今月の音遊人
今月の音遊人:大江千里さん「バッハのインベンションには、ポップスやジャズに通じる要素もある気がするんです」
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平成の時代になって、客席数が1,000未満の室内楽・リサイタルホールが注目を集めるようになった。2001年、東京の銀座や築地にほど近い湾岸エリアの晴海に開館した第一生命ホールもそのひとつ。室内楽の中でも特に「究極のアンサンブル形態」といわれる弦楽四重奏にスポットライトを当て、開館当初からクラシック音楽ファンの注目を集めてきたホールである。
その前身は、同じ東京の日比谷で1952年から音楽(特に室内楽)の発展に寄与してきた同名のホール。第一生命保険相互会社(当時)の本社ビルにあり、閉館した1989年まで多くの名演奏を生み出してきた由緒ある場所だ。それゆえに、室内楽を普及することに対する誇りやこだわりも受け継いでいるのだろう。
テレビドラマのロケで使用されることも多い「晴海トリトンスクエア」というビジネスタウン内にあるこのホールだが、扉を開けて中へ足を踏み入れると、明るくゆったりとした雰囲気に心がなごむ。ステージ、壁面、そして座席など多くが白木を使っており、視覚的にも開放感を味わえる空間だが、形状が「オーバル(楕円形)型」であることも大きな特徴だろう。
「室内楽中心ですので、やはり楽器の音ひとつひとつが明快で、しかもお客様すべてに届くよう壁面などにはさまざまな工夫が施されています」(中村俊哉支配人)
767席という中規模のホールながら、客席の中にいると広くゆったりとした空間であるという印象も強い。天井が高く、しかも1階席の横幅が広いため、窮屈さをまったく感じさせないのが特長だ。そのためか音も粒立ちが明快でありながら豊かに大きく広がり、聴き手を包み込むように響く。
「特に好評をいただくのは合唱団の方々ですね。歌声が豊かに響いて素晴らしいという声が多く、さらにはステージと客席が近いため、家族や友人が歌っているときには顔がよく見えるというご意見もありました。著名なプロの合唱団である東京混声合唱団には、長く定期演奏会でお使いいただいていますし、2018年の夏には『東京国際合唱コンクール』も当ホールで開催されましたので、室内楽と並行して合唱の聖地になることにも期待しています」(中村支配人)
ホール主催公演は年間で30ほどあり、ベテランから若手までの弦楽四重奏団によるコンサートや著名な器楽奏者によるリサイタル、そしてこのホールを拠点とする「トリトン晴れた海のオーケストラ」(在京オーケストラの一流奏者などが集結した室内管弦楽団)が意欲的なコンサートを行っている。平日のランチタイムに開催されるトーク付きのコンサートシリーズ「昼の音楽さんぽ」や親子向けの「子どもと一緒にクラシックシリーズ」も毎回好評だ。
この主催公演を企画・運営しているのが、開館当初に立ち上げられた認定NPO法人の「トリトン・アーツ・ネットワーク」。第一生命ホールの意向も反映させつつ二人三脚で種々のコンサートを行い、多くのクラシック音楽ファンを魅了している。
「開館以来の根幹として、『クァルテット・ウィークエンド』シリーズほか弦楽四重奏によるコンサートはこれからも主催公演の中心であり続けますし、弦楽四重奏を聴くことが人生の糧に思えるような環境を用意することも私たちの役目だと感じています。ベートーヴェンの交響曲などを演奏する『トリトン晴れた海のオーケストラ』の存在も大きく、周辺地域の皆様に“私たちの街にはホールがあり、オーケストラもある”と思っていただければありがたいです」(トリトン・アーツ・ネットワークの田中玲子プロデューサー)
さらに、晴海エリアのオリンピック選手村跡地には、12,000人が暮らす「ハルミフラッグ」という巨大な街が誕生する。まさに新しい街作りが現在進行形で行われていることも見逃せない。2001年にホールが開館したときと比べて中央区の人口は倍増しており、特に子供を含むファミリー層が圧倒的な増加を見せているのだ。
「そうした方たちにも音楽が好きになっていただけるよう、ホール内でもさまざまなコンサートを行っていますが、同時に周辺の小学校などを訪問してアウトリーチを行ったり、新旧住民の皆様に音楽を通じて交流いただけるようなコミュニティ事業も積極的に行っています。民間のホールでありながら行政(中央区)と連携して地域の文化発展をサポートしている例は、全国で珍しいかもしれません」(田中プロデューサー)
東京という巨大都市の中には多くのコンサート専用ホールがある中、地域特性を活用しながら未来へのビジョンを指向している第一生命ホール。音楽専用ホールの社会的な役割を再認識させられる、注目すべきスポットだといえるだろう。
所在地:東京都中央区晴海1-8-9
TEL:03-3532-3535
ホール形式:オーバル形
席数:767席
文/ オヤマダアツシ
tagged: ホール自慢を聞きましょう, 第一生命ホール
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