楽観のようなものをつくっているのが、この2曲なのではないかと思っています。
小さいころ、ユンディ・リが演奏するショパンの『ピアノ協奏曲第1番』のDVDを何度も何度もリピートして一日中見ていました。そのころ、僕は上海に住んでいたのですが、2000年のショパン国際ピアノコンクールで優勝し、カーネギーホールデビューを果たしたユンディ・リは、上海では知らない人はいないほどでした。このDVDを見て憧れ、ピアノを始めたといってもいいぐらいです。
そして、もうひとつ、繰り返し見ていたDVDが、ラン・ランがバレンボイムと録音したチャイコフスキーの『ピアノ協奏曲第1番』です。
子どもがウルトラマンのDVDを飽きずに見るのと同じ感じですね。といっても、そのころの僕はあまりにも小さくて、演奏そのものよりも演奏後の拍手やブラボーの声なんかに惹かれていたんだろうと思います。
幼いころはいつか弾きたい憧れの曲でしたが、今では自分でも弾くようになりました。この2曲には深い思い入れがあるからこそ、難しいと感じる曲でもあります。一生かけるつもりで勉強していけたらいいなと思っています。
僕にとっては生活の一部ですし、音楽があったからこそ今の自分があります。
小さいころから母親に「もう、その曲の練習はやめなさい」と言われたことはあっても、「練習しなさい」と言われたことは一度もないんです。ほとんどの時間をピアノと向き合って過ごしていて、昔は離れるのが面倒臭くて勉強もピアノの上でやっていたほどです(笑)。
2012年にデビューするまでは、自己満足のために音楽をやっていた部分が大きくて、自分の音楽によって影響を受ける方がいることが実感できませんでした。でも徐々に、自分が最高だと思える演奏をやるしかない、そうすれば聴いてくださる方にも楽しんでもらえるのでは、と思うようになったんです。
世の中にはすばらしいピアニストはたくさんいますが、“この人でなければ共感できない”というピアニストが僕は好きだし、自分もそんなふうになっていきたい。共感してくださる方がいる限り、自分の音楽をやっていきたいですね。
音楽には捉えきれない、つかみどころがない部分がすごくあるとも感じています。それを探し、勉強していくのが僕のこれからの生活になっていくのかなと思っています。
演奏家に限らず、音楽に携わっている人は僕のなかではみんな「音で遊ぶ人」というイメージです。楽器を演奏しなくても、音楽を聴いたり、音楽の記事を読んだり。音楽が好きでなければ、そういうことはしませんよね。
僕にとっても、音で遊ぶのはすごく楽しい時間です。もともとピアノを遊びの延長でやってきて、それが今の仕事につながっているという感覚なんです。
実は演奏家は、遊ぶために練習するみたいなところがあるんですよ。音楽を純粋に楽しめるように練習するんです。技術があればそれだけ演奏の幅が広がりますし、さまざまなアイデアが出てきたときにも技術がなければ実現することはできないですから。だから僕は、曲の練習ができない日も指練習だけは1日1回絶対やるというルーティーンを決めているんです。
コンサートやアルバムの主役は演奏を聴いてくださる方々。お客様が楽しむ場が基本だと思うので、自分のためだけに演奏しているわけではありません。だから、コンサートなどに関係ない曲を自由に何気なく弾いているときが、僕にとっては本当に音で遊んでいる時間なのかなと思います。
牛田智大〔うしだ・ともはる〕
生後すぐに上海で育ち、小学校入学時に帰国。2008年、8歳で第9回ショパン国際ピアノコンクールin ASIA小学1・2年生部門 アジア大会金賞第1位を皮切りに5年連続で同コンクール大会部門第1位に輝く。2012年12歳でプロデビュー。国内外の交響楽団との共演も多数。2016年9月には通算7枚目となるアルバム『展覧会の絵』をリリース。
牛田智大オフィシャルサイトhttps://www.japanarts.co.jp/artist/TomoharuUSHIDA