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今月の音遊人:東儀秀樹さん 「“音で遊ぶ人”といえば僕のことでしょう。どのような楽器の演奏でも、楽しむことだけは忘れません」
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映画『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』公開。ロックは何度でもリバイバルする
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2023.9.14
tagged: 音楽ライターの眼, リバイバル69 ~伝説のロックフェス~, トロント・ロックンロール・リバイバル, ザ・プラスチック・オノ・バンド
映画『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』が2023年10月6日(金)全国ロードショー公開となる。
1969年8月13日、カナダのトロント“ヴァーシティ・スタジアム”で行われたライヴ・イベント“トロント・ロックンロール・リバイバル”にはザ・ドアーズ、ザ・プラスチック・オノ・バンド(ジョン・レノン、ヨーコ・オノ、エリック・クラプトン)、チャック・ベリー、リトル・リチャードらが出演。2週間前の“ウッドストック・フェスティバル”に40万人といわれる大観衆が集まったのと較べると規模はささやかなものの、2万人を動員。このイベントはD.A.ペネベイカー監督によって撮影され、映画『スウィート・トロント』(1971)として公開。またザ・プラスチック・オノ・バンドの演奏は『平和の祈りをこめて Live Peace In Toronto 1969』(1969)としてアルバム化されている。
それらの作品はザ・プラスチック・オノ・バンドの初ライヴ・パフォーマンスを中心としたものだったが、『リバイバル69』はイベント全体をドキュメントした作品だ。
ケン・ウォーカーとジョン・ブラウワーという、共に20代前半の若者たちが企画した“トロント・ロックンロール・リバイバル”。そのイベント名のとおり、当初はチャック・ベリー、リトル・リチャード、ボ・ディドリー、ジーン・ヴィンセント、ジェリー・リー・ルイスという1950年代ロックンロールの大物スターが総登場する“リバイバル”コンサートとして企画されていた。だが、当時ロック・ミュージックには“新しい波”が訪れていた。ザ・ビートルズはロックの可能性を押し広げていたし、ジミ・ヘンドリックスやピンク・フロイドらもデビュー、1950年代は遠い昔という認識だった。この時代の音楽は映画『アメリカン・グラフィティ』(1973)などで“オールディーズ”として再評価を受けるが、1969年当時は時代遅れという扱いを受けていた。そんなせいもあり、チケットの売れ行きは惨憺たるものだった。
そうして目玉アーティストとして投入されたのがザ・ドアーズだった。同年3月にシンガーのジム・モリスンがステージ上で自らの股間を露出して逮捕されるという“マイアミ事件”(実際には露出しなかった説も)を起こしていたものの、人気は衰えていなかった。
だが、彼らの出演が発表されてからもチケットのセールスは伸びず、さらなるテコ入れとしてジョン・レノンにMCを頼むという話が持ち上がる。
イベントまで1週間を切ったギリギリのタイミングでの依頼だったが、出演ラインアップを見たジョンは「やる」と即答。当時まだザ・ビートルズの一員だったもののライヴから遠ざかっていたこともあり、自分とヨーコ、そしてエリックからなる新バンドでライヴを行うという話にまで発展していく。このやり取りを録音したテープ音源も収録されている。さらに出発する前日になって「やっぱり行けない」と言い出すも、説得されてアメリカに向かうが、飛行機内でリハーサルしたという描写はスリリングだ。そうしてジョン&ヨーコ御一行は80台のバイカー軍団に先導されて会場入りを果たす。
当日、ステージ上で起こったことはそれと同じ、いや、それ以上にスリリングだった。この映画では出演アーティスト達のライヴ・パフォーマンスを映画館の大スクリーンでエクスペリエンスすることが出来る。シカゴへと発展する若きシカゴ・トランジット・オーソリティのブラス・ロックはエネルギーに満ちており、その才覚の片鱗を見せている。
本作で楽しいのは、このイベントが単なる“リバイバル”に留まることなく、新旧ミュージシャン達が邂逅し、時に火花を散らしながらぶつかり合う瞬間が何度もあることだ。チャック・ベリーがリハーサルをせず、イントロを弾き始めるまでどの曲かバック・バンドにも教えられていないというのは有名な逸話だが、ここでは地元バンドのニュークリアスが絶妙なサポートぶりで付いていく。そんなチャックの演奏をザ・ドアーズがステージ袖から見ているスチル写真も使われている。ジーン・ヴィンセントのバックを若手時代のアリス・クーパーが務め(当時はバンド名義だった)、新旧ロックンロールのスターがひとつのステージに立つ光景は見ていて興奮させられるし、アリスが生きたニワトリを観衆の中に投げ込むシーンはイベントの混沌を象徴するものだ。
ザ・プラスチック・オノ・バンドのライヴ・シーンは『スウィート・トロント』で見た人も多いだろうが(細かいテイク違いなどは確認していない)、ライヴ単独で見るのと、ひとつの流れの産物として見るのではかなり印象が異なる。もちろん結果がすべてであることも事実であり、新バンドの曲が実質「冷たい七面鳥」「平和を我等に」のみ、リハーサル不足も否めないが、このライヴが実現したこと自体が奇跡であることを再認識させられる。前半をオールディーズのカヴァーで固めた彼らのセット・リストも、このイベントの趣旨に合致しているだろう。
ザ・ドアーズの演奏が撮影されなかったのは残念ではあるものの、『リバイバル69』はとてつもない満足を与えてくれるロックンロール・スペクタクルであり、歴史的なドキュメントだ。
本作には出演アーティストや関係者たちが当時を振り返るインタビューも収録されているが、注目なのはレコード・デビュー前のラッシュのゲディ・リーが観客として会場を訪れており、思い出を語っていること。彼はラッシュの初代ドラマーだったジョン・ラッツィと一緒で、「何を食べたかも覚えていない。いや、何か食べたかすらも」と、当日の興奮について話している。
1950年代のロックンロールが1960年代にリバイバルしたライヴ・イベントが、2023年に映画となってリバイバルする。ロックンロールは死なない。何度だって蘇るのである。
2023年10月6日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町ほか全国公開
監督:ロン・チャップマン
2022年/カナダ、フランス/英語/99分/カラー/5.1ch/ビスタ
原題:REVIVAL69: The Concert That Rocked the World
字幕翻訳:川田菜保子
字幕監修:萩原健太
提供:東北新社、バップ
配給:STAR CHANNEL MOVIES
© ROCK N' ROLL DOCUMENTARY PRODUCTIONS INC., TORONTO RNR REVIVAL PRODUCTIONS INC., CAPA PRESSE (LES FILMS A CINQ) 2022
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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