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即興と楽曲がグラデーションのように溶け合ったソロ・ピアノ・アルバム『When I Sing』/壷阪健登インタビュー
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2025.1.16
2019年にバークリー音楽大学を首席で卒業。ボストンでの活動を経た後の2020年から日本で活動開始。2023年にスペインのサン・セバスティアン国際ジャズフェスティバルにソロ・ピアノ演奏で招かれたほか、ヤマハホールでソロ・ピアノ・コンサートを開催。さまざまな大舞台を経験した若きピアニスト壷阪健登が2024年5月に待望のファーストアルバム『When I Sing』をリリースした。その発表から半年を経た今、あらためて作品について聞いた。
「このアルバムには、即興演奏だけの曲もあれば、逆に、すべてが譜面に書かれている曲もあります。そうしたオリジナル9曲を盛り込んだソロ・ピアノ・アルバムを作ろうとした時に、一番大切にしたのは、即興と楽曲のふたつがグラデーションのような自然な形で溶け合うようにするということ。そこにチャレンジしようと思いました」
たしかに、『When I Sing』には、躍動的なものや静謐なものなどさまざまな楽曲が並ぶが、何よりも印象的なのは、それらがとても円滑に流れ、ひとつの美しい世界を織りあげていること。その完成度の高さはどこからきているのだろう。
「ひとつには、バークリー音楽大学時代の恩師であるヴァディム・ネセロフスキーがよく話していた、『作曲するように即興して、即興するように作曲をしなさい』という言葉が大きく残っていること。もうひとつは、僕が音の響きを意識して聴くようになったことです。以前は、ソロ演奏というのは事前に用意したものをそのまま弾くことだと思っていたんです。ですが、実際にやってみると、弾いた音がピアノとホールの豊かな響きとして返ってきて、それを聴くことによってインスピレーションが刺激され、それまで思ってもいなかったものが引き出されていくんです。これは何度かのソロ・コンサートを経て気づけたこと。特に、2022年にコンサートグランドピアノCFXで演奏したヤマハホールでのソロ・ピアノ・コンサートは大きな経験でした。ジャズ・ピアニストにとって、キレのよいリズムを生み出すことはとても重要ですが、スピード感豊かなアクションをもつCFXはそういったアプローチに素晴らしい音で応えてくれます。そうしたことがアルバム『When I Sing』につながっています」
「響きを聴いて演奏することのほかに、このアルバムで大切にしたのはメロディの持つ力です。メロディや歌は非常に大きな存在。僕のルーツのひとつになっているのが歌の伴奏なんです。小学校の朝の会で、みんなで歌うときにピアノの伴奏をするのが大好きでした。メロディや歌を大切にするという気持ちは今でも強く持っています」
壷阪が語るように、アルバム『When I Sing』を聴いていると、優しさと高揚感を伴ったアルバム表題曲や、グルーヴ感のある『こどもの樹』など、魅力的な旋律の楽曲が並ぶ。
「『When I Sing』という曲名はアルバムのタイトルにもなっていますが、そのきっかけは、僕も所属するFrom OZONE till Dawnのコ・プロデューサーであり、今回のアルバム制作にも関わっている俳優の神野三鈴さんからお借りした『うたをうたうとき』という、まど・みちおさんの詩集でした。2日目のレコーディングを終え、宿泊先のホテルに戻った夜、ふと手に取って読んでいたら、その詩集の一編がそのときの気持ちにものすごくリンクして。アルバム全体が僕の“歌”であるというステートメントを『When I Sing』というタイトルに込められるのではないかと思ったんです。
『こどもの樹』は岡本太郎さんの作品からインスパイアされて書いた曲です。こどもたちがそれぞれの個性を自由に伸ばしていけるようにという太郎さんの願いを込めて書きあげました」
さまざまな思いを込めて作りあげたアルバム『When I Sing』についてあらためて振り返ってもらった。
「ソロ・ピアノ演奏にあるのは僕とピアノだけ。シンセサイザーのように、いろいろな音を出してみようというわけにもいきません。僕の頭にあるイマジネーションを、どうやったらピアノという楽器一つで表現することができるんだろう?と自問しながら過ごす日々でしたが、今回のレコーディングを通してピアノという楽器に改めて向き合う中で、今までとは違うアイディアやアプローチが聴こえてくるようになりました。『When I Sing』は今の自分自身を表現しているアルバムであると同時に、音楽性をさらに前に進めるための大きな基盤にもなったような気がしています」
壷阪が真摯にピアノに向き合って生み出した『When I Sing』。このアルバムを聴けば、彼の洋々たる未来が見えてくることだろう。
発売元:ユニバーサルミュージック
発売日:2024年5月15日
料金(税込):3,300円
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文/ 早田和音
photo/ 宮地たか子
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tagged: ピアノ, インタビュー, アルバム, 壷阪健登
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