Web音遊人(みゅーじん)

ウィーンの品格と本格派の音楽を堪能できる大阪の極上空間/いずみホール

扉を開いてシューボックス型ホールの中に足を踏み入れると、何ともいえない品位とゴージャス感が漂う空間が出迎えてくれる。落ち着いた木の雰囲気がもたらす独特の静けさがあり、天井から下がる8基のシャンデリアが高級感を演出。正面に据えられたパイプオルガンが揺るぎのない誇りを表しているかのようだ。

1990年4月に開館し、2020年が30周年となるいずみホールは、大阪城を中心とした広大な公園の近く、企業ビルや一流ホテルなどが立ち並ぶ大阪ビジネスパークの一角に建つホールだ。関西エリアでも珍しい席数821というサイズのクラシック専用ホールとして親しまれ、オーケストラから種々の編成による室内楽、ピアノやパイプオルガン等のソロリサイタル、古楽系のアンサンブル、そして歌声が豊かに響くと評判の声楽(オペラ、合唱を含む)ほか、さまざまなカテゴリーによる音楽を堪能することができる。

ホール内部のデザインは独特の品格を感じさせるが、手本となっているのは由緒あるウィーンの「楽友協会大ホール」だ。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地であり、毎年、世界中の国々でライブ中継されているニューイヤーコンサートの映像で、そのきらびやかなホール内部を目にした人も多いだろう。

それゆえだろうか、開館時より国外の著名な演奏家たちが次々に来演して極上の音楽を響かせたほか、モーツァルトの作品にスポットライトを当てた『マイ・ディア・アマデウス』をはじめ、ベートーヴェンやシューベルトなどウィーンで活躍した作曲家たちのシリーズも好評。ホールの人気を決定づけたといえるだろう。

「開館当初から、いずみホールとしての特徴をアピールできる主催公演や企画を模索し、さまざまなシリーズを開催しながら約30年という歴史を積み上げてきました。特に開館時より音楽ディレクターを務めていただいた礒山雅(いそやまただし)先生(2018年2月に逝去)が『未来と過去』というテーマのもとで魅力的なプログラムを組んでくださり、このサイズの空間を生かした多彩な音楽を提供できたことは、ホールとしての存在価値を高めたと言えます」(企画部・広報編集グループリーダー 北嶋優さん)

その「未来と過去」というテーマは、開館当初から、バロック音楽を軸とした「音楽の原点への旅」と現代音楽を軸とした「音楽の未来への旅」という2つのシリーズにより具体化され、その伝統は現在まで続く。

「礒山先生が世界的なバッハの権威だったこともあり、多くの作品を網羅してきました。特にフランス・ケーニヒ社製のパイプオルガンによる『バッハ・オルガン作品連続演奏会』『バッハ・オルガン作品全曲演奏会』(2007〜2018年)は、たくさんのお客様に関心をもっていただき、現在も『バッハ・オルガン作品演奏会アンコール』として継続中です。オルガン音楽に関しては、楽器を有するホールとして、作品を紹介し続け、奏者に演奏の機会を提供しつつ、ファンを増やしていくという使命があると言えます。現在進行中の『古楽最前線』シリーズ(2018~2020)では、1年目に中世・ルネサンス~モンテヴェルディまでの初期バロックの音楽を国内外の一流アーティストの演奏でお聴きいただきました。2019年はバッハ以外の中後期バロックを、2020年はバッハを特集します」(北嶋さん)

自慢のパイプオルガンは、2018年の大改修で、リフレッシュ。パイプの補修・清掃によって音もクリアになった。またチェンバロやフォルテピアノも所有しているため、バロックから古典派音楽の企画が充実することは間違いない。

その一方で「未来」、つまり現代最先端の作品を中心としたコンサートにもファンが多く、2000年に結成されたこのホールのレジデント・オーケストラ「いずみシンフォニエッタ大阪」の定期演奏会は、新作初演も含む多くの作曲家の作品を紹介し続けている。YouTubeなどSNSで情報を発信したり安価な学生券を販売するなど、評価すべき面白い音楽があることを多くの人に伝えたいということだ。

「それぞれのシリーズに熱心なお客様が多い中、ホールとしては『いろいろな音楽をまんべんなく』という考え方がベースなので、いずみホールでの演奏会をきっかけに、未知の音楽に出会っていただければうれしいですね。在阪オーケストラのコンサートや、ホールの音響を生かしたジャズコンサートもありますし高名な先生によるレクチャー付きのコンサートも好評です。今後は現時点でまだ余地を残している分野、たとえば昼間のコンサートを充実させることも考え、10年間続けているユースシート(小学生以上18歳以下は無料でコンサートを楽しめるチケット)を活用して、若い人たちに素晴らしい音楽との出会いを提供していきたいと思います」(北嶋さん)

この10年ほどで、関西エリアには新しいコンサートホールが増えた。そうした中で30年という歴史をもついずみホールは、リーダー的な存在としてますます注目されていくだろう。

いずみホール

所在地:大阪府大阪市中央区城見1丁目4-70
TEL:06-6944-2828
ホール形式:シューボックス形式
席数:821席(車椅子4席含む)
詳細はこちら

特集

今月の音遊人:仲道郁代さん「多様性こそが音楽の素晴らしさ、私自身もまだまだ変化していきます」

今月の音遊人

今月の音遊人:仲道郁代さん「多様性こそが音楽の素晴らしさ、私自身もまだまだ変化していきます」

11744views

徳永二男、堤剛、練木繁夫

音楽ライターの眼

近年稀にみる名演に、言葉を失う/徳永二男、堤剛、練木繁夫による珠玉のピアノトリオ・コンサートVol.5

5540views

CLP-800シリーズ

楽器探訪 Anothertake

グランドピアノの演奏体験を全身で感じられる電子ピアノ── クラビノーバ「CLP-800シリーズ」

2750views

エレキベース

楽器のあれこれQ&A

エレキベースを始める前に知りたい5つの基本

7035views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8965views

トーマス・ルービッツ

オトノ仕事人

アーティストに寄り添い、ともに楽器の開発やカスタマイズを行うスペシャリスト/金管楽器マイスターの仕事

2751views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

7770views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

15194views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

12565views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

8462views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

9067views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10857views

ホルンの精鋭、福川伸陽が アコースティックギターの 体験レッスンに挑戦! Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ホルンの精鋭、福川伸陽がアコースティックギターの体験レッスンに挑戦!

11462views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20790views

伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル

音楽ライターの眼

N響コンサートマスターと6人の名手ならではの極上のアンサンブル/伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル

1629views

オトノ仕事人

あらゆるトラブルに対応できる、優れたリペア技術者を世に送り出す/管楽器のリペア技術者を育てる仕事

7779views

われら音遊人

われら音遊人:みんなの灯をひとつに集め、大きく照らす

6179views

楽器探訪 Anothertake

ナチュラルな響きと多彩な機能で電子ドラムの可能性を広げる、新たなフラッグシップモデルDTX10/DTX8シリーズ

5091views

秋田ミルハス

ホール自慢を聞きましょう

“秋田”の魅力が満載/あきた芸術劇場ミルハス

6290views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

5219views

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

楽器のあれこれQ&A

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

17598views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

7383views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26835views