Web音遊人(みゅーじん)

映画『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』

映画『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』公開。ロックは何度でもリバイバルする

映画『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』が2023年10月6日(金)全国ロードショー公開となる。

1969年8月13日、カナダのトロント“ヴァーシティ・スタジアム”で行われたライヴ・イベント“トロント・ロックンロール・リバイバル”にはザ・ドアーズ、ザ・プラスチック・オノ・バンド(ジョン・レノン、ヨーコ・オノ、エリック・クラプトン)、チャック・ベリー、リトル・リチャードらが出演。2週間前の“ウッドストック・フェスティバル”に40万人といわれる大観衆が集まったのと較べると規模はささやかなものの、2万人を動員。このイベントはD.A.ペネベイカー監督によって撮影され、映画『スウィート・トロント』(1971)として公開。またザ・プラスチック・オノ・バンドの演奏は『平和の祈りをこめて Live Peace In Toronto 1969』(1969)としてアルバム化されている。

それらの作品はザ・プラスチック・オノ・バンドの初ライヴ・パフォーマンスを中心としたものだったが、『リバイバル69』はイベント全体をドキュメントした作品だ。

新旧ラインアップが揃った伝説のライヴ・イベント

ケン・ウォーカーとジョン・ブラウワーという、共に20代前半の若者たちが企画した“トロント・ロックンロール・リバイバル”。そのイベント名のとおり、当初はチャック・ベリー、リトル・リチャード、ボ・ディドリー、ジーン・ヴィンセント、ジェリー・リー・ルイスという1950年代ロックンロールの大物スターが総登場する“リバイバル”コンサートとして企画されていた。だが、当時ロック・ミュージックには“新しい波”が訪れていた。ザ・ビートルズはロックの可能性を押し広げていたし、ジミ・ヘンドリックスやピンク・フロイドらもデビュー、1950年代は遠い昔という認識だった。この時代の音楽は映画『アメリカン・グラフィティ』(1973)などで“オールディーズ”として再評価を受けるが、1969年当時は時代遅れという扱いを受けていた。そんなせいもあり、チケットの売れ行きは惨憺たるものだった。

そうして目玉アーティストとして投入されたのがザ・ドアーズだった。同年3月にシンガーのジム・モリスンがステージ上で自らの股間を露出して逮捕されるという“マイアミ事件”(実際には露出しなかった説も)を起こしていたものの、人気は衰えていなかった。

だが、彼らの出演が発表されてからもチケットのセールスは伸びず、さらなるテコ入れとしてジョン・レノンにMCを頼むという話が持ち上がる。

イベントまで1週間を切ったギリギリのタイミングでの依頼だったが、出演ラインアップを見たジョンは「やる」と即答。当時まだザ・ビートルズの一員だったもののライヴから遠ざかっていたこともあり、自分とヨーコ、そしてエリックからなる新バンドでライヴを行うという話にまで発展していく。このやり取りを録音したテープ音源も収録されている。さらに出発する前日になって「やっぱり行けない」と言い出すも、説得されてアメリカに向かうが、飛行機内でリハーサルしたという描写はスリリングだ。そうしてジョン&ヨーコ御一行は80台のバイカー軍団に先導されて会場入りを果たす。

映画『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』

新旧ミュージシャンが邂逅、火花を散らし合うライヴ

当日、ステージ上で起こったことはそれと同じ、いや、それ以上にスリリングだった。この映画では出演アーティスト達のライヴ・パフォーマンスを映画館の大スクリーンでエクスペリエンスすることが出来る。シカゴへと発展する若きシカゴ・トランジット・オーソリティのブラス・ロックはエネルギーに満ちており、その才覚の片鱗を見せている。

本作で楽しいのは、このイベントが単なる“リバイバル”に留まることなく、新旧ミュージシャン達が邂逅し、時に火花を散らしながらぶつかり合う瞬間が何度もあることだ。チャック・ベリーがリハーサルをせず、イントロを弾き始めるまでどの曲かバック・バンドにも教えられていないというのは有名な逸話だが、ここでは地元バンドのニュークリアスが絶妙なサポートぶりで付いていく。そんなチャックの演奏をザ・ドアーズがステージ袖から見ているスチル写真も使われている。ジーン・ヴィンセントのバックを若手時代のアリス・クーパーが務め(当時はバンド名義だった)、新旧ロックンロールのスターがひとつのステージに立つ光景は見ていて興奮させられるし、アリスが生きたニワトリを観衆の中に投げ込むシーンはイベントの混沌を象徴するものだ。

映画『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』

ザ・プラスチック・オノ・バンドのライヴ・シーンは『スウィート・トロント』で見た人も多いだろうが(細かいテイク違いなどは確認していない)、ライヴ単独で見るのと、ひとつの流れの産物として見るのではかなり印象が異なる。もちろん結果がすべてであることも事実であり、新バンドの曲が実質「冷たい七面鳥」「平和を我等に」のみ、リハーサル不足も否めないが、このライヴが実現したこと自体が奇跡であることを再認識させられる。前半をオールディーズのカヴァーで固めた彼らのセット・リストも、このイベントの趣旨に合致しているだろう。

ザ・ドアーズの演奏が撮影されなかったのは残念ではあるものの、『リバイバル69』はとてつもない満足を与えてくれるロックンロール・スペクタクルであり、歴史的なドキュメントだ。

本作には出演アーティストや関係者たちが当時を振り返るインタビューも収録されているが、注目なのはレコード・デビュー前のラッシュのゲディ・リーが観客として会場を訪れており、思い出を語っていること。彼はラッシュの初代ドラマーだったジョン・ラッツィと一緒で、「何を食べたかも覚えていない。いや、何か食べたかすらも」と、当日の興奮について話している。

1950年代のロックンロールが1960年代にリバイバルしたライヴ・イベントが、2023年に映画となってリバイバルする。ロックンロールは死なない。何度だって蘇るのである。

■インフォメーション

映画『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』

2023年10月6日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町ほか全国公開
監督:ロン・チャップマン
2022年/カナダ、フランス/英語/99分/カラー/5.1ch/ビスタ
原題:REVIVAL69: The Concert That Rocked the World
字幕翻訳:川田菜保子
字幕監修:萩原健太
提供:東北新社、バップ
配給:STAR CHANNEL MOVIES
© ROCK N' ROLL DOCUMENTARY PRODUCTIONS INC., TORONTO RNR REVIVAL PRODUCTIONS INC., CAPA PRESSE (LES FILMS A CINQ) 2022

詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

ジェイク・シマブクロ

今月の音遊人

今月の音遊人:ジェイク・シマブクロさん「音のかけらを組み合わせてどんな音楽を生み出せるのか、冒険して探っていくのは楽しい」

10813views

『しーそー』というアルバムに隠れていた“デュオの変化”というヒント

音楽ライターの眼

『しーそー』というアルバムに隠れていた“デュオの変化”というヒント

4260views

reface

楽器探訪 Anothertake

コンパクトなボディに優れた操作性が溶け込んだデザイン

7064views

楽器のあれこれQ&A

エレクトーンについて、知っておきたいことや気をつけたいこと

28171views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

9923views

ヤマハ株式会社 神島由幸さん

オトノ仕事人

楽器になる樹木と最前線で向き合い、職人の元へ届ける/楽器用木材調達の仕事

493views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

14132views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

8732views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15537views

われら音遊人:高度&骨太なサウンドにソウルフルな歌声が響く!

われら音遊人

われら音遊人:高度&骨太なサウンドにソウルフルな歌声が響く!

1226views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

5277views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

34970views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

13597views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

9584views

伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル

音楽ライターの眼

N響コンサートマスターと6人の名手ならではの極上のアンサンブル/伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル

2102views

オトノ仕事人

コンサートの音の責任者/サウンドデザイナーの仕事

14708views

武豊吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人: 地域の人たちの喜ぶ顔を見るために苦しいときも前に進み続ける

2822views

【楽器探訪 Another Take】ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

楽器探訪 Anothertake

ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

12395views

紀尾井ホール

ホール自慢を聞きましょう

専属の室内オーケストラをもつ日本屈指の音楽ホール/紀尾井ホール

17663views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6765views

楽器のあれこれQ&A

いつも清潔にしておきたい!ピアニカのお手入れ、お掃除方法

390548views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

12447views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

34970views